日刊建設新聞社   CO−PRESS.COM
前国土交通副大臣 北川イッセイ参議院議員  【平成28年01月04日掲載】

災害対応の現場に立って

砂防ダムの効果実感 広島

大阪全般のインフラ整備

府がイニシアティブとり関西活性化を


 第2次安倍改造内閣で国土交通副大臣を務めた北川イッセイ参議院議員(自由民主党)。在任中には、広島県での土砂災害や御嶽山爆発等の大規模自然災害への対応をはじめ、建設行政においては、担い手三法の施行など大きな動きがある中で、精力的に活動を展開してきた。また、都市の発展におけるインフラストックの重要性や地域の発展には道路整備が不可欠とするなど、社会資本整備の充足を挙げる。その北川議員に、地元の大阪の現状と課題、府内のまちづくりのあり方等について語ってもらった。

■在任中、最も印象に残ったことからお聞かせ下さい。

 やはり災害事案が強く残ります。中でも就任直前に起こった広島での土砂災害があります。現地の地層が真砂土であり、断層が出来て崩れやすい地盤であった。聞くところによれば、以前にも崩れかけたことがあったようで、その時に原因を追及し、事後に備える必要があったと思う。住み続けたいと思う住民の気持ちは理解できますが、国としても徹底的に調査すべきであったと考えます。
 また、京都の衣川の決壊、御嶽山の爆発などもありましたが、国の災害対応の場合、まずは内閣府の災害担当が初動体制を指揮し、その後、国土交通省等の各所管省庁が動きます。省庁を超えて即時に対応するため、内閣府がこの体制を構築するわけですが、所管省庁の立場から言えば、動きにくい面もあった。災害対応に関しては、やはり専門的な立場から国交省として真っ先に現場入りする方がよかったのではと思います。

■災害対応では初動体制が最も重要だと言われております。

 御嶽山では、国交省は爆発後3日目に現地入りして空から見て回りましたが、その時点で山合にある7つの谷が全て埋もれていたことが見て取れ、強い雨が降れば土石流が発生し下流の集落が危険にさらされる恐れがあると感じました。このため地元知事に、それぞれにセンサーと監視カメラ等の設置を相談し、取り付けを決めました。また、これにより噴火の恐れがある全国の火山についても見直すように指示しました。

■近年では、雨の降り方も変化してきており、それに対する備えも求められています。

 広島の場合は、砂防ダムの有無が被害を大きく分ける結果となった。被害を受けた地区には砂防ダムがなく、整備している地区には被害がなかった。その違いがはっきりと出ました。このため砂防ダムの効果が検証されましたが、ただ、本格的な砂防ダムを整備するには予算も日数もかかることから、当面は簡易ダムとして整備することとしました。
 また、立場上、いろんなことで陳情を受けることも多いですが、特に要望が多かったのは南海トラフ巨大地震に対する措置です。防波堤については、ある程度の高さは確保できていますが、問題は液状化による地盤沈下対策で、これに関しては国でもかなり予算的に手当を行っています。

  日本技術、海外で強い関心

■それら減災や防災をはじめとする日本の技術力については、海外からも注目を集めている。

 日本の技術力に関する海外の関心は非常に高いです。話は少し違いますが、新幹線の話題が一番多かった。東南アジア諸国では殆どがそうで、新幹線をはじめとする日本の鉄道技術に関する関心は高いものがあります。
 鉄道に関しては数年前、インドの地下鉄であるデリーメトロを視察しました。ODAにより、支線を延伸する工事でした。このメトロの駅には金属探知機が設置され、探知機の前には行列ができ、皆さん整然と並んでいる。整列乗車は日本では当たり前のことですが、カースト制度が残るインドでは高位の者が優先され、順番はあってないようなものでした。メトロの場合それがなく、きちんと並んでいることに現地の関係者が驚いていました。あとで聞くところによると、日本人を真似てのことで、「ジャパニーズ効果」と称賛されました。

■なるほど。

 ただ、カーストによる興味深い話がいろいろあるようです。それによりそれぞれの身分と仕事が保証されていることに対するプライドは非常に高いものがあります。このODA工事も日本のゼネコンが請け負い、現地の人を雇って実施していますが、工事担当者に聞くと、役所で許認可を取るだけでも、担当者の個人的理解力に差が大きいため、なかなか判子を押してもらえない。したがって、物事が進まない。工事自体も遅れがちになって、本社から責め立てられると言っていました。
 メトロができるまではバスが主要な交通手段で、料金は安いが治安状態が非常に悪かった。メトロの場合、料金は割高でも清潔で治安状況も良いことから非常に人気があります。先程の整列乗車以外にも、身体の不自由な人に席を譲るといったことも行われるようになってきたと言われています。
 これまで日本が実施してきたODAにおける長い歴史の中では、日本人の気質といったものが裏打ちされたものになっているのではないか。技術はもとより、それら日本人の美徳といったものも輸出されてきたのではないか。このインドにおいては、デリーメトロで培われたそれら信頼と信用が、同国における新幹線建設という次のステップにつながったものと確信しております。

都市間の連携協力

■大阪におけるインフラ整備の状況については、どのように感じでおられます。

 道路関係では特に高速道路のミッシングリンクの解消が課題ですね。これにより環状道路が形成できず、幹線道路で渋滞が発生する原因ともなっています。これを緩和するためにも高速道路による環状道路は不可欠であると早くから指摘されておりましたが、なかなか進まず、特に淀川左岸線に関しては手付かずのまま今日に至っている。
 かつて東京でも中央環状線の事業化が進展しなかったことがあった。その要因の一は用地買収が困難であったことで、これは淀川左岸線と同様です。しかし大深度地下利用法の施行に伴い、これを東京都が活用し、トンネルにすることでこの問題をクリアしました。この環状道路の開通により首都高の交通量が五%緩和できました。僅か5%ですが、都心に集中する交通が分散されることで渋滞が半減し、我々が思う以上に大きな効果があります。

■確かにその通りですね。

 また、東京には神奈川や埼玉、千葉を結ぶ圏央道がある。この圏央道に東名高速道路や中央道、関越道、常磐道の各高速道路が接続しており、交通アクセスが向上し、その結果、圏央道の沿線にさまざまな企業が張り付くようになった。道路網が整備されたことにより企業にしても、都内に立地する場合と比べて、効率性等があまり変わらない状態となった。関西でいうなら、「京奈和道路」に匹敵するものだと思われます。首都圏への一極集中には、そういったインフラ整備効果も大きな要因となっていると思いますね。

■大阪の活性化に必要なものとは。

 東京と比べ大阪には、活力がなく、道路等の計画も遅々として進まない状況にある。和歌山県や京都府では、それなりに整備が進められておりますが、大阪府と奈良県が遅れている。京奈和道路は、奈良県域に関しても、大阪府がイニシアティブをとり、関西全体の経済をどう活性化するかといった観点を示す必要があります。
 その一例として京阪奈学術研究都市があります。名称のとおり、京都、大阪、奈良の3府県が一体となり、関西経済連合会を中心に開発・整備が行われてきましたが、ここでも大阪府は枚方市の津田サイエンスヒルズを整備しただけにとどまっている。学研都市は、京阪奈だけにとどまらず、京阪神も含めた経済活動を支える拠点となるものであり、大きな観点に立って都市間が連携、協力して進める必要があります。

■道路に関しては、関西高速道路ネットワーク推進協議会が結成されるなど、少しずつ動き出しているのでは。

 協議会は、淀川左岸線や阪神高速道路湾岸線の西延伸部も含めて整備を促進していこうとするものです。このうち淀川左岸線については、大阪府でも都市計画決定され、ようやく動き出しました。その要因の一つに、先程も言いました大深度地下方式を採用したことによるものですが、もう少し早くできなかったかなとは思いますね。

  自治会のストック

■大阪のまちづくりに関しては、東大阪市や箕面市、吹田市など、かなり積極的に施策を打ち出している自治体と、そうでない自治体がありますが、この差はどこからくるのでしょうか。

 やはりその市としての資産やインフラのストックがあるかないかで変わってきます。東大阪市で言えば、花園ラグビー場といったインフラストックがあり、これを中心にして、どういったまちづくりを行うかを市として熱心に取り組んでいる。吹田市では、吹田操車場跡地といった大きなストックがある。こういったストックのある自治体では、それぞれの市長や議員が一体となって取り組んでいる。そういったことによりまちづくりが動き出す。それらが動き始めた時に、大阪府が主導することで、もっと早く動きだします。他府県の場合、府県が率先して取り組んでいます。
 例えば、貝塚市でも、幹線道路としての泉州山手線の道路整備を促進し、世界的規模のスポーツ施設を誘致する構想があります。水間鉄道の存続に関しても、市民はもとより市長も存続を考えておりますが、府と一体となった状況にはなっていない。こういった取り組みは、政令市ならまだしも、普通の市町村単独では多少無理があります。府県レベルでの積極的な取り組みが必要で、それぞれの地域における貴重なストックは大切に活かしたいものです。

■確かにそうですね。

 また、大阪府唯一の村として千早赤阪村がありますが、御多分に漏れず住民の高齢化と人口減少が進み、府内でただ一つの過疎村に指定されている。このため村長が、周辺の市に対して合併を呼びかけましたが、どこも応じてくれなかった。村自体には歴史と文化があり、緑も豊かで、大楠公で知られる楠木正成公の出生の地でもある。こういった場所こそ、近隣が守り、大事に育てていくことが必要ですが、周辺市町自体にも財政的な余裕がなく、そのままとなっている。
 私の考えでは、例えば、それら近隣自治体を集約して「政令市」とし、「千早赤阪区」としてやれば、守ることは可能だと思っています。基礎自治体が、固有の歴史・文化・伝統を自らの手で守ることができる、そんな仕掛けをつくる事こそ、府の重要な仕事だと思っています。

  建設業の人材確保

■府と市町村の連携は必要でしょう。

 今後、基礎自治体の中で高齢化と人口減少が進んでいった場合、その市町村が持っている自然や文化は貴重な生活資源になります。府が支援をすることは重要です。
 例え小さな自治体であっても、それが消滅することは、そこにある歴史や文化、自然までもが消滅してしまうことになり、果たしてそれでいいのかどうか。単一の自治体独自でできないのではあれば、政令市をつくり、府が支えながら守っていくのが良いのではと考えます。
 県と市町村が前向きな自治体は上手く行っています。一方が消極的なところは上手く行っていません。やはり府県が各地域の個々のプロジェクト等に理解を示し、時には関係機関との仲介役となることも必要でしょう。大阪が遅れた要因には、そういった部分もあったと思います。

■ところでインフラ整備の担い手である建設業界の人材不足と、その確保育成に関しての考えをお聞きしたい。

 担い手の確保は重要なことだと捉えています。かつて公共事業が悪者になり、安ければ良いとの風潮が民間工事にまで広がったことにより建設コストが抑えられ、その結果、工事単価も下がり技能労働者が辞めていくこととなった。その中には腕の良い技能者もいる。腕のいい技能者とそうでない技能者では、建物の完成した時点では見かけ具合は変わらなくても、時間の経過とともにその差というものがはっきりと出てくると思います。その辺の評価がされていないことが問題となっています。
 副大臣在任中には、富士教育訓練センターも視察しました。建築の各職種から訓練生がやって来てそれぞれ技能訓練が行われていました。それはそれで良いことなんですが、全国でこの場所しかないといった点が気掛かりで、利用する機会が限られています。もう少し対象を広げるような体制にすることも必要ではないかと思います。いずれにしろ担い手確保についても国として支援する必要はありますね。

■いろいろと貴重なお話をありがとうござました。

 北川イッセイ(きたがわ・いっせい)
昭和40年3月関西大学文学部卒、信用組合勤務から、大阪府議会議員を経て、平成16年7月に大阪選挙区から参議院議員に当選、現在2期目。これまで防衛大臣政務官をはじめ、 参議院経済産業委員会や同環境委員会、政府開発援助等に関する特別委員会、予算委員会の各筆頭理事、環境委員長、経済産業委員長等を歴任し、平成26年9月から同27年10月まで国土交通副大臣を務める。73歳。



Copyright (C) NIKKAN KENSETSU SHINBUNSHA. All Rights Reserved.
当サイトを利用した結果に関するトラブルなどに関しては、当社としては一切責任をとりかねます。