日刊建設新聞社   CO−PRESS.COM
土木学会関西支部 建山和由支部長  【平成28年11月21日掲載】

安全で安定した社会基盤の提供へ

動き出した「i―Construction」

若手技術者の育成や会員同士の交流の場拡大


 公益社団法人 土木学会(田代民治会長)は、毎年、11月18日を「土木の日」と定め、それに続く24日までの1週間を「くらしと土木の週間」として、土木が果たす役割を広く理解してもらうことを目的に、関係機関の協賛を得て全国各地で関連行事を推進している。土木の日は昭和62年に制定し、今年で30回目を迎えた。現在、全国各地で地震や豪雨など自然災害により、社会資本整備の重要性が再認識される中、土木事業はいまや不可欠なものとなっている。そこで、土木の日に伴い関西支部の建山和由支部長に、土木の果たす役割や活動などについて聞いてみた。

■はじめに土木の果たす役割についてお聞かせください。

 「市民の生活や社会活動を支える安全で安定した社会基盤を提供するというのが土木の使命だと考えています。高度成長期に効率的にインフラを整備しなければいけないという要求から、日本の土木は設計方法を体系化して施工のマニュアルを整備し、それに従えば一定の品質を持った社会基盤が効率的につくられる仕組みを作ってきました。そのお陰で日本のインフラは短期間に一定の品質を持ったインフラが効率的に整備されてきました。それは、その基準に基づく一括管理の成果ではありますが、あまりに基準やマニュアルをきっちり作りすぎたもので、そこからの先の進歩が起こりにくくなっているのではと感じています。しかし、最近、i―Constructionが動き出し、ICTや最近の新しい考え方を導入する動きが出てきています。そこでは、以前作った基準やマニュアルが大きく変更されるようになってきています」

■どのように変更されてきているのですか。

 「例えば土工の工事では、ドローンを使った3次元測量やICTを使った機械で非常に効率的に、かつ精度よく工事を行うことができる仕組みを、現場で使うことを前提に基準やマニュアルが整備されるようになってきています。ですから新しい基準に則って工事を行っていく際には、新しい技術をこれから採り入れていかなければなりません。これからどのような技術がいいのか、あるいはどう使えばいいのか、現場ごとに考えて模索していくことになります。そういう動きがやっと始まったということですね」

■地震や豪雨など、自然災害について防災・減災については、どのようにお考えですか。

 「自然災害は、年々激化していると言われています。以前に比べると強い雨が降る回数も増えてきています。地震の頻度も増えてきています。また、火山の噴火も増えてきていると思います。当然、災害には備えていかなければいけませんが、災害にどこまで備えるかが問われるのですね。公共事業ですから無尽蔵に資金を投入することはできません。どこまで整備するのかということになると、一般的に分かりやすいのは、過去に起こった最大の災害に備えるという考え方です。問題は、災害は近年どんどん激化してきていますから、それに対応して防災の基準も高くならざるを得ないということです。例えば耐震基準が、強い地震が発生するたびに厳しく改定されていくのが一番よい事例です。今後、自然災害が激化していくことを考えますと、災害に対する基準もハードルが高くなり予算も膨らみます。ですからハード的な対策だけでなく、ソフト的な対策も考えていかなければなりません。自然災害に、あるレベルまでは耐えられるが、それ以上のところはソフト的な対策で防災あるいは減災に取り組んでいく考え方が必要だと思っています。東日本大震災の時に大きな津波は想定外という話がありましたが、それは想定外ではなく、設定基準外でした。要は設定していた基準よりも大きな災害が来たということで決して起こり得ないということではなくて、設計上、設定している基準よりも大きな災害は起こるということを前提に考えていくべきなのでしょうね。設定以上の災害が来た時に、どう対処するのかというところが、ソフト的な対応でカバーしていくことだと思います」

■関西支部としての活動についてお伺いします。

 「関西支部は、大きく2つの活動を進めています。一つは会員のためのサービス。特に最近は、若手の技術者や学生たちの技術力育成、あるいは会員同士の交流の場を広げる活動を中心に行っています。例えば会員のためのセミナー、シンポジウム、研修会などで会員の技術レベルを上げてもらえる活動を行っています。若い技術者の人たちはどうしても仕事の上で付き合いが限られてきます。そのため、なかなかネットワークを広げることができないということで、逆にいろんな仕事をしている会員が土木という切り口で共に時間を共有できる場を作っています」

■具体的な活動について。

 「大学の先生や建設会社の社員、コンサルタント、自治体の人たちが一緒に見学会、勉強会などに参加することを通じて視野と人脈を広げてもらっています。土木の学生に対してもインターンシップの取り組みや、土木の仕事を理解してもらうために企業と学生の交流の場を作っているほか、毎年一回、学生中心とした研究発表会を行っています。もう一つは、市民に土木に対する理解を深めていただくために、市民を対象にした土木見学会、また、小中学校生対象にした土木の実験を行い、土木の魅力を体験してもらっています。最近は小中高等学校の先生が十年に一回教員免許の更新で研修を受けなければいけません。その研修の中に土木のテーマを入れてプログラムを作り、先生に土木を知っていただく取り組みも行っています。また、関西支部のユニークな活動としてFCCを開催し、これまでの土木の技術的な視点だけでなく広い視点で共有し、特に市民との交流を通じて土木をいろんな側面から見てみようという取り組みを行っています」

■今年も小中高生対象の現地見学会として「ダムの工事現場を見に行こう!〜天ヶ瀬ダム再開発事業〜」も実施されました。

 「はい。世の中にはいろんなマニアの方がおられます。ダムマニア、ジャンクションマニアがおられますが、そうした人と交流し、ダムやジャンクションのおもしろさを共有することによって、私たちが思いもよらなかった土木の魅力を見つけて発信していく活動を行っています。今年は滋賀県で、どぼくカフェとしてマンホール蓋は『路上の芸術』を開催しました。これもユニークな活動だと思います」

■最後に一言お願いします。

 「来年度、関西支部は創立90周年を迎えます。それに向けて記念事業の準備を始めています。最近、土木が大きく変わろうとしています。このような状況の中、将来にわたり、社会に対して安定的にインフラを提供していくためには、土木もこれらの状況に対応すべく変わっていかなければなりません。90周年では、そのための種を撒き、100周年に向けて育てていくことを記念事業の柱に据えました」

■きょうは、大変お忙しい中、貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました。支部長の今後のご活躍に期待しております。

 建山和由(たてやま・かずよし) 
1980年3月京都大学工学部土木工学科卒業。1985年3月京都大学大学院博士後期過程研究認定退学、同年4月京都大学工学部助手、1988年5月工学博士(京都大学)、1990年4月京都大学工学部講師、1996年4月京都大学工学研究科助教授、2004年4月立命館大学理工学部教授、2013年1月学校法人立命館常務理事。現在、国土交通省情報化施工推進会議委員長、国土交通省総合政策局建設機械施工技術検討委員会委員長、国土交通省i−construction委員会委員、経済産業省省エネ建設機械導入事業審査委員会委員長、日本建設機械施工協会副会長、土木学会建設用ロボット委員会委員長など兼任。地盤・車両系国際学会Soehne−Hata−JureckaAward(1996年)、土木学会技術開発賞(2002年)、地盤工学会功労賞(2012年)受賞。京都府出身、59歳。


Copyright (C) NIKKAN KENSETSU SHINBUNSHA. All Rights Reserved.
当サイトを利用した結果に関するトラブルなどに関しては、当社としては一切責任をとりかねます。