日刊建設新聞社   CO−PRESS.COM
近畿地方整備局 杉中洋一港湾空港部長  【平成30年03月26日掲載】

新たな港湾機能の創造に向けて

阪神港 さらなる国際競争力の充実と強化

世界最高水準の生産性有する「AIターミナル」実現へ


 国際インフラである港湾は、経済活動や物流拠点として不可欠なものであり、また、近年では大型クルーズ船の受入れなど、その整備にあたっては、従来の機能拡充に加え、新たな取組みが求められている。近畿における港湾整備をリードする近畿地方整備局港湾空港部では、国際戦略港湾の阪神港を中心に、国際競争力の強化をはじめ、防災・減災対策等の様々な施策を展開している。それら施策を統括する杉中洋一部長に、港湾における生産性向上の取組みや今後の事業展開について聞いた。

■初めに阪神港での取組みについて。

 国際コンテナ戦略港湾である阪神港では競争力の充実と強化を目指します。2010年に国際コンテナ戦略港湾に選定され、その後、大阪・神戸両港の埠頭株式会社が経営統合して、阪神国際港湾会社を設立し、その後国も出資を行うことで、国と港湾管理者、民間のオールジャパンで運営する体制を構築しました。現在では「集貨」「創貨」「競争力強化」による国際コンテナ戦略港湾の深化・加速に努めています。
 集貨に関しては、内貿フィーダーの集約を積極的に進め、平成29年度には、神戸港において過去最高となる約292万TEUのコンテナ貨物取扱量を記録し、阪神淡路大震災前のレベルにまで回復しました。引き続き、基幹航路を維持するため、西日本を中心に貨物を集める等の取組みを行っていきます。このほか、アジアダイレクト航路を含めた航路ネットワーク網を進展させたいと考えています。
 創貨では、貨物を集め創り出すということで、国の無利子貸付制度や補助制度を活用して倉庫の立地を促進しています。競争力強化では、神戸港のポートアイランドPC―15から17・18、六甲アイランドRC6・7と、大阪港の夢洲ターミナルにおいて、岸壁の改良・耐震化工事や浚渫工事を進めています。
 現在、国と港湾管理者、阪神国際港湾会社、船主や荷主等が参画するアジア広域集荷プロジェクトチームにおいて、アジアに進出している日本企業からの北米向け貨物について、日本以外でトランシップされている貨物を阪神港に取り込むためのトライアルを検討しています。既に昨年、一部でトライアルを実施しており、来年度も引き続き検討していきます。阪神港に関しては、内航フィーダー貨物とともに、海外でトランシップされている貨物もターゲットにしていく必要もあると思っています。

■ターミナルに関しては、「AIターミナル」構想が打ち出されております。

 AIターミナルについては、港湾局で検討されており、将来的には阪神港へも導入されていくものと考えています。神戸港PC―18においては平成28年度から3年計画で荷役機械の遠隔操作化に関する実証実験を行っています。既に世界の主要港ではコンテナターミナルの自動化が進んでいます。日本でも将来の労働力不足が懸念されている中で,安全で快適な労働環境を確保しつつ、世界最高水準の生産性を有する「AIターミナル」の実現を目指していきます。
 さらに、今後は事前にトラックの情報を把握し、ターミナル内の渋滞を緩和するETC2・0サービスとの連携も考えています。

大規模災害に備え

■防災・減災対策では。

 地震津波対策としては、連携がキーワードになることから、堺泉北港堺2区の基幹的広域防災拠点で、毎年、関係者とテーマを設定しながら合同防災訓練を実施して非常時に備えています。ただ、地震発生後は救援物資が船で運ばれて来ますが、現在供用中の岸壁において、大型の救援物貨物輸送船への対応を検討する必要があります。また、施設の機能拡充や拡張の計画もあることから、それらを防災拠点にどう組み入れていくかが課題になっています。
 災害対応に関しては、大阪湾沿岸の港湾管理者はじめ関係機関による大阪湾BCPを作成しています。災害時に、それぞれがどう行動するかを具体的に定めているもので、この中では、被災直後に航路のがれきを撤去し、エネルギー物貨物輸送船の航行を可能にするための役割分担についての協議を行っています。さらに南海トラフ巨大地震等の大規模災害に備えるため、和歌山下津港では津波から背後地を守るための護岸および防波堤の嵩上げ工事を実施しています。

クルーズ船に対応

■来年度事業に関しては。

 港湾局としては、主要施策のひとつである「生産性向上と需要の創出による成長力の強化」の中で、観光立国実現に向けクルーズ船の受入環境の整備を推進しています。近畿管内においても新たな大型クルーズ船受入れに対応するため、ハード整備として防舷材の設置など施設整備を、既存ストックを活用しているほか、神戸港では、ターミナルへのエレベーターやエスカレーターの設置、大阪港では天保山ターミナルビル建て替えの検討を進めています。また、海外から多数の観光客が見込まれることから、サイン等の多言語化やトイレ、Wi-Fi等の環境整備を、各港湾管理者とともに来年度から推進していきます。
 空港事業については、平成29年度から八尾空港の滑走路舗装整備を進めています。関西3空港の一体運営では、平成32年度の東京五輪で訪日する外国人への準備が重要です。また、基幹産業の競争力強化として、和歌山下津港では火力発電所建設予定地の岸壁を含めた港内の静穏度を保つための防波堤整備、日高港では国際物流ターミナル整備、堺泉北港では、助松地区に寄港する船舶の大型化に対応するための航路整備、舞鶴港では臨港道路の整備に向け地元との調整を行っているほか、第二埠頭地区岸壁での更新改良を実施します。
 これら港湾整備においても生産性向上や働き方改革が求められていることから、今後、ICTやCIMを活用した取組みを進めていきます。特に、ICTに関しては浚渫工事等で今年度から試行工事を実施しており、来年度はさらに進めていきたいと考えています。CIMについても舞鶴港第二埠頭の岸壁改良で着手しています。いずれにしても、これら取組みでは、現場の工事と一体となって実施する必要があり建設業界の協力が不可欠です。今後も意見交換等を行いながら、効率的な方法を探っていきたいと考えております。

■地域振興では。

 「みなとオアシス」の登録を進めています。情報センターや海鮮市場を含むにぎわい施設など、さまざまなパターンがあります。最近ではクルーズ船の寄港とセットで地域活性化も考えています。外国人観光客が地域の特産品を購入して気に入ってもらえれば、帰国後、日本からの食品輸出につながる可能性があります。こうした好ましいプロセスを港からつくりたいと思います。

■船舶用燃料として使用が始まっているLNG(液化天然ガス)のバンカリング拠点整備について。

 平成32年1月からマルポール条約に基づく燃料油中の硫黄分濃度の規制強化が日本を含む一般海域に適用されることで、将来的にLNG燃料の一般化が予想されます。現在、整備局では関係者とで検討会を開き、阪神港におけるLNGバンカリング環境形成に向けたロードマップを作成中です。早急には進まない課題でもあり、当面は重油燃料の転換で補っていくことになりそうです。日本に限らず、国際的な課題でもあり、国土交通省で対策を進めているところです。
 さらに、平成32年のオーストラリアからの水素の輸入に向けて、神戸港で現在、貯蔵・輸送・利用までが一体となった液化水素サプライチェーンの構築を目指した実証事業が行われています。今後は再生可能エネルギーや海洋資源の利用にも着目していきます。

■ありがとうございました。

 
杉中洋一(すぎなか・よういち)
 平成4年3月大阪大学大学院工学研究科土木工学専攻修了、同年4月運輸省採用、同14年4月港湾局建設課長補佐、同年5月大臣官房監察官併任、同16年4月港湾局管理課長補佐(併任港湾局管理課港湾保安対策室)、同18年4月同総務課危機管理室課長補佐、同19年4月同計画課長補佐、同年6月大臣官房会計課併任、同20年4月近畿地方整備局港湾空港部地域港湾空港調整官、同23年7月港湾局計画課計画企画官、同24年7月同局海洋・環境課港湾環境政策室長、同25年7月関東地方整備局東京港湾事務所長、同27年4月同局港湾空港部港湾空港企画官。愛知県出身。51歳。


Copyright (C) NIKKAN KENSETSU SHINBUNSHA. All Rights Reserved.
当サイトを利用した結果に関するトラブルなどに関しては、当社としては一切責任をとりかねます。