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近畿地方整備局 山口浩史営繕部長  【平成26年11月13日掲載】

地域と共に、さまざまな分野で大きな役割

まちなみ形成・技術継承・防災拠点


 行政をはじめ、教育や文化、福祉等の様々な分野にわたり、地域の人々の生活に密接な関わりを持ち、文化水準の向上、まちなみや景観形成を図る上で大きな役割を果たしている公共建築。とりわけ官庁施設は、各種の行政サービスを提供する機能とともに、建築技術の開発や技能継承における役割も担っている。また、近年では、大規模自然災害の発生時に備えた防災拠点としての機能も求められている。こうした中、近畿圏における公共建築行政をリードし、所管する公共建築の整備に努めている近畿地方整備局営繕部の山口浩史部長に、公共建築のあり方等について聞いた。

 (渡辺真也)

■公共建築の役割については、どのようにお考えですか。

 公共建築の多くは税金を使って建設されていることから、広く国民や住民に対して、それが還元できる施設であるようにとの意識を持っており、経済性には常に注意が必要であると考えております。また、建築全体を見た場合、九割は民間建築であり、残り一割が公共建築です。さらにそのうち、国の公共建築が占める割合となるとシェア的にはごく僅かではありますが、それでも他の公共建築の模範となる役割が求められ、それら公共建築が、民間の模範となるようにと常々考えております。
 また整備に際しては、耐震対策やバリアフリー対策、環境対策も実施しますが、近年では、維持修繕や改修工事等による長寿命化が主流となってきております。改修工事にあたっては、従来の建物単体改修だけでなく、地域のエリア内の他の建物も見渡した上で、どの建物を改修するかの取捨選択が必要となってきております。公務員数が減少していく中では、用途や需要のバランスを調整しながら、その中で必要なものだけを実施していくことになります。

■公共建築には、その地域のまちなみ形成の先導や技術を継承する上での役割もあります。

 特に近畿はエリア毎に特徴があり、それら地域になじんだ景観やデザインを考慮する必要があります。また最近では、まちなみ保存に力を入れている地域もあり、そういった部分でも協調していくことも大事です。さらに、我々の整備に合わせて他の公共機関に呼びかけて一体的な景観づくりにも心掛けております。
 技術の継承も大きな役割で、例えば伊勢神宮では20年に1度、式年遷宮として造営がおこなわれており、これも一つには伝統工法の継承の意味があるとされています。ただ、我々の手掛ける公共建築では一定周期でそういった工事が出せるかと言われれば、財政当局との絡みもありますから、なかなか難しい面もありますが、そういった技術の伝承につながるようなものは取り込むように考えていく必要があります。
 また、地域によって継承される技術にも違いがあり、京都の迎賓館では各種の伝統技能が採用されておりますが、迎賓館のように多様な伝統技能を必要とする施設は多くはありません。他の施設では、部分的に活用することにより地域に貢献しようと考えております。例えば、木材の利活用はその良い例だと思います。公共建築でそういった取り組みを行うことにより、技能を継承することと併せて、地域の方々に建物の意義を理解していただき、愛着を持って使っていただける一助になればと思っております。

■公共建築のもう一つの大きな役割としては防災拠点としての機能も求められております。

 国交省では従来から、主要施設に関しては災害時の防災拠点となるよう、大地震等が発生しても建物の倒壊を防ぐだけでなく、インフラが途絶した場合でも、機能を維持できるような仕様にすることとしております。民間施設にそういったことを求めるにはコスト面で課題もあることから、公共が先だってやる必要があり、そういったことも公共建築の役割の一つと考えております。そのため、構造についても建築基準法以上の強度を確保し、ライフラインや設備はもとより、内装では壁や天井が落下しない等の数値を定め、耐震改修工事を実施してきております。現在までに94%の施設で構造対策を実施済みで、残りの6%は建て替え等により対策を行う予定です。
 さらに、構造体の耐震強度向上に加え、東日本大震災以降は津波対策が求められるようになりました。このため重要機能を浸水させないために高層階へ配置する、あるいは建物そのものを高台に移転する等のほか、住民の避難場所とするための避難階段の設置など、これまでの防災拠点の考え方に新たな機能が追加されております。ただ、これらの津波対策については、これから対策を行わなければならない施設が多々あります。

■災害対応には各自治体との協力や連携が必要になります。

 津波被害想定に関しては、それぞれの自治体がハザードマップを作成することになっておりますが、津波の高さ等の予想が難しく、それに対応する計画のあり方について検討中とする自治体も多いようです。整備局としては、被害想定の検討状況を見極めつつ、いろいろ協議を重ね、必要な整備水準を定め、それら施設を防災拠点として使用することもできるよう積極的に働きかけることで、それぞれの自治体もいろいろと協力してくれるものと思っています。

■公共建築の担い手として営繕工事における不調不落、技能工や技術者等の人材不足は、どうお考えですか。

 土木が線の整備だとすれば、建築は点の整備になります。工事内容や施工場所によっては、対応できる業者が少なく、専任技術者が足りないこともあり不調不落になりやすい工事はあります。このため当局では、近隣現場と合わせた発注や見積活用方式の採用等の入札契約方式改善に努めております。
 技能者の不足問題では、建築や設備は工種が多く、さらに工事のタイミングがあります。そのタイミングに合わせて、それぞれの工種の技能者や資材が必要になりますから、実際の現場ではいろいろ難しいやりくりでご苦労されていると思います。その対策として今後、近畿地方整備局ではフレックス工期の導入も検討しております。長めに工期を設定した上で、その期間内のどの時期に工事を行ってもよいという制度です。特に、年度末の繁忙期に工事を行うものでは一定の効果があるのではないかと考え、準備を進めているところです。

■今後の公共建築の整備の方向性は。

 財政状況が厳しい折、大規模な建築工事は少なくなっておりますが、ある程度の規模のものであればPFIの採用も検討していきます。コンペに関しては、記念碑的な建築物等で採用してきましたが、対象となる建築物の所管が独立行政法人に移行している場合が多く、国では殆どやることがなくなってきていますね。例えば、新国立競技場のように我々としては、多様な社会的要請がある中で、官庁施設整備でしっかりその要請に応えていく必要があります。今後の設計者選定に関しては、価格ではなく設計者の技術評価ということで、引き続きプロポーザルでやって行く予定です。

■今後も、良質な公共建築の整備にご尽力下さい。

山口浩史(やまぐち・ひろし) 
 昭和60年3月新潟大学工学部建築学科卒業。同年4月建設省採用、平成10年3月九州地方整備局営繕部計画課長、同13年9月関東地方整備局営繕部計画課長、同16年4月大臣官房官庁営繕部計画課企画専門官、同19年4月中国地方整備局営繕部営繕調査官、同20年7月関東地方整備局営繕部営繕調査官、同22年4月大臣官房官庁営繕部整備課特別整備室長、同26年7月近畿地方整備局営繕部長。栃木県出身、53歳。


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