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近畿地方整備局 白川和司営繕部長  【平成28年11月14日掲載】

豊かな暮らしもたらし

空間の質を上げる役割

ストック活用が重要に


 行政をはじめ教育や文化、福祉等の様々な分野にわたり、各種サービスを提供しながら、まちなみや景観の形成にも大きな役割を果たしている公共建築。その中でも、官庁施設は、行政サービス機能をはじめ、建築技術の開発や技能継承の役割を有し、近年では大規模災害に対する拠点機能も求められている。こうした中、近畿における公共建築行政をリードし、時代とともに変化するニーズに対応しながら、所管する公共建築の整備に務める近畿地方整備局営繕部の白川和司部長に、公共建築の意義やあり方等について聞いた。

■まずは、公共建築に関する考えからお聞かせ下さい。

 公共建築については、公共建築月間の関連行事として、公共建築賞が隔年で実施されており、今年度はその15回目の受賞発表が行われました。近畿からは国土交通大臣表彰の龍谷大学ミュージアムのほか、優秀賞にデザインクリエイティブセンター神戸、太子町立斑鳩小学校屋内運動場、福良港津波防災ステーションの全部で、4点が選ばれました。これら受賞作品を見ていると、地域の読み方、いわゆる「場を読む」と言われますが、歴史的意義や周辺の地域性等を建物の中にインストールされていると思います。
 建築は、柱や壁、屋根等によって3次元空間を作り出すものですが、繋がっている空気のように、空間同士をどのようにつなげるか、また、外の空間とどのようにつなげて、公共性を作り出していくのか、公共建築を考える上で、受賞作品は、非常にいい素材だと思います。関係者の方々には、あらためて敬意を示したいと思います。

■建物の存在自体が価値を生み出す。

 建築は時代を映す鏡であり、風俗や文化、技術を映すものでもあると思います。受賞作品も現在の技術だからできたものもあり、昔では出来なかった建物もあると思います。そういった「時代感」みたいなものを公共建築の中に刻んでいくことも大きな意義があるのかなと思います。
 技術を入れることは、社会的要請とリンクする部分もありますが、空間そのものとか、構成にも時代感があると思います。これまで一つの大きな空間にいいとか、いくつかに区切りながら上手く見せていくということがいいとか、その時々の流行みたいなものが、空間構成として、公共建築に刻まれていると思います。公共建築が都市の一部として、そこにすむ人達や訪れる人達に創造性を刺激するようなサービスを生み出していける、公共建築としての価値につながるものなのではないか、と思います。

■なるほど。

 公共建築ができたことにより、その周囲全体の空間の質が上がっていくものだと思います。これは新築だけでなく既存の公共建築も意識する必要があると思います。時間の経過とともに建物には、時代感や地域感が生まれ、永年にわたりサービスを提供してきたことで、地域の人々の豊かな暮らしや豊かな時間の積み重ねにつながっているのではないか、と思います。
 一方で、行政庁舎も公共建築として変化してきています。官庁施設は、機能を集約・効率化していくことが求められていますが、近年では整備にあたり、その地域の地方公共団体が計画する地域創造のプロジェクトマネージャー的な主体と調整しながら、その地域の計画や景観等に配慮した整備を、以前にも増して行ってきています。

■官庁施設としての役割の変化ですね。

 また、文化施設等が各地で整備された時期は、高度成長期で、所得も増え暮らしも経済的に豊かになったことから、人々が公共的空間に楽しみを求める範囲が拡大する傾向にあったと思いますし、それが、当時のニーズに応えるものでもあったのではないか、と思います。また、社会的な行政ニーズの変化により、行政として必要な施設規模も拡大したと思います。
 さらに、公共建築物は、過去の歴史の中で、規模だけでなく、生活水準、業務空間水準の変化の波にも揉まれてきました。最も顕著な例が空調機能、すなわち、空調整備が必須になってきたことではないか、と思っています。空調設備を取り付けるためには建物の階高が一定以上必要となりますが、古い施設では階高も低く、いわゆる陳腐化が進み、先にも述べたように、必要行政床の増加も相まって、建替えという手段で官庁施設の問題解決が図られました。さらに現在ではユニバーサルデザインやスマートフォン等に対応する情報の発受信機能等は不可欠になるなど、施設を取り巻く環境が、さらに、変化してきております。

■変化のスピードは速い。

 その中で、古い施設であっても階高があり、空間のフレキシビリティがあるような建物は、それらサービス機能を導入したり、更新することができ、維持更新整備による長寿命化が可能です。このため公共建築物全般としては長寿命化政策が明確に示され、国においてはインフラ長寿命化計画、地方公共団体では公共施設等総合管理計画を策定し、公共施設の効率的な整備が進められています。
 整備にあたっては、利用頻度の向上、設備等の水準、耐震性能の水準、維持管理の状況、利用者の認知度等、個別の公共建築が抱えるハード的、ソフト的な問題を、様々な観点から、改修や、建替え等、様々な手法を考えながら、対応していく必要があると思います。そうした中で、ハードとソフトの連動・シナジー効果を出していく、ということが重要な要素ではないでしょうか。いわゆるストック活用によるストック効果を出していくことだと思います。そのためには、公共建築を活用していく総合プロデューサー的な役割を果たす人材も必要となってきていると思います。
 また現在では、行政が公共建築を整備する場合、対話を重視しながら実施します。そこで働く職員はもとより、施設の利用者の意見を聞きながら、その施設に求められる機能やサービスをいかに汲み上げ、取り込んでいくか、そうした、様々な方との対話を通して良いものを整備していくことが重要だと実感しています。いずれにしろ今後は、これまでストックされてきた公共建築を使い切る、ということが重要になっていると思います。

■今後も良質な公共建築の整備にご尽力下さい。



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