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土木学会関西支部 森昌文支部長(近畿地方整備局長)  【平成26年11月20日掲載】

技術統合化の中心的役割を

担い手確保で若者らに魅力を発信


 毎年11月18日の「土木の日」とそれに続く「くらしと土木の週間」は、土木が果たす役割を広く理解してもらうことを目的に「公益社団法人 土木学会」が昭和62年に設定したもので、今年で28回目を迎えた。また、今年は同協会創立100周年を迎え、9月には大阪大学で全国大会が開催されるなど記念行事が全国で行われている。相次ぐ自然災害により、社会資本整備の重要性が再認識される中、その社会資本整備に土木事業は不可欠なものとなっている。土木事業の現状やこれからの課題を土木学会関西支部の森昌文支部長に、同支部の活動を含めて聞いてみた。 

■土木の果たす役割についてお聞かせ下さい。

 もともと土木という言葉の語源は、築土構木に由来しています。その築土構木という言葉自体は地域や国土全体をどのように作っていくかというところからきています。まちや社会のシステムを、ただそこに住むだけでなく、経済活動を行い、生活するという仕組みの装置と考えれば、その装置で全体をインテグレートすることが土木の役割だと私は思います。持続可能でかつ、効率的に事業を進めていくためにはどうしたら良いのか、これは常に考えなければならないことです。

■土木の現状と課題を。

 日本には地勢的な問題以外にほとんど制約がないにも係わらず、全体を統合して調整する機能がありませんので、無尽蔵に都市が広がるなど大きな問題が起こっているのではないでしょうか。日本は国土づくりにおいて、特に明治以降、野放図に海外の悪いところも一緒に見習ってしまい、国土の方向を見定めて引っ張ってこなかったのが要因になっているものと思われます。
 また、国土の均衡ある発展とよく言いますが、これは国土の効果的な使い方を目指している考え方からくるものですが、一方でそれは無駄であると言う考え方もあります。いずれにしても、土木と建築両方で全体の最適化やいろんなものへの配慮と最適化、効率化を常に見直しながら国土をつくりあげていく姿勢が必要だと思います。

■防災・減災における土木についてのお考えは。

 大阪の地下街は、海抜0メートル地帯にあり、確実に津波が押し寄せてくるエリアに存在しています。加えて、地下街は非常に危険で手つかずの領域であり、地下街の入口は非常に多くありますし、地下街への入口を全て封鎖するのは困難と考えると、ソフトとしてどのように逃がすのか、防御するのかを考えなければなりません。学術的にも危険なエリアであることは間違いありませんので、早めに手を打ち世間に危機感を持たせるよう周知させることも土木の役割だと思います。

■関西支部としての活動について。

 今年、土木学会が百周年を迎えると同時に、全国大会が大阪で開催されたこともあり、関西支部では、さまざまな活動を行っております。国会で担い手三法が成立するなど、建設業への魅力アップに対して、将来の見通しを含めた生き甲斐、社会的存在意義や価値を周りが認め自分も感じることができる環境づくりが重要視されていますので、そのためにも、百周年を機会に土木の役割などを再認識した上で、世の中に知らせることが我々に期待されているのではと考えております。特に女性や若者を担い手として土木の分野にきていただくには、魅力を感じていただかないといけませんので、土木遺産や現場見学会などの活動も大切ですし、将来的な見通しを作ることも我々の責任だと思います。
 災害や今後増加が見込まれるインフラメンテナンスの担い手自身がいなくなるということは、社会システムとして破綻してしまう可能性があるということですし、災害が発生したとしてもそれを復旧できないということになります。ある一定期間で復旧できなければ、そこは市民が生活できる場ではなくなってしまう訳ですから、一定期間の中で復旧できる仕組みとしての担い手、加えて今後多大なコストを増やさないためのメンテナンスの担い手―。その担い手をしっかり確保していくことが中長期的に必要であり、そのためには、将来の見通しや土木に対して魅力を感じていただける活動が重要だと考えます。

■今後の支部長ご自身の活動は。

 私は、担い手三法の法案成立までの対応に携わり、それにあたり自身で考え行動して参りました。方向付けしたものを具体的に現場で動かしていくことは、私の責任だと思っていますし、そういう意味では担い手三法に魂を入れるにはどうしたら良いのかについて、是非考えていきたいと思います。
 最近では、土木という名の付く学科がなくなってしまった学校が増えています。土木という分野がものづくりだけの分野ではなく、インテグレートする仕組みなどを行う分野であるということを周知し、学校などでももっと間口を広げて技術を習得し、意気込みを持った学生を増やすことも必要だと思います。全体の最適化を図って、技術の統合化という中心的な役割を土木に担ってもらえれば―。そのような発想を持ち得ているのが土木や建築分野の方々ではないでしょうか。土木だけでなく技術全体の総合化を目指していけるような役割の一人としてお役に立ちたいと思います。

■今後のご活躍を期待しております。ありがとうございました。

(松木朋子)
 森昌文(もり・まさふみ) 
 昭和56年3月東京大学工学部土木工学科卒業。同年4月建設省採用、平成4年7月建設経済局調整課調整官、同11年4月道路局企画課建設専門官、同13年8月九州地方整備局福岡国道工事事務所長、同21年7月道路局有料道路課長、同23年1月道路局企画課長、同25年8月大臣官房技術審議官、同26年7月近畿地方整備局長。奈良県出身、55歳。
 


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