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大阪府建団連 阿食更一郎相談役  【平成25年10月07日掲載】

工期短縮で「鏝仕上げ」が激減

加速する高齢化、左官離れ

必要な竣工時期の平準化


 震災復興に加えて、オリンピックの開催決定など工事量の増加が期待される中で、高齢化に伴う職人不足への懸念がいっそう強まっている。中でも、左官工は「他職に比べて60代の比率が高い」とも指摘され、その技能伝承の点でも危機的状況にあるという。大阪府建団連相談役・阿食更一郎氏に課題などを聞いた。

 (中山貴雄)
 

■最近、左官の手配に苦労しているという声を聞きます。

 「仕事が増えたというより、職人の数が急速に減ったのが原因。左官にはあまり若者が入職してこない。高齢化が最も進んだ職種だろう。現場でも、鳶や鉄筋、大工などでは若い人もチラホラ見かけるが、左官工は極端に少なく、60歳過ぎて現場に出ている人も多い。
 というのも労働条件に少々問題がある。湿式工法だから作業時間が読めない。特に冬場は硬化が遅く、通常六時で終わる筈の作業が八時までかかったりする。逆に夏場は早く固まり、昼食をとる暇もないほど作業に追われる。おまけに左官仕事は汚れる。賃金の問題はさておき、そんなことも敬遠される理由ではないだろうか」

■その辺りは鳶職などと比べ、少々事情が違う。

 「ウチ(亀井組)もこの3〜4年は、若い人の採用がゼロという状態が続いている。また、入職しても1年ほどで辞めていく。現在、ウチの職人の平均年齢は53〜54歳くらい。やはり40代以下は少ない。比率で言えば60代が2割、50代が6割、40代以下が2割。概ねそんなところ。特に50代後半の人間が多く、あと2〜3年すれば、今より約2割は減るとみている」

■入職促進は長年の課題ですが、なかなか上手くいかない。

 「高校を卒業して左官職人になっても、使えるまでに最低3年かかる。昔は下請業者も粗利益があったから、個別に訓練学校をつくるなど自前で職人を育てられた。しかし、バブル崩壊以降、どこの下請業者にもそんな余力はない。だからこそ、協会や組合の単位で教育機関をつくり、そこに、国や企業がお金を出す。そんな仕組みが必要になってくる」
 「そしてこれからの職人には、納税や社会保険なども含めて、世間のルールや常識をしっかり身につけさせること。『職人は酒好き、遊び好き』というのはもう過去の話にしないと。社会性のない者にいくら『保険に入れ』と言ったところで実現はおぼつかない。せめて将来、職人のリーダーになる1割くらいの若者に絞って基礎教育を施すべきだ。仮に左官工が全国で10万人いるとすれば1万人程度。そうしないと業界は良くならない。他の産業では、優れた技能者を育てるために投資を惜しむことはない。これまでの専門工事業者は、2代目や3代目を集めて経営者教育ばかりやっていたが、そろそろ抜本的に見直す時期にきている」

■過去には名義人が社内学校をつくりましたが、成功しませんでした。

 「私は45年前にオランダの職業訓練学校を視察したことがある。職人を目指す子供たちが、中学校を卒業して全国からここに入学してくる。カリキュラムでは建築の勉強はもちろん、一般教養の講義まで行っている。また生徒は在学中に自らの適正を考慮した上で、左官、大工、鉄筋といった職種を選択するシステムだ。そしてその運営費については、国、ゼネコン、下請業者がそれぞれ応分に拠出して賄う。また訓練学校ではあるが、卒業生は高卒と同等資格を得られる。こういった事例も大いに参考にすべきだろう」

■ところで今、左官工の仕事自体に魅力がなくなったように思えます。

 「現在の左官の仕事は『不陸調整』。つまりコンクリートの凹凸を平滑にする。そんな補修仕事みたいなものが多くなり、職人の腕が試される鏝仕上げの仕事は激減した。工期短縮のため、人手をかけないで済む設計や工法になったからだ。20年ほど前には床でも左官で仕上げたものだが、今では土間の上にPタイルやシートを貼り、左官はその下地を請けている。本来、左官の仕事は表面に出て、仕上げの美しさを認められてお金がもらえる。下に隠れてしまっては、どんなにいい仕事をしても評価されないし職人の腕も上がらない。とはいえ、今後、左官工が不要になるという訳ではない」
 「むろん、こんな状況に追い込まれたのは下請の責任も大きい。何でも『ゼネコンさんにお願い、設計事務所にお願い』ばかりで主体性がない。受け身の方が楽だから。かつての左官職人は極めて自主性が高く、自ら新しいものに挑戦し、世の中に認知させ、独立して、いっぱしの大将になっていった。今はそんな気概もない。他力本願だ。業界全体がそうなってしまった。先人たちの姿勢を今の人も見習わないといけない」

■左官の場合、これからも仕様変更で職人不足を補うと。そんな流れが続くのでしょうか。

 「ゼネコンさんは、まだ何とかなると思っている様子だ。実際、左官工が足りない中でも現場はかろうじて回っている。また、相変わらず安値受注が続き、設計労務単価の引き上げもさほど反映されていない。結局、現場が止まってはじめて慌てだすことになる。一方、左官業者も危機意識が希薄だ。何故か。職人が集まらず工期が間に合わないとなれば、自ずと単価は上がっていく。さらに東京オリンピックも決まり、一時的に多忙になることは間違いない。従って内心では、左官工の不足を待ち望んでいるフシもある。ただ、そうこうしている間にも、優秀な若い子が左官から他職に移る可能性もある。防水工とか類似したもので賃金の高い職種はいくらでもあるから・・・」

■阿食さんはかねてより発注時期の問題も指摘されています。

 「建設業界は3月の年度末になったら猫の手も借りたいほど忙しく、この時期を過ぎれば極端に暇になる。こういった波の大きい受注環境が続く限り、安定して人材育成することは困難だ。建設業界あげて発注者に対し、竣工時期の平準化を求めていくことが重要だと思う。職人の手取りを増やして社会保険加入を進めることも必要だが、同時に、こういった点についても国土交通省には率先して動いてもらいたい」



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