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(株)チャーム・ケア・コーポレーション 下村隆彦社長  【平成27年01月05日掲載】

建設業から介護サービス事業へ

選択・集中・スピードで

適正な価格で高品質を提供


 高齢化の進展に伴い、需要が伸び続けている介護事業。介護保険法の改正により他産業の分野からの参入も増え、競争も激しくなりつつある。その中で、建設会社から参入し、業績を伸ばし続けているのが潟`ャーム・ケア・コーポレーション(本社・大阪市北区)。同社の下村隆彦代表取締役社長は、下村建設の社長時代に介護事業を始め、介護付有料老人ホーム事業に特化して現在では近畿はもとより、首都圏でも事業を展開し、順調に業績を伸ばしている。「ここに至るまでは苦しい時期もあった」としながらも選択と集中とスピード≠モットーに、建設業のノウハウを生かした独自の取り組みに努める下村社長に、これまでの経緯や今後の見通しなどを聞いた。

■初めに、現在までの経緯をお聞かせ下さい。

 最初は、独立した事業として立ち上げる予定ではありませんでした。第一号となった大和郡山市での施設は平成17年に開設しましたが、下村建設の介護事業部として実施する予定で行政に相談しました。介護保険法が平成12年に施行され、民間事業者や株式会社が介護事業に参入可能となりましたが、当初、行政側は実績がなく異業種である建設会社に対しては好意的ではなかったですね。
 そこで知り合いのコンサルタントが所有していた訪問介護事業の会社を買取り、申請し許可を得たことが始まりです。その後、訪問介護事業を無償で返還し、会社名を変更して有料老人ホーム事業を始めました。暫らくは建設業と介護事業の二足の草鞋というか、両事業の社長を兼務しておりましたが、介護事業を上場させるため建設会社の社長を弟へ譲り、平成22年に介護に専念することになりました。その後、平成24年4月にジャスダック市場への株式上場を果たすことができました。

■介護事業を始める契機となったのは。

 30歳で祖父から直接バトンタッチされ、社長に就いた当時は夢と希望に燃え、会社の事業規模の拡大ばかりを考えておりました。当時、同業者間の会話は売上や業績の話が中心で、「売上の多い会社が良い会社」との風潮がありました。
 しかし、請負仕事である建設業は、値段を自社で決められません。競争になった場合は値引き合戦となり、赤字工事こそ受けませんが、売上目標を達成するためには少々、無理をすることがあります。そうなると売上は上がるが利益はでないという状況がしばらく続きました。会社の規模が大きくなれば社員も増え、経費も大きくなる。建設業は基本的には出来高払いであり、そのため立替払いが増えることになります。規模の拡大を図れば図るほどリスクが高まってきました。

■建設業の宿命ですね。

 そんな状況の中で「こんなことをしていたら会社を潰してしまうのではないか」と思ったのが39歳の時です。会社は祖父から引き継いだものであり、私の代で潰すわけにはいかないという思いがありました。そこで私は「量から質へ」と経営の一大転換を図りました。このため売上目標は設定せず赤字工事は受注しない、極力競争入札はしないと決め、当時同業他社があまり好んでやらなかった雑工事、今でいうリニューアル工事に特化することにしました。しばらくは売上が激減しましたが、徐々に利益が出るようになりました。
 バブル期でもかたくなに大規模工事に手を出さず雑工事に徹したため、会社の規模も組織も必要以上に拡大しませんでした。バブル崩壊後、規模の拡大を図った多くの会社が苦労する中、当社は比較的被害が少なく乗り切ることができました。しかし、バブルがはじけると、同業他社の多くがリニューアル工事に参入し、競争が激しくなってきました。
 そこで今までの内部留保を利用し、経営の第2の柱として不動産投資を実行し、テナント収入で会社経費を賄う一方、本業で無理することなく選別受注に徹しておりましたので会社経営も安定しておりました。
 そうした中で満60歳、還暦を迎えた時、ふとそれまでの人生を振り返り、残された人生を考えた時に、このままで終わってもいいものかという思いが頭をよぎりました。「社会貢献ができ、もう一頑張りできるものはないか」と考えておりましたところ、2000年に介護保険法が施行され、株式会社が介護事業に参入することができると知り、介護事業をやろうと決心しました。
 介護事業は高齢者の方をお世話する社会貢献性のある事業ですし、今後、ますます高齢化が進展する中で十分成長する事業であり、やり方次第では十分採算のある事業と確信しました。

■なるほど。

 一口に介護事業といっても訪問介護からデイサービス、特別養護老人ホームや福祉用具の販売に至るまで、25種類に分類されます。その中で介護付有料老人ホーム事業に特化して事業をすることに決めました。介護付有料老人ホームは、要介護認定を受けた介護を必要とする人が対象で、介護事業の中で安定した売上、収益が上がるビジネスモデルであることも理由です。また、施設も必要ですから建設業で培った建築のノウハウを生かせることも大きな利点でした。
 また、参入してみて分かったことが、介護事業というのはストックビジネスであるということです。建設業では、一つの工事を受注し、引き渡せばそれで終わりですが、例えば、介護付有料老人ホームの場合は入居率が一定であれば、次年度以降も売上、収益が継続できる。また、自社で価格が決められることも特徴です。いくら立派な建物をつくり、最上のサービスを提供しても月額利用料金(価格)が高ければ利用者は見込めない。そのエリアや入居希望者のニーズに見合った価格設定が重要です。

■本格的に事業に乗り出してからは、いろいろとご苦労もあったのでは。

 介護付有料老人ホームで事業資金を抑えて効果的にやるには土地所有者に施設を建設してもらい、それを一棟借りするのが最善ですが、参入当初は実績も信用力もなかったため、自前で土地を購入し建設せざるを得ませんでしたから、ピーク時には借入金が50億円を超えました。
 私のモットーは「選択と集中とスピード」ですが、介護事業を選択し、その中で介護付有料老人ホームに集中し、それをスピードを持ってやろうと、どんどん進めていったわけです。施設系の介護事業の場合、開設を決定してから最短でも1年はかかります。また開所後の1年間は構造的に赤字となり、収益が出だすのは2年目以降となります。平成17年4月にオープンした1号ホームから、同18年11月オープンの5号ホームまでの17カ月の間に35億円を投資し、平成21年には借入金は50億円に達しました。大手の介護事業者には、それぞれ親会社がありますが、当社の場合、下村建設がバックにあったとはいえ、今にして思えばよく調達できたと思います。

■先行きを見通しても不透明な中で、よく思い切られましたね。

 勿論、介護事業に乗り出したのも、闇雲にやってきたわけではありません。新規事業を起業する場合は、銀行に応援してもらう必要があります。当時の大手銀行2行の支店長に相談しますと、本当にやるのかと言ってなかなか信用してくれませんでしたが、何度もお願いし、OKを頂きました。これも下村建設での本業でしっかりと実績を残していたからだと思います。本業が上手くいっていたからこそ、全く異業種の新規事業に理解を示してくれたものだと思います。
 商売の基本は同じです。例えば大林組さんでは「安くて良いものを安全に」を社是とされておりますが、これは介護事業にも言えることで、安い価格で良いサービスを提供し、入居者の方が安全で安心して生活していただくことが重要です。これはどんな事業にも共通することで、選択と集中とスピードを持って、入居者のニーズに合った価格で高品質なサービスを継続して提供できれば、必ず事業は成功すると確信しておりました。

   立地や人材確保が重要

   今期は27施設売上75億目標

   関東・首都圏の強化へ

■施設の展開にあたって重要になるポイントはありますか。

 ポイントの1つは立地です。交通の利便性が良いにこしたことはありませんが、多少不便でもその他の条件が整えばOKです。しかし、土地については傾斜地や段差の高いところは避け、なるべく平地を選んでいます。
 2つ目のポイントは、その土地に需要があるかどうかです。その地域の高齢者人口等の調査もそうですが、周辺にどのような介護施設があり、入居状況はどうかなど、しっかりとリサーチを行い、需要のある場所に開設することが重要です。しかしながら土地は選びたくても、そう都合よくは手に入りませんから、いかに立地に関する情報を確保するかが重要です。
 当社では現在、大手不動産会社、地場ゼネコン、大手ハウスメーカー、大手鉄道会社、設計事務所、金融機関等から情報を得ております。例えば、大手電鉄会社のJR西日本、山陽電鉄、京王電鉄さんに施設を建設していただき、すでに当社が一棟借りして運営しているホームもあるほか、今後も新規開設が決定しています。
 また、3つ目として人材の確保も大きなポイントです。当社の場合、日々の中途採用も大事ですが、将来の中核となるプロパーの大卒4年生の新規採用を強化しています。昨年は33名採用し、今年は約50名の採用を予定しております。また外国人の採用についても、現在介護サービスでの受け入れは認められておりませんが、規制が緩和されれば積極的に登用していく予定です。

■介護業界では2025年問題が叫ばれておりますが。

 2025年には、団塊の世代の方々が75歳を超えて後期高齢者となります。75歳を超えると要介護発生率が急激に高くなり、4人に1人が要介護状態となり、介護を必要とする人が増えると予想されております。その一方で、今後10年間で労働力人口は660万人減少し、後期高齢者は530万人増加するといわれています。これに対し現在、150万人いる介護スタッフが250万人は必要になるとされています。
 事業としては介護に対する需要は増えることになり、チャンスと捉えることはできますが、需要に見合った介護の担い手を確保できるかどうか。労働力人口の減少は介護事業に限ったことではなく、全産業に言えることで、あらゆる企業が人材を求める中で、世間では3Kと言われる介護事業は人材確保が非常に厳しい状況にあります。
 その中で人材をいかに確保し、どう教育・育成するかが大きな課題です。そのためには給与体系の見直しとキャリアパス制度の刷新が重要です。給与や福利厚生については、来期以降にできるだけ早く業界トップレベルにすることを考えております。またキャリアパス制度では、介護スタッフなどをその能力に応じてランクに分け、実技を積む毎にランクが上がり、頑張った人が報われる仕組みづくりを構築することで各人のモチベーションを高めていきたいと考えております。

■なるほど。

 また、現在は建設工事の工事費が高騰しており、工期も予定より伸びる傾向があるため、その分、事業化が遅れるというリスク要因の一つにもなっています。そういったものも含め、ある程度の事業規模を持ち、総合力でカバーすることも必要です。事業規模が大きくなれば会社の力もつき、情報も集まりやすくなります。また、売上を伸ばし、収益を上げることは人材の確保や教育、育成にもプラスになります。
 既に、介護業界も淘汰の時代に入りつつあり、小規模の事業者はますます苦しくなる中で、給与水準が低く処遇も不十分な事業所には人は集まらなくなってきています。給与が高く、働いた分だけ報われる制度のあるところに人材が流れていきます。当社もこれらの体制を早期に構築していくことを目指しており、それを実現する方策の一つとしてジャスダック市場への株式上場があったわけで、さらに次のステップとして東証一部上場を目指して頑張っております。

■最後に、現在の業績と今後の展望をお聞かせ下さい。

 今期は27施設、約1900居室を確保して、売上では75億円を目指しております。来期は37施設で2500居室を超え、売上も3桁には乗せたいと考えており、近い将来、売上で2百億円、4000居室を目指しております。建築で100億円を目指しても仕事が取れる保証はありませんが、介護事業は実績を積み上げていくことができるため、目標達成が可能であり、そこが強みでもあります。今後については、これまでは近畿圏を中心に展開しておりましたが、やはり圧倒的にパイの大きい関東・首都圏への進出を強化し、できるだけ早い時期に事業比率を5分5分とし、将来的には関東・首都圏での比率を高めていこうかと考えております。

■事業展開に向け今後もご努力下さい。ありがとうございました。

 平成16年4月に、下村建設内に有料老人ホーム開設準備室が設置され、同17年4月に第1号ホームとなる介護付き有料老人ホーム「チャームやまとこおりやま」が開設された。平成19年12月、現社名に変更。現在は介護付有料老人ホーム運営・特定施設入居者生活介護・住宅型有料老人ホーム運営・訪問介護・通所介護・居宅介護支援の事業を手掛けている。平成26年6月期決算の売上高58億1100万円。本社は、大阪市北区中之島3―6―32 ダイビル本館19階、東京支社は、東京都千代田区永田町2―17―17 アイオス永田町ビル5階



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