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大阪労働局労働基準部 石井聡安全課長  【平成29年06月26日掲載】

「STOP!墜落災害 命綱GOキャンペーン」展開

死亡者数は3年連続で過去最少を更新

二丁掛けハーネス型安全帯の普及促進へ


 第90回全国安全週間が今年も7月1日から7日まで、厚生労働省大阪労働局らの主唱、建設業労働災害防止協会大阪府支部らの協賛を得て、「組織で進める安全管理 みんなで取り組む安全活動 未来へつなげよう安全文化」をスローガンに展開される。昭和3年に実施されて以来、「人命尊重」という基本理念の下、一度も中断することなく続けられている。大阪府の建設業における昨年の死亡者数は11人で、3年連続で過去最少記録を更新した。しかし、相変わらず墜落・転落災害の死傷者数が多く占めている。このため、大阪労働局では、「STOP!墜落災害 命綱GOキャンペーン」を展開するとともに、墜落時の衝撃を緩和する二丁掛けハーネス型安全帯の普及促進を図っている。その災害防止活動の中心として活躍している大阪労働局労働基準部安全課の石井聡課長に安全行政の取組みなどについて聞いてみた。

■はじめに昨年の労働災害の発生状況や建設業における安全行政を取り巻く環境と課題についてお聞かせください。

 大阪府内における平成28年の休業4日以上の死傷者数は、平成27年と比べて僅かながら増加し、8125人となっています。また、死亡者数についても51人と平成27年より4人増加しました。
 一方、大阪府内の建設業における死傷者数は、ここ数年堅調な減少傾向にありますが、平成28年は681人発生しています。このうち255人が墜落・転落によるものであり、37.4%を占めています。また、建設業での死亡者数は11人で、過去最少となった平成27年より、さらに2人減少し、こちらは3年連続で過去最少記録を更新しました。このことは、建設関係者の皆様の日頃からの災害防止に向けた地道な活動の成果であり、その努力に深く敬意を表します。
 ただ、死亡者数の11人のうち7人が墜落・転落によるものです。その発生状況を見てみますと、「外部足場の組立て作業中に転落」、「解体工事屋根スレートを踏み抜き墜落」、「木製梁上で作業中に梁が折れ墜落」などで、いずれも作業床や手すりの設置をはじめ、安全帯の使用など、基本的な墜落防止対策が講じられていれば防げたものがほとんどです。労働安全衛生規則の遵守はもちろんのこと、より安全な措置として、手すり先行工法の積極的な採用を盛り込んだ「足場からの墜落転落災害防止総合対策推進要綱」に基づく対策の実施など、基本的対策の徹底が何よりも重要であると考えています」

■建設業の死亡災害の発生状況を見ますと、相変わらず墜落・転落災害が多いですね。全国からみた大阪の状況はいかがですか。

 全国の平成28年の労働災害による死亡者数は928人で、平成27年の972人に比べ44人の減少となり、2年連続で過去最少となりました。全国的には死亡災害が4.5%減少している中、大阪局では8.5%増加に転じました。死亡者数が多い業種は、建設業が294人で最も多く、製造業が177人、陸上貨物運送事業が99人となっています。
 建設業での死亡災害は、全国は294人と前年に比べ33人・10.1%減少しており、大阪でも11人と前年に比べ2人・15.4%減少しました。しかしながら、死亡災害の内、墜落災害の占める割合については、全国では45.5%の134件ですが、大阪では63.6%の7人と全国よりかなり高い状況となっています。したがって、現在大阪局が取り組んでいる、「命綱GO活動」をさらに推進し、墜落災害による死亡者数を減少させる必要があります。

■今年度の大阪労働局の目標と重点事項をお聞きします。

 今年度は、平成25年度を初年度とする第12次労働災害防計画の最終年度であり、大阪局では死傷災害を平成24年と比べて14%減の7193人以下に、死亡災害を12%減の51人以下とすることを目標としています。このため、これに併せて5か年にわたり「ゼロ災・大阪『安全見える化運動』」を展開しています。この運動は、工場や現場、事務所や店舗などの職場に潜む危険を浮き彫りにする、また、安全衛生活動などを目に見える形にすることにより、労使の自主的な労働災害防止活動を促進し、健康が確保され、安全・安心な職場や現場の実現を図るというものです。
 また、見える化運動の一環として、安全帯の確実な使用を図ることを目的とする「命綱GO活動」にも取り組んでいます。多くの現場でこの活動が認知され、大きな拡がりとなる中、災害減少の成果につながっています。安全帯の着用と使用は当然のこととの認識を持ち、高所作業だけでなく、墜落・転落のおそれのある箇所での使用の徹底をお願いします。特に本年度は、足場の組立て解体作業や鉄骨等組立て作業時には、安全帯の掛け替え時の墜落防止や、万が一墜落しても墜落時の衝撃を緩和する二丁掛けハーネス型安全帯を使用するよう強く現場指導しています。

■建設業における取組み及び注意事項についてお伺いします。

 全産業における死亡災害が平成29年の年初より続発し、3月末日現在全産業において14人となりました。これは、年間99人が死亡した平成19年以来の高い数値となっています。特に事故の型別で見たときには墜落・転落災害が9人と、全体の3分の2を占めており、建設業以外でも多数発生するなど緊急事態となりました。そこで大阪労働局では、増加する墜落死亡災害の撲滅を目指し五月〜七月を重点取組み期間として「STOP!墜落災害 命綱GOキャンペーン」を展開しております。重点期間では各労働基準監督署は建設現場への現場指導数を増やして指導に当たることとしており、6月1日には大阪労働局長による建設現場の安全衛生パトロールを実施したところです。
 また、今年も熱中症に注意が必要な季節になりましたが、昨年は、大阪府内で死亡災害が3年連続で2人となり、休業4日以上の熱中症による死傷災害は6年ぶりに30人台になるなど減少傾向が見られないばかりか増加に転じました。職場における熱中症を予防するためには、労働者に水分・塩分の摂取を呼びかけるだけでなく、熱中症予防管理者の選任など管理体制を確立することや暑さ指数(WBGT値)を測定し、その結果に基づく対策を確実に講じることが必要です。
 そのため、厚生労働省・大阪労働局では、労働災害防止団体などと連携の下、職場における熱中症予防のため「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」を展開し、熱中症予防対策の徹底を図り、死亡災害ゼロを目指す取組みを進めています。熱中症を予防するには、屋外や屋内にかかわらず、高温多湿の場所で作業を行う場合、暑さへの順化の有無、すなわち体が暑さに慣れたかどうかが熱中症の発生に大きく影響するため、体を暑さに慣らすための期間、いわゆる順化期間を設けることも重要です。

■今年も熱くなりそうです。墜落・転落災害防止とともに、熱中症予防対策も重要ですね。これからも災害防止にご尽力ください。

石井聡(いしい・さとし)
平成26年4月大阪中央労働基準監督署安全衛生課長、同28年4月大阪労働局監督課長補佐、同29年4月から現職


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