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日本基礎建設協会 脇雅史会長 (上)  【平成30年03月01日掲載】

地方からの声こそ大事

インフラの将来構想を見据えて


 日本基礎建設協会の脇雅史会長は、このほど日刊建設新聞社のインタビューに応え、建設業界の現状等について語った。この中で脇氏は、行政マンとして、また参議院議員時代の経験を通し、社会資本整備や入札制度のあり方に言及。社会資本整備に関しては、先を見通し、計画的に進めるためには「地方からの声が大事」とし、また、「現在の入札契約制度では対応できない工事もある」と矛盾点を指摘した。

■ここ数年、建設業界はようやく活気が出てきましたが、これまでの建設業界を取り巻く状況についての感想から。

 建設業が長期にわたり低迷していた要因の一つに、公共事業が削減されたことがある。当時、国の将来構想では高齢化の進展に伴い社会福祉費が膨れあがり、大蔵省が「このままでは財政が破綻する」との見解を示したことから、急激な事業費の縮減が始まりました。
 その結果、仕事量が減った建設業界は生き残りをかけた受注競争によるダンピング合戦がはじまり、労務費も下落するなど、さんたんたる状況に陥った。このため品確法が施行され、適正化に向けた取組みが行われ、国土交通省も法整備に努めてきたことにより、ようやく落ち着いてきたかなとの感はあります。

■政権交代により公共投資も上向いてきましたが。

 現政権になり、三本の矢で補正予算を増やしましたが、当初予算がなかなか増やせなかった。財政状況が悪い中では、世間のムードが好転しても、事業費を二割以上増やすとなったなら、「バラマキか」と、マスコミ等からたちどころに批判が出てくる。そうなると補正予算でやるしかない。しかし、公共事業や社会資本整備は補正でやるものではない。先を見通し重要度の高いところから当初から計画的に進めることが求められますが、現状では補正予算で面倒を見るしかなく、それが今日まで続いている状況です。
 大局的に見て社会資本整備はどうあるべきかの計画論をもう一度しっかりやらないといけない。必要か不要かではなく、インフラは、国民生活や経済活動を支える下部構造で、それを充足させるためにはどういった整備をするかを決めた上で必要だと言わなければいけない。
 また、それを決めるのは中央ではなく、地域の住民であり、地方自治体です。過疎化問題でも国土強靱化にしても中央で計画を作成しているが、私は地方計画が大事であると言い続けてきた。その中でいろんな地域で、いろんな声が上がり始めてきたことは良いことだと思っています。そうい
った計画論を大事にして、インフラの将来構想を見据え、財政状況を考慮しながら計画的に進めていくしかありません。

■なるほど。

 ただ、公共事業の契約に関しては誤解されている部分がある。競売は品物を高く売るため、一人でも多くの参加者を募り、一番高い値を付けた人に売る。このため参加者は多いほどよくかつ、何ら制約を付けない方がいい。しかし公共工事では、品物がなく参加者が見積を行う訳ですが、見積にはコストがかかる。本気で工事を取りたい人はそれなりの努力をしますが、安けりゃいいで、能力のないピンハネして丸投げすることしか考えない業者も参加する。それらを一緒に参加させ、かつ落札して何がいいのか。参加者の実態をしっかり見れば何十社も参加することはあり得ない。それがあり得るかのように、一般競争で多くの参加者を募ることが正しいとする風潮は変わっていない。
 公共工事の契約方式では、発注者が予定価格を適切に設定できるとする大前提があるが、そうでないケースもある。例えば全く新しいものを作る場合、発注者だけの技術力ではできないこともあり、業界や学会等と一緒になって試行錯誤しながらやっていく。その場合、発注者が「受注者の責任で完全なものを作って下さい。その上で一番安いところと契約します」とは言えませんから、現実では法的に入札で一番安いところと契約するしかない。形の上でそういう形態をとることになる。本当はネゴシエーションをしたり話し合ったりして「お願いします」となる。

■事前調整はあるかとは思いますが、談合となると法に抵触することになります。

 あらかじめ話し合うことが本当に悪いことかどうか。発注者の責任において情報を公開し公平にやればいいが、そのやり方が認められていない。災害復旧でも、皆が力を合わせ分担してやりましょうと決めることは悪くないことだと思いますが、現行法では認められない。となると入札して安いところと契約する形になる。
 リニア線整備に関してもJR東海だけでできる訳がなく、学会などいろんな分野の人を呼んで意見を聞き、知恵を絞ってもらう。そうして誰にやってもらうのがいいかとネゴシエーションする訳です。本来、ネゴシエーションというのは市場の中にあるもので、その中で売り手と買い手がネゴシエーションしても問題はない。ところが日本の公共事業では売り手と買い手が接触してはいけないことになっている。買い手が値段を出して、売り手が安いところに売る。品確法では変えた部分もありますが、そういったことを無視して、法律違反だからと杓子定規なやり方を続けている。
 このやり方を変えていかないと建設業はやっていけなくなる。私は、発注者の責任においてきちんと情報公開し、「この案件は競争入札ではできません」と明言すればいいと思っている。現状では、品確法も改正されるなど以前に比べ良くはなっていますが、まだまだ改革は必要です。

■根本的な部分からの見直しが必要と。

 特にこれからはAIやICT等の分野で技術開発が進むと、今まさに取り組んでいる働き方改革の中で実現できるのではないかと思っている。土木や建築の世界は、他の分野に比べ自然を相手の部分があり、なかなか難しい部分はあるが、これだけ技術が進歩してくれば人との役割分担が変わってくる。そこを利用しながら生産性を上げる方向で変えていく。特に、杭工事等の基礎工事は最もやりにくい分野で、このため、土木においては現場で何が起こっているかを熟知した上で、どういった改革ができるかを検討するといった現場主義が重要です。手間暇はかかりますが、現場を丹念に見て回るといった努力が必要となってくる。

(下)に続く

 
 
脇雅史(わき・まさし)
昭和42年3月東京大学工学部卒業後、建設省入省。三重工事事務所長、関東地方建設局河川部長、建設省道路局国道第二課長、近畿地方建設局長を歴任。平成10年参議院議員に当選し、三期を務め、平成28年から日基協会長。73歳。


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