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大阪労働局労働基準部安全課 石井聡課長  【平成30年06月25日掲載】

スローガン「新たな視点でみつめる職場 創意

と工夫で安全管理 惜しまぬ努力で築くゼロ災」


「リスク “ゼロ” 大阪推進運動」を展開


 第91回全国安全週間が今年も7月1日から7日まで、厚生労働省大阪労働局らの主唱、建設業労働災害防止協会大阪府支部らの協賛を得て、「新たな視点でみつめる職場 創意と工夫で安全管理 惜しまぬ努力で築くゼロ災」をスローガンに展開される。昭和3年に実施されて以来、「人命尊重」という基本理念の下、一度も中断することなく続けられている。一方、大阪府内の建設業における死傷者数は、この数年間は堅調な減少傾向にあるとはいえ、昨年の死亡者数については20人となり、前の年の11人から大幅に増加した。なお依然として、墜落・転落災害による死傷者数が多くを占める。
 このため大阪労働局では、「リスクゼロ¢蜊辮юi運動」を積極的に展開。フルハーネス型安全帯使用の普及推進を図る「命綱GO活動」や、自ら考え行動できる教育を推進する「安全活動」など五つの活動を着実に実施していく。これら災害防止活動の中心的な役割を担う大阪労働局労働基準部安全課の石井聡課長に安全行政の取組みなどについて聞いた。

■まずは昨年の大阪府下の労働災害発生状況についてお聞かせ下さい。

石井課長 大阪府内における平成29年の休業4日以上の死傷者数は平成28年と比べて220件増加し、8345人となりました。また、死亡者数についても60人と平成28年より9人増加しています。
 しかし、大阪府内の建設業における死傷者数はここ数年堅調な減少傾向にあり、平成29年は660人と3・1%の減少となっています。このうち249人が墜落・転落によるものであり、37・8%を占めています。
 一方、建設業での死亡者数は20人で、平成28年の11人から大幅に増加しました。特に死亡者数のうち九人が墜落・転落によるもので、全体の半数近くを占めています。
 その発生状況を見てみますと、「足場の解体作業中に墜落」、「屋上階の防水シート張り替え作業中にパラペットを越えて墜落」、「高所作業車から身を乗り出して墜落」などで、いずれも、作業床や手すりの設置をはじめ、安全帯を確実に使用するなど、基本的な墜落防止対策が講じられていれば防げたものがほとんどです。労働安全衛生規則の遵守はもちろんのこと、安全な作業手順を遵守すること。また、職長や同僚による声かけの実施など、基本的対策の徹底が何よりも重要であると考えています。

■建設業界挙げて、さらなる基本対策の周知徹底が必要です。ところで全国からみた大阪の状況については。

石井課長 全国の平成29年の労働災害による死亡者数は978人で、平成28年の928人に比べ50人増加しました。全国で死亡災害が5・4%の増加に転じた中、大阪局でも増加に転じ、しかも17・6%もの大幅な増加となりました。
 死亡者数が多い業種は、建設業が323人で最も多く、製造業が160人、陸上貨物運送事業が137人となっています。
 建設業での死亡災害は、全国では前年に比べ29人、9・9%増加しており、大阪では20人と前年に比べ9人、81・8%増加と、こちらも大幅に増加しました。さらに、死亡災害の内、墜落災害の占める割合については、全国では41・8%の135件ですが、大阪では45%の9人と全国よりかなり高い状況となっています。
 したがって、現在大阪局が取り組んでいる、「命綱GO活動」をさらに推進し、墜落災害による死亡者数を減少させる必要があります。

■今年度の大阪労働局の目標と重点事項については。

石井課長 今年度は、平成30年度を初年度とする大阪労働局第13次労働災害防止推進計画の初年度であり、大阪局では死傷災害を平成29年と比べて5%以上減の7927人以下に、死亡災害を15%減の51人以下とすることを目標としています。
 なお、この目標を達成するため、「リスクゼロ¢蜊辮юi運動」を展開しています。この運動は工場、現場、事務所、店舗などの職場に潜むリスクの洗い出しを行い、これに基づき設備の改善、作業手順の見直し、安全衛生教育の実施などの対策の徹底により、災害のリスクをなくし、「正規」「非正規」等の区別無く、全ての労働者の健康が確保され、安全・安心に働くことができる職場の実現に取り組むものです。
 具体的な内容としては、今年度政省令改正が予定されているフルハーネス型安全帯使用の普及促進を図ることを目的とする「命綱GO活動」、指示された作業を適正に行うだけではなく、自ら考えて行動できる教育を推進する「安全Study活動」、リスクアセスメントを広く定着させるための「リスク評価推進活動」など5つの活動を実施することとしています。

■建設業における取組及び注意事項について教えてください。

石井課長 建設業における死亡者数が平成30年4月末現在で7人と、平成29年の同時期に比べて40%の増加、平成28年に比べると250%の増加となっています。特に事故の型別で見たときには墜落・転落災害が4人と、全体の57%を占めており、大阪労働局第13次労働災害防止推進計画の目標達成のためには、何としても墜落・転落災害を防止する必要があります。
 リスクゼロ¢蜊辮юi運動の活動の一つである「命綱GO活動」では安全帯の掛け替え時の墜落防止や、万が一墜落しても墜落時の衝撃を緩和する二丁掛けフルハーネス型安全帯の使用の促進を進めています。特に、フルハーネス型安全帯につきましては、今年度に政省令改正が予定されており、その周知・指導を行うこととしております。さらに、この活動の一環として、6月1日には大阪労働局長による建設現場の安全衛生パトロールを実施したところです。皆様方にも、この活動の趣旨をご理解いただき、積極的に墜落防止への取組をお願いいたします。
 また、今年も熱中症に注意が必要な季節になりました。昨年は大阪府内での熱中症による死亡者数は1人でしたが、休業4日以上の死傷者数は27人と毎年のように多数発生しています。昨年に引き続き、5月1日から9月30日までを「STOP!熱中症クールワークキャンペーン」として啓発に取り組んでいます。死亡者ゼロを目指し、異常を認めたときはすぐに救急車を呼ぶなど、「体調が悪いです」と上司に伝えやすい職場環境の実現をお願いいたします。
 最後に、大阪の経済活動は回復傾向を示しており、雇用情勢においても本年4月の有効求人倍率が1・73倍となるなど着実に改善している中、2025年開催の万国博覧会の誘致が実現すればさらに活気溢れる大阪となっていくことが期待されます。
 一方、景気回復により仕事の需要があっても人手が足りないとの声もあちらこちらで聞くところです。そういった状況の中で、限りある人員の中でのマンパワーのみに頼ることとなれば、長時間労働が続き、過重労働から脳心臓疾患やメンタルヘルス不調へと発展していくおそれがあり、ひいてはますます人材確保が困難になることも懸念されます。
 建設業に人が集い、魅力的であるためには「安全で安心して働ける職場環境の整備」が重要であり、労働災害の防止はもちろんですが、長時間労働の抑制や週休二日制の導入等の働き方改革に積極的に取り組んで行かなければなりません。そのためにも、皆様方には働き方改革の先導役としてお力を存分に発揮していただくことを期待しています。

■本日はありがとうございました。これからも災害防止に向けてご尽力ください。

 
 
(いしい・さとし)
平成26年4月大阪中央労働基準監督署安全衛生課長、同28年4月大阪労働局監督課長補佐、同29年4月から現職


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