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座談会 担い手確保―今、やるべきこと   【平成27年07月27日掲載】

座談会 担い手確保 ― 今、やるべきこと

  近畿地方整備局建政部 植田 剛史 部長 
  兵庫県建設業協会 川嶋 実 会長
  建専連近畿地区連合会 北浦 年一 会長


植田部長 川嶋会長 北浦会長



 技能労働者を中心に人材不足が著在化してきた建設業界では現在、様々な取り組みが行われている。国土交通省では、担い手三法を中心に発注行政の視点で施策を推進し、元請側と専門工事業側では、それら施策に沿いながらも、それぞれ独自の取り組みを展開している。こうした中、近畿地方整備局の植田剛史建政部長と、三田建設技能研修センターを運営する近畿建設技能研修協会会長でもある川嶋実・兵庫県建設業協会会
長、同副会長の北浦年一・建設産業専門団体近畿地区連合会会長に、「社会保険未加入対策をはじめ技能労働者の処遇改善に関して」をテーマに、それぞれの思いを語ってもらった。

  処遇改善・安定性・やりがい  植田部長
  継続的な公共投資の確保を  川嶋会長
  人に合わせた工程組む必要  北浦会長

■今年4月から、担い手三法が施行されましたが、その担い手確保についてまず、国交省の取り組みからお聞かせ下さい。

植田

 担い手の確保と育成に関しては、大きく分けて建設労働者の処遇改善と将来の安定性、やりがい―の3つの課題があります。1つ目の課題である処遇改善については、2点ありその1点目は給与です。国交省では、この2年間で3度にわたり公共工事設計労務単価を引き上げました。これにより全国平均で3割程度の引き上げとなっております。2つ目は社会保険への加入です。
 国の目標では平成29年度までには企業単位の加入率が100%、労働者単位では製造業並の加入を目指している。この加入を促進するための措置として国交省では、昨年8月以降は、元請業者については未加入は認めず、一次下請業者については土木工事で3千万円以上、建築工事では4千5百万円以上の直轄工事には参入させないこととしており、さらに今年8月1日からは、請負金額に関係なく、全ての工事において元請と一次下請は社会保険加入業者に限ることとなります。

■社会保険加入に関して、専門工事業団体では法定福利費確保に係る標準見積書を活用することとしておりますが。

植田

 ええ、しかしながら現状では元請は「見積書の提出がない」とし、専門工事業者は「見積書を提出するようにとの依頼がない」と双方で食い違いがあります。これを改善するため、下請企業を使う場合には、必ず法定福利費を計上した標準見積書を使用することを下請指導ガイドラインに明記しました。
 近畿の加入状況では、企業単位では福井県の加入率が高く、全国平均で見ると滋賀県、京都府、和歌山県、奈良県、大阪府が低くなっており、特に大都市部において低くなる傾向にあります。労働者単位でも、福井県を除く各府県で全国平均を下回る結果となっています。これらのことを踏まえて、処遇改善への取り組みはしっかりと実施する必要はあります。

■保険加入は処遇改善の第一歩であると。

植田

 2点目は、建設業の将来の安定性、持続して工事が確保できるか否かです。幸い、ここ3年間の公共事業予算は、前年度よりプラスアルファとなっており、今後もこの水準で推移させていく必要はあります。また現在、各府県単位で国土強靱化計画を策定していることから、その中でしっかりと公共事業を位置付けていく。さらにブロック単位で広域地方計画を策定中でありますが、この中においても公共事業を位置付けていくことで、将来的にも公共事業は確保されることを示す必要があると考えています。
 3点目の仕事に対するやりがいは、例えば高速道路ができる前の現場やダム再開発事業で、ダムの堤体を穿つところを見せるなど、国交省では現在、「見せる現場」に取り組んでおります。これが好評を博しており、旅行会社がツアーを組むなど人気があります。また、太田大臣がよく仰る「建設業は町医者」ということです。災害時や除雪など、住民の生活が成り立っていくには、その地域の建設業者が必要で、それを担う地元の建設業者を強くアピールしていくことも大事ですね。従来のイメージを変えるために我々と業界が一緒になって取り組んでいくことが重要です。

■次に元請団体としての取り組みについて。

川嶋

 兵庫県では、今年3月に私ども兵庫県建設業協会を中心に、県内の建設関係団体で構成する兵庫県建設産業団体連合会を設立しました。設立にあたっては、いろいろと経緯はありましたが、結論的には担い手確保ということが、各団体に共通する課題であったことが最大の動機になりました。
 公共投資の確保をはじめ、将来にわたる様々な課題がある中で、次代の担い手を確保し、育成することが我々建設業に課せられた当面の課題であり、元請と専門工事業者ともに同じ課題として取り組むことが今、始まったと認識しており、今後、あらゆる角度からの取り組みを進めていこうと思っております。
 兵建協としての活動では、県内は北部と中部、南部、さらに東と西によって地域特性が違うことから、各地元企業の成り立ちも様々であり、共通する課題もあれば、地域特有の課題もありますが、いずれの地域でも公共投資が継続的に確保できるかどうかがベースにあり、そこの見通しが立たなければ、担い手確保についても見通しが立たない。公共投資に加えて、民間投資も含めて建設投資が景気の改善とともに増えていくことが理想ではありますが、やはり公共投資が確保できた上での担い手確保です。

■専門工事業の立場からの意見を。

北浦

 高度成長期以前の大阪万博の当時から建設業は右肩上がりの状態でしたが、その頃からも職人は不足しておりました。このため、職人用の宿舎を建設して人手を確保していた。高度成長期が終わった後も、それなりに工事はありましたが、十数年前から公共事業が減少してきた。建設業の基本は公共事業で、工事量に変動はあるが川嶋会長が仰ったように、民間投資もさることながら公共投資が継続して確保できるかどうかが課題。
 特に職人を安定的に雇用するには工事の平準化が必要。現在のように年度末に工期が集中し、それが過ぎればヒマになるような工程の組み方は物に合わせた工程であり、人に合わせた工程ではない。これからは人に合わせた工程を組まないとやっていけない。土木工事は、建築工事と比べてその傾向にあるが、建築の場合は不安定な状況にある。建築技術はもの凄く進歩してきた。合理化も進み職人が少数でもできる部分も出てきた。それはそれで良いことだとは思いますが、土木の場合はそうはいかない部分もある。

■人材育成に関しては現在、国や業界で様々な取り組みが進められておりますが、兵庫県では先進的な取り組みも行われております。

川嶋

 兵庫県では、昭和50年代に当時の雇用促進事業団により三田市に三田建設技能研修センターが設置されました。担い手確保が顕在化する中で同センターへの注目度が高まってきておりますが、その機能をさらにレベルアップするため、昨年、建設業振興基金が、国交省と厚労省の支援の下、建設コンソーシアム事業を創設されました。この事業に私も三田建設技能研修センター代表の立場で委員として参加させていただいておりますが、それを受け兵庫県として今年三月に地域コンソーシアム事業への取り組みを開始しました。
 この中でも一貫して言われているのが担い手確保で、次世代のまちづくりのために、人材を確保していこうと。国のデータが示すように、20歳代は10%にまで落ち込んでおり、建設産業としての人員構成は非常にいびつな形になっています。これは本当に我々の喫緊の課題であり、将来世代から「何をやっていたんだ」と叱責を受けないように取り組まなければと思っております。

北浦

 ものづくりは発注者と元請、下請、職人などが皆で作るものだと言われていますが、今、建築現場の職人は「現場がおもしろくない」と言っている。かつての現場は、厳しさはありましたが、物をつくるという目標と楽しさ、おもしろさはあった。おもしろくなくなった原因の一つに元請の監督が「パソコンばかりいじって現場に出てこない」という声が一番多かった。売上や技術を競うことは構わないが、やはりゼネコンの技術者が現場に出てこないような現場では志気が低下する。優秀な技術者というのは技能のことを知った上での技術者である。やはり建設業の原点は現場にある。そのことを忘れ、数字とコストばかりに目がいっている。

 法定福利費支払い記録に  北浦会長
 他業との賃金格差問題   川嶋会長

■これまでの保険加入をはじめとする処遇改善の取り組みについて、何かご意見は。

北浦

 世の中のスピードの早さに比べ建設業は遅い。社会保険未加入対策でも5年間の猶予としているが、5年もたてば世の中がどう変化しているか予測できない。それだけに保険の前に処遇改善が必要で、まず賃金を上げることだ。私が建団連の会長に就任した平成12年に、国家資格を持った職人の年収を3百万円から5百万円まで上げたいと発言したが、その後、日建連が6百万円とすることを打ち出した。しかしその当時は元請によるダンピングが横行しており、私は「できるわけがない」と思っておりましたが、未だにできていない。それだけの年収があれば保険にも十分加入できる。
 ところが現在では、保険に入らないと仕事に参加できないや、調査が入るなど下請にとっては脅かしばかりで、何をどうすれば良いのかという相談が多い。法定福利費に関しても、植田部長が指摘されたように元請は請求がないと言い、下請は請求しても払ってくれないと言う。卵が先か鶏が先かの議論になっている。

■なるほど

北浦

 この何十年間は、同じことの繰り返しです。この問題を一つずつ解決していくため、建専連の西日本ブロックでは、元請に提出する見積書について、一般経費とは別枠で法定福利費を計上するよう請求することとしました。業者からは、「計上しても支払ってもらえない」との意見がありますが、払ってもらえるかどうかより、まずは統一して明記した上で提出することで、払ってもらえない場合は記録として残しておくようにしました。今後、何らかの形でデータとして活用できるかもしれないことから、これを徹底して実施させていきます。

川嶋

 建産連ができたことにより、そういった専門工事業側の意見も入ってくるようになるとは思います。兵建協の会員の多くは、先程も言いましたように各地域に根ざした事業を展開しており、中には公共事業だけに頼っている業者もおります。また、技能労働者の中には、田植えと稲刈りの時期を除けば皆さんが建設業に従事されている。

北浦

 それは土木工事が中心ですか。大阪では8割が民間の建築工事で、その残りが公共土木です。

川嶋

 やはり都市部とは違いますね。これは福井県や滋賀県と同様、県内では淡路から丹波、但馬と土木事業が中心となっております。

北浦

 福井県での保険加入率が高いのもそのためで民間が中心となる大阪や東京などと比べ、その違いがはっきりしている。

植田

 公共事業も土木が中心で営繕工事は少ないです。まして土木と建築では利益率もかなり違うでしょう。

川嶋

 民間建築は競争が激しく、どうしても利益率は薄くなります。ただ、土木にしても最低量が確保できればいいんですが、やはり人の問題は避けられません。これまでの建設業は、農作業が終われば戻ってきていた人達によって支えられていることが強みでした。とはいえ、他産業との賃金格差が開きすぎることは問題です。

北浦

 問題はそこです。いくらイメージアップを図っても、現実に食べていけない以上、夢を持てと言ったところで無理です。金銭の話しをすることを避ける向きもありますが、それを避けて職人に話しをすることはできません。登録基幹技能者をはじめ国家資格を持った職人の賃金が何故低いのか。後輩からすれば、あれだけ努力して資格を取っても低賃金であれば辞めていきます。将来のことも重要ですが、やはり今いる職人達の処遇改善が早急の課題で、足元を固めていくことだ。先行きをそんなに心配することより、今は何をすべきかが大事です。

 職人のいる業者に発注を   北浦会長
 災害に地場業者の機動力  川嶋会長
 技術力のない発注者支援  植田部長

■人材確保もそうですが、人材の質も重要ではないかと思います。

北浦

 生産性ということになりますが、例えば10人でやる仕事を、職長が中心となり7人くらいでやるのが請負ですが、それが今は出面精算になっている。これは生産性を著しく下げるもので、今一度、元請も下請も請負であることを認識する必要がある。安全についても腕の良い職人は事故を起こさない。今は規則で縛られ、安全帯をはじめとする装具着用を義務付けられての作業が多すぎると嘆いている。
 処遇改善の目的の一つには腕の良い職人を育てることもあります。腕の良い職人がいれば、生産性も上がるし安全性も向上するということを認識してもらいたい。

■相乗効果がある。
北浦

 今一つのお願いは、職人がおり、機械を持っている業者に発注してもらいたいということ。元請の中には、単価だけで職人のいない業者に仕事を出しているところが多い。契約にあたってはその業者が本当に職人や機械を持っているかどうかを確認していただきたい。どうしても単価ばかりに目がいきますが、そこのところをよく理解していただきたい。業種によってはブローカー的な業者がまだまだ横行しています。
 これからの業者は、規模をコンパクトにして少数精鋭でやるしかないのでは。そうすることで地場の業者も生き残っていける。地場の企業がなければ災害対応はできません。地方を良くしようと思えばやはり地場産業としての建設業を育成する必要があります。

川嶋

 ある程度の建設企業が県内に点在することは必要ですね。各地域に拠点となる事業場があれば、そこを通じて地域間のネットワークも形成できお互いに支援、協力が可能となります。その意味からも工事発注の平準化は重要です。この2年間は工事量が増加しましたが、それまでは死に体≠フ状況で、実際に建設業者空白地帯が生じ、まさに業者のミッシングリンクの状態にあり、道路の啓開作業もできない区間が出てきだした。
 このため、防災協定等により多少のネットワークは構築しましたが、やはり、いざというときに動けるのは地場業者です。かつては多くの地場業者がおり、業者側から行政に対して危険箇所等を報告していた時代もありました。

北浦

 かつては、台風が来た時など直ぐに呼び出しがかかり、現場では元請社員から下請まで全員が張り付いておりました。昔がよかったと言うのではなく、こういった姿勢を受け継ぐためにも、今一度、原点に返る必要がある。建設業の原点は現場にあり、現場の原点は職人にあるという認識を発注者、元請にも認識してほしい。

川嶋

 地域防災の観点から見ても地場の機動力を持った業者の存在は重要です。

北浦

 そのためにも人を育て、雇用している業者に発注してほしい。それぐらいのチェックは元請ならできるはずです。

川嶋

 平成16年の豪雨で円山川が氾濫しましたが、私の会社も豊岡市にあったことから復旧作業にあたりました。その時にはスーパーゼネコンも出動しておりましたが、作業にあたり「どういった資機材が必要か」との問い合わせがありました。スーパー側は当初、大型の作業車両を用意していましたが、我々、地元業者側が道路状況等を説明したことで適切な資機材を用意していただけ、迅速な活動ができました。

北浦

 私自身は将来に関してそんなに悲観していない。これだけ技術が進歩すれば、それほど多くの人手を要しない。今はかなり省力化が進んでいる。工事全体から見れば3〜4割程度の職人がいれば現場は回る。その職人に保険を掛ければいい。

■入職促進に関しては、行政をはじめ元請団体等では取り組みを進めており、昨年は建団連でも建築フェアを開催されました。

北浦

 建築フェアについては今年も7月31日と8月1日の2日間にわたり実施しますが、これにより入職者が増えるとは思っておりませんが、その目的は、一般の方々に建設業の役割やものづくりについて、楽しく理解してもらうことなどのPRです。

川嶋

 本当はみんなものづくりがしたいはず。それがしたくてこの世界に入った人が多くいる。興味を持って土木なり建築の学校に入ったはずが、学校を出てからは管理、管理で縛られている部分もある。若い人に聞くと、雨の中で作業することは別に気にならないと言う。むしろ、やりたくてもやらしてもえないという部分があり、そういった思いを抱えたまま年数がたつと辞めていく人もいる。現場で鉄筋を組み、コンクリート打設をして見て初めて解ることもある。
 そういった環境が今はありません。私自身も、現場にいた時、はめ板をはずす時は仕上がり具合が気になって仕方がなかったですが、綺麗に仕上がっていた時のうれしさは何とも言えませんでした。現場では、そういったことで胸をときめかせるような経験ができた。現在もそういった仕事ができる環境があればとは思います。

■なるほど

川嶋

 また今般、当協会では、テレビでも取り上げられた赤坂プリンスホテル解体工事を担当した大成建設の作業所長を講師に招いて、若手を対象とした勉強会を予定しております、その目的は、大都市での高層建築解体工事の中でも、楽しさやおもしろさがあり、そういった話しも含め若い人達に聞かせることで何かを感じてもらいたい。建設業で自分がやりたかったことなどを。
 大手や中小を問わず、また行政の技術者の方でも、ものづくりの現場を実感する環境にない。現場経験の浅い者同士がものづくりをやっている。そこで問題が出てくれば協議や会議を行うわけですが、現場の実態を解っていないことから問題が解明できないことも実際にあると思います。行政も現場を知ることが必要です。

植田

 確かに、我々も現場に行く機会は減っている。その要因として現場業務以外の仕事が増え、そちらに手を取られていることがあります。これには行政側にも人がいないことがあります。特に地方公共団体においては技術系職員の数が少なく、市町村の中には技術系職員が全くいない場合もある。

■自治体の技術者不足への対応に関しては、運用指針にも明記されておりますが。

植田

 発注者としての責任を全うすることを主眼としております。特に小さな市町村には技術系職員がおらず、例えば工事で設計変更を行う場合でも上手く対応することができない。そこを府県や国がどう支援していくかということは重要であり、その一つとして各府県に設置されている技術センターに積算を委託する等の体制を構築するか、あるいは、コンサルタントかゼネコンに設計から施工まで一括発注することも一つの方策です。
 工事の内容がわからないまま、単に価格が安いだけの理由で工事を続けさせることはどうかと思います。やはり技術的な観点から、技術力のない発注者への支援体制を検討することは重要だと思います。ただ、少なくとも歩切りはやめさせる必要があります。今回の改正品確法では、その点についてはっきりと違法であると明記しており、少しずつではありますが、市町村の認識も変わりつつあります。

北浦

 その辺については強く指導していただきたい。違法であっても請負側はなかなか異を唱えにくく、まして下請業者の場合はなおさらで、ほとんど場合、泣き寝入りしているのが現状です。

 受・発注話し合い活発化  植田部長
 仕事につながる評価を   北浦会長
 建設の魅力絶えず発信   川嶋会長

■先程、発注者の意識が変わってきたとありましたが、川嶋会長自身、何かお感じなることはありますか。

川嶋

 ここ数年、近畿整備局との意見交換会においても、整備局側から出先事務所とのトラブルに関して具体的な意見を聞かせてほしいと要請されており、我々も具体名を挙げて報告しております。以前までは、そういったトラブルは殆ど泣き寝入りでしたが、最近では調査を約束していただき、対応も早くなっており、良い流れになりつつあるとは感じております。

北浦

 先程、私が見積書に法定福利費計上欄を設け、支払の有無を記録することを奨励したのも、具体的に証拠として残すためです。やるべきことはやっておかなくてはいけない。

植田

 確かに担い手三法の改正以降、発注者と受注者の話し合いが活発化し、受注者同士での話し合いも活発になってきた。これまで、公共工事の発注に関して議論することはあまりなかった。その辺の雰囲気が大きく変わってきたことも効果の現れだと思います。

川嶋

 兵建協でも地整の企画部長を中心に各事務所長も出席して意見交換を行っておりますが、従来は総論的な話し合いでしたが、最近は各論まで踏み込んだものとなってきた。やはり、そういった場で、本音を話してほしいと言われれば、こちらとしてもありがたい。実態を解っていただく上でも大事です。

植田

 発注者側に話しを聞こうとする姿勢が出てきています。ざっくばらんに具体的に聞こうとする姿勢が末端にまで浸透してきていることは確かです。

北浦

 発注部局にも実情を理解してもらう必要はある。現在、近畿地整でコンクリート品質コンテストを実施しておりますが、表彰を受けても専門工事業者にメリットがない。元請は総合評価の対象になるが、専門工事業者としては表彰されても、次に仕事がもらえる保障はない。そのあたりのインセンティブを考慮してほしい。ゼネコンにも協力会や下請に対する表彰制度があり、賞状をもらうことで励みにはなりますが、それよりも仕事をもらう方がもっと励みになる。
 また専門工事業者側も、表彰等の受賞実績をもっと表に出してアピールすればいいし、元請側も単価ばかり見ずにそういった業者を使えば、結果的には生産性も上がり、品質も確保できることを認識すべきでは。

川嶋

 確かに発注条件でのインセンティブを付ければ良いと思いますし、元請と下請が同一歩調でいけば、元請、下請とも経営上にも大きなメリットが生まれる。

■登録基幹技能者の活用、評価については。

植田

 登録基幹技能者については、総合評価方式において評価対象とし、各地方整備局で加点しておりますが、近畿整備局の加点における配点が一番高くなっております。入札時に基幹技能者を配置することを明らかにした場合、加点評価するもので、職人さんを評価するもので、これもやりがいにつながるものとして、今後も取り組みを進めてまいります。

 
北浦

 登録基幹技能者についても課題がある。登録基幹技能者の資格は、一級施工管理技士の資格があれば取得できることからゼネコンの技術社員が取得するケースが多くなっている。勿論、基幹技能者を目指し一級技能士資格を取得しようとする職人も増えているため制度自体に不満はなく、また元請社員が取得することが悪いとは思いませんが、取得するには技能のことをもっと勉強してもらいたい。制度に対する評価が高まるにつれ、有資格者が総合評価で加点対象となっているだけに、名義貸しのようなことが起こらないとは限りませんから。

■今後、処遇改善を進める上にあたっての課題は。

北浦

 地方では職種の中でとび工になる者が多いが辞めていく者も多いが、それ以上に入ってくる者が多い。確かにやんちゃな子も多いですが、そこはやり方で、人が入って来ないことには話しにならない。また、地方で職人が多いとされる業者は社員として雇用しているからで、職人は親方が育てる。社員と職人は違うということを認識しないと、全て職人でくくってしまうから話しがややこしくなってくる。

川嶋

 現在、兵庫県では建設業魅力アップ協議会を立ち上げて活動を行っておりますが、今年度は定時制高校の生徒を企業で受け入れる取り組みを進めております。勿論、生徒もそれぞれ個性がありますから、元請だけなく専門工事業にもアルバイトで受け入れてもらうことで、建設産業を知ってもらおうと思っております。また、国の地域人づくり事業として人材育成に取り組んでおります。
 ただ、実際に働き出して2〜3カ月過ぎると「建設業はきつい」と思うみたいですが、我々としては7割程度の歩留まりがあれば良いと思っております。やはり、我々側も知恵を出して発信し、扉を開けないと解らない部分もありますね。女性の登用についても、地方業者はまだまだですが、除々に取り組みを進めていくことでしょうね。こういった取り組みは、何が正解かは解りませんが、少しずつでも情報を発信することが重要だと思います。

北浦

 40年前に大阪でも職人学校を設置していましたが、その時でも歩留まりは1〜2割で良くなかった。しかし、それでもやらなければ残らず、そのためにも職人を大事にしてほしい。職人を持たない業者に発注せず、職人のいる業者に発注すれば、業者も職人を育てていくと思う。

川嶋

 ここ十数年間は本当に苦しかった。生き残りという言葉が真に迫っていた。その時のダメージが今も残っている。それから抜け出すためにも過去を振り返らず取り組んでいかなければならない。我々が行っている人材育成の取り組みも国の支援により原資も確保できている。こういった取り組みも今後、新たなスタイルで出てくるでしょう。
 また、現在コンビニで働いている若い人達も、「いつまでもこのままでいいのか」と内心では悩んでいるかも知れない。そういった若者に対しても、建設業は正規雇用の扉を開けているということを示せば、地域活性化や人口定住に少しでも寄与できればと思っております。

■いずれにしろ担い手確保は、行政と元請、専門工事業者が一体となっての取り組みが必要で、今後もそれぞれの立場でご尽力下さい。



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