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土木学会関西支部 村上考司支部長  【平成29年11月20日掲載】

強靭な国土を築き、安全安心を届ける大きな使命

「ものづくり」楽しめる環境に

生産性引き上げ、建設業の魅力高める


 「公益社団法人 土木学会」(大石久和会長)では、社会資本の重要性および土木技術・土木事業に対する国民の認識と理解を深めるため11月18日を「土木の日」と定め、続く同会の創立記念日である11月24日までの1週間を「くらしと土木の週間」として、本部と全国八支部で多彩なイベントを開催している。
 なお、関西支部においては、FCCフォーラムなど「土木の日」の関連行事はもちろん、来月16日に創立90周年を迎えることから、土木を支える人材の育成を改めて活動の柱に据え、今年度は様々な記念事業も意欲的に展開している。村上考司・関西支部長に土木の果たすべき役割や建設業界の課題、同支部の活動などについて聞いた。

■国土交通省は昨年度を生産性革命元年と位置づけ、さらに今年度を前進の年として、魅力ある建設業の構築に向け、急速に動き出しています。

 「現在、まず建設業界の課題として挙げられるのが、働き方改革の推進です。具体的には、週休2日の推進や総労働時間の削減などで、これらの課題に対しては、建設会社は自ら努力し、生産性を引き上げる必要があります。そのうえで、建設業の原点である『ものづくり』を楽しめる環境をつくり、魅力を高める。『現場は面白いですよ』と。担い手確保のためには、これが最も大切なことです。そして、明らかに建設業界全体としてその方向に動いており、魅力ある業界に移行しつつあります。関西においても、鉄道や道路の大型プロジェクトが動き始めるなど、ここ2年〜3年は建設業に追い風が吹いています。かつての『旧3K』から、今では『新3K(給料・希望・休暇)』という言葉も定着してきているのではないでしょうか」

■アイコンストラクションと週休2日への動きについては。

 「どちらも待ったなしで取り組むべきテーマと位置付けています。アイコンストラクションのICT施工に関しては、近いうちに、AI(人工知能)の現場への導入が進むと考えています。担い手確保に向けて、省力化、生産性の向上は確かに大事なのですが、現場には危険エリアが少なからず存在します。当然、普段は立入禁止措置をしていますが、災害復旧時等は、危険エリアに立ち入らなければならない時もあります。その際、作業員が危険にさらされる。建設産業的には一番つらいところです。そして、このような危険な場所では無人化施工が間違いなく有効な手段になってくるでしょうし、技術的にもかなり確立されています。加えてAIを導入することで、安全性・施工性は飛躍的に高まります。まずは、そのあたりを足掛かりとして、現場は急速に変化していくのではないでしょうか」
 「また、週休2日へ向けた取組みは、今年度から本格的にスタートを切ったところですが、業界全体として、4週6休〜4週7休は既に達成できていると感じています。ただ課題として、ゼネコンの職員が率先して休んだとしても、職人さんが休めるのかどうか。週休2日を完全に実現するには、4週8閉所にしないといけない。なおかつ、賃金は減りませんよと。現在、ゼネコンの職員は月給制で週休2日ですが、職人さんは依然として日給制の方が多い。その制度を変えなければ、実現はおぼつかない。とはいえ、国、業界ともに明確にその方向に舵を切っていますし、職人さんの賃金も日給から月給制に移りつつあります。また、その動きを牽引するのが社会保険加入の取組みだと思います」

防災・減災への取組み、「土木にはもっと思想が必要」

■防災・減災に関して、土木の果たすべき役割についてはどうお考えですか。

 「巨大災害、いわいるメガディザスターに関しては、当然、地質学や物理学など様々な専門家で対応しないといけませんが、ベースとなるのはやはり土木だと思います。ちなみに私が大学生の頃は、土木の構造物というのは50年確率、100年確率で災害を捉えていました。ところが、東日本大震災の時には、前の地震は平安時代で、それと比べてどうかと。また例えば、富士山の噴火だと、石器時代はどうだったとか。そこまでさかのぼって災害の話をするようになりました。確率スパン、設計スパンが全く変わってきています。そして、そこで出てきた思想が減災です」

■なるほど。

 「結論としては、防災、つまり、災害を全て防ぐことは不可能です。それなら災害を少しでも減じる。人に対するインパクトを小さくする。つまり、メガディザスターに対しては、減災という言葉が適用されるべきだと思います。具体的には、高台移転や津波の到達時間を遅らせるといった対策になります。その一方、一般的な災害に対しては、それこそ防災であり、これは先ほど申し上げましたが、50年確率、100年確率で構造物をつくるということ。例えば、最近の集中豪雨の頻発によって、砂防ダムの価値が大きく見直され、『必要なダムはつくりましょう』という流れになってきました。そのような中、われわれ土木技術者には防災と減災を明確に使い分けることが求められています。そのためには、思想と土木というものが一致しなければならない。土木学会の大石久和会長は『土木にはもっと思想が必要だ』と強くおっしゃっている。なんでもかんでも防災では理解は得られません」

■大石会長は就任挨拶で「土木が哲学を必要とし哲学を語らなければならない」と述べておられますね。

 「やはり、思想をもった土木の専門家が、産官学一体となって防災・減災に取り組む。それによって国づくりを支え、結果として、国民に安全安心を届ける。そうあるべきです。もちろん、防災・減災は土木だけでできるものではありませんが、土木はその先頭を走る使命を担っている。災害に強い強靭な国土をつくり、結果として豊かで暮らしやすい国をつくる。その原点は土木にあります。自信をもって言えます」

■支部長は関西での勤務が長く、思い入れも強い。

 「東京圏に比べ、関西には独自性が強いところがあると思います。京阪神の3都市で色合いが違う。また、ひとくくりに関西弁といっても、京都弁、大阪弁、神戸弁ではやはり違います。『京の着倒れ、大阪の食い倒れ』ということわざもありますが、関西の魅力は変化に富んでいるところといえます。結節点は必要ですが、今後も融合的でありながら、それぞれ独自の発展を遂げていくと思います。
 また、開発の面でもう少し詳しくお話しすると、大阪市内は万博を経て、なにわ筋線が開業すれば、湾岸地域や西部を中心に街並みが一気に変わるのではないでしょうか。神戸は三ノ宮駅前の再開発や大阪湾岸線の延伸など、今まさに復権しようとしています。京都については、インバウンド需要が非常に旺盛であり、北陸新幹線のルートも確定したことから、観光開発的にさらに伸びると思いますし、最も歴史ある古都の奈良もホテル誘致などで急激に変わろうとしている。関西の魅力はまだまだあります。空港や港をはじめ、成長に向けたインフラも整備されています」

土木学科の復権にも期待

■土木学会関西支部の活動についてお伺いします。

 「関西支部は12月16日に創立90周年を迎えます。もともと関西支部では、市民を対象とした見学会や広報活動が盛んで、FCC(FORUM CIVIL CОSMOS)の『どぼくカフェ』といった、全国の支部の中でも非常にユニークな活動を展開してきました。土木の日だけに拘らず様々な記念行事などを通じ、今後も『土木が身近にある』ことを広くみなさんに知っていただきたい。
 なお、土木学会の附属土木図書館では、一般の方々からの本や映像資料の貸し出しが増えています。そういった点でも、われわれの努力が少しずつ実を結んでいると感じています」
 「ところで先日、土木学会に所属する大学の先生方と『土木学科に戻りたいですね』という話をしました。私は大学の土木学科を卒業したのですが、今では出身大学にその名称は存在しません。また同様に、全国の国立大学から土木学科という名前が消えていきました。それほど土木というものが名称的にも雰囲気的にも嫌われた時代があったということです。それは認めざるを得ません。しかし最近になって、土木学科という名称が復権傾向にあります。これは国民に尽くしているという土木の自信と誇り、土木学というものの礎が魅力を回復しつつあるからだと実感しています。決してアナクロニズムであってはいけませんが、これから、いくつかの大学で土木の名前が復活するとうれしいですね」

■生活の原点を支える土木の役割が社会で再認識されてきているのですね。本日はお忙しいところありがとうございました。

村上考司(むらかみ・こうじ)
 昭和54年3月京都大学工学部交通土木工学科卒業、同年4月株式会社大林組入社。平成15年6月高速電気軌道第8号線(4工区)清水南工事事務所長、平成17年12月本店土木工事第二部長、平成18年6月本店土木工事第一部長、平成20年9月本店統括部長、平成22年4月本社土木本部営業推進部長、平成23年4月本社土木本部本部長室長、平成24年4月大阪本店土木事業部統括部長、平成26年4月執行役員大阪本店土木事業部長を経て、平成28年4月常務執行役員大阪本店土木事業部長に就任。62歳。


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