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土木学会関西支部 宮川豊章支部長  【平成25年11月18日掲載】

「丈夫で、美しく、長持ち」であること

関西人ならではの「使いこなす気風」


 毎年11月18日の「土木の日」とそれに続く「くらしと土木の週間」は、土木が果たす役割を広く理解してもらうことを目的に「公益社団法人 土木学会」が昭和62年に設定したもので、今年で27回目を迎えた。相次ぐ自然災害により、社会資本整備の重要性が再認識される中、その社会資本整備に土木事業は不可欠なものとなっている。土木事業の現状やこれからの課題を土木学会関西支部の宮川豊章支部長に、同支部の活動を含めて聞いてみた。

■土木の果たす役割についてお考えをお聞かせください。

 私は常々、土木構造物に対して「丈夫で、美しく、長持ち」という言葉を使っております。つまり、いろんな天災や厄災があっても壊れない、あるいは上手く壊れてくれる。また、地元住民の誇りになるような美しさを持ち、しかも、子供、孫、ひ孫も使える土木構造物となりますと、必然的に長持ちを考えなければならない―。丈夫で美しく長持ちする土木構造物、土木施設、土木システムによって、丈夫で美しく長持ちする市民社会を支えることが、土木の基本だと考えています。
 また「丈夫で、美しく、長持ち」な土木構造物というのは、非常に贅沢な要求となりますから、ハードな部分からソフトの部分まで全てを網羅した形で、社会に提供しなければならないと考えております。ですから、上下左右いろんな方向いろんな技術を組み合わせた総合工学として市民社会を支えることが、土木が果たす役割の本質的なところなのではないでしょうか。

■現在の土木の現状と課題を。

 総合工学によってきっちりと造りこなされた既設構造物をどのように使いこなすのか。メンテナンス元年と言われている現在、それが一番の課題だと考えております。コンクリートから人へと言われ、設備や人材が削減されました。仕事が増えても、人材が足りなくて手を抜くようなことがあってはならない訳です。ですから今こそ、技術が問われているのだと思います。単に造ったり確かめたりする技術だけではなく、その元となる受発注システムや歩掛かりについても替えていただきたい。非常に安い金額でしか受注できず、技術力のあるところがなかなか手を出せないようになってきていることは大きな問題だと思います。

■減災・防災における土木についてのお考えは。

 計画、設計、施工、維持管理からなる構造物の生涯をどのように送らせるか―。私はそれをシナリオと呼んでいますが、そのシナリオを考えて構造物に対応しなければならないと考えております。土木構造物は時代によって技術に限界があり、その時代によっては悪影響も受けます。しかし悪影響を受けたとしても、そこで維持管理の技術を磨くことができますし、最終的にはその維持管理技術を次の世代に応用することで、市民社会にとっても有功なものとなります。
 それをふまえて、減災・防災について申しますと、一つは、時空間シナリオが必要だと考えております。東日本大震災時における東北新幹線の橋脚や橋梁の被害状況を見た時に、新しい基準で作られたものは被災がないことがわかります。要するに地震という作用があってそれに対して土木構造物が持っている性能がそれに打ち勝つだけのものあれば大丈夫であって、単に年数が古いから駄目なのではなく、古い基準であることが問題であるのと同時に、劣化の問題については、保有性能が元々低いか高いかという問題ですので、いずれも時間軸を考慮しなくてはいけません。
 もう一つは、壊れない或いは上手く壊れるということです。それは逃げる余裕が生まれることに繋がり、非常に重要なことです。設計において、ある荷重レベルを設定する訳ですから、そのレベルより大きな力がかかれば必ず壊れます。壊れる時にどう対応するのかというのがソフトだとすると、そのソフト技術もしっかり構築させることが災害対応につながると考えております。

■関西支部としての活動について。

 関西には古い構造物が多いですが、それを大事に使っていこうとする気概や気風が関西にはあります。昔から維持管理では関西支部が一番優れておりまして、例えば構造物が劣化したら新しく作ればよいという考えがありますが、そうすることによりマーケットが元気になるという意見もあるからです。それは確かに理解できますが、マーケットが元気になるといっても、予算には限りがあり、しかも税金を使うわけですから、やはり適切に使いこなすことが重要だと思います。関西支部は、以前から適切に使いこなすという考え方を持っていて、その研究成果も極めて早くから出ています。これは、皆と同じところだけで安心せず、違う視点から本当に大事なところを見つけ出すことに重きを置く、関西人ならではのことではないかと思います。
 また、関西支部は全国の中でも特殊な支部で、FCC活動である土土木カフェやブリッジコンテストなど関西支部発のイベントが多数あります。来年、百周年を迎える土木学会において記念となる全国大会が、大阪大学で九月十日から十二日まで開催されますが、全国展開でそれらのイベントを行う予定です。大会では、言わば土木の底力と申しますか、新しい切り口で次の百年に向けての提案が関西から発信できればと考えております。

■支部長ご自身の研究テーマも「コンクリート構造物の塩害」と、研究開始当時誰も手をつけなかったテーマを選ばれたとのこと。関西人の支部長ならではとも言えます。今後のご活躍を期待しております。ありがとうございました。

昭和48年3月京都大学工学部土木工学科卒業、同50年3月同大学大学院工学研究科修士課程修了、同60年5月同大学博士。同50年4月京都大学助手(工学部)、平成元年6月同大学講師(工学部)・同大学大学院工学研究科担当、同3年4月同大学助教授(工学部)、同8年4月同大学助教授(大学院工学研究科)、同10年5月同大学教授(大学院工学研究科)、同14年4月同大学教授(大学院工学研究科社会基盤工学専攻)。滋賀県出身、63歳。


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