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兵庫県鳶土工連合会 筒井 弘会長  【平成25年09月12日掲載】

職人抱える業者に発注を

届かない現場の声、親方の団結も必要


 今年4月から設計労務単価が引き上げられるなど社会保険加入に向けた動きがいよいよ本格化してきた。しかし依然として業界内では、負担増による経営の悪化、職人の流出などに強い懸念を示す元請や専門工事業者も少なくない。実際に職人を抱える親方はどう考えているのか。兵庫県鳶土工連合会の筒井弘会長(筒井組社長)に、実状や保険加入実現に向けての課題などを聞いた。

 (中山貴雄)

■深刻な職人不足が続いています。まずは発注面での課題からお聞かせください。

 「われわれ鳶の仕事の場合、今から20年以上前には、ゼネコンさんが各現場で足場の図面を書いていた。材料は材料屋さん(リース業者)に発注し、鳶は手間請け。その頃は鳶の業界も若者が多く活気もあった。ところが、バブル崩壊で市場が縮小し、ゼネコンさんも人員削減を進めた。それに伴って、材料屋さんに『図面を書きなさい』、さらには『鳶も手配しなさい』と指示するようになった。結果、材料屋さんが力をつけ、鳶職を仕切り始めた。しかも自社の利益を優先して鳶の単価を値切る。こんな状況で職人なんて育てられる訳がない。当然、ゼネコンさんもこうなると分かっていた筈だ。職人を育成するのであれば、発注を昔の状態に戻す必要があるだろう」

■コストが厳しい上に現場作業以外の負担も増えている・・・。

 「最近ゼネコンさんから一級技能士や基幹技能者などの資格取得を強く求められる。しかし、いくらお金と時間をかけて取得しても、単価には一切反映されない。加えて、安全書類や作業手順書の作成など事務仕事も膨大で、その負担も重い。そんな切羽詰まったところに社会保険の加入となると、正直、われわれのような業者はもたない。もちろん、社会保険が大事なことは承知している。特に入職してくる若い子には必要だ。とはいえ、設計労務単価の引き上げも浸透していない中、保険負担しろと言われても無理な話だ」

■業者だけではなく職人の抵抗も強いと聞く。

 「40代以上の職人だと『今さら社会保険なんて』というのが本音ではないか。今から加入しても年金の受給資格を得られない者もいる。彼らを救済する制度も考えないといけない。
 もともと職人は、保険に対する意識が乏しい。税務申告していない者までいる。それが末端の現実だ。保険加入して手取りが減ると辞めていく者も出てくるだろう。『それなら鳶なんかやめてトラックに乗るわ』と。そういった懸念もある。とりわけ賃金の低い手元の人たちは、いつ生活保護に流れてもおかしくない状況でもある。『現場から排除するぞ』と強引に加入を進めたところで、そう簡単に受け入れてはくれない」

■では、保険加入の促進のために必要なことは。

 「個人的には、専用請求書の中に社会保険の項目をつくることが望ましいと考えている。つまり、別枠計上して末端まできちんと流れる仕組みをつくる。あわせて法律をつくって支払いを義務化し同時に通報制度も充実させること。そうしないと必ずどこかで止まる。また、職人を説得するためにも、法令化するくらいの迫力が必要だ。
 そして何よりも、ゼネコンさんの理解と協力が不可欠。やはり建設業界の上層部から意識を変えてもらわないと。そのためにも、国土交通省のさらなる指導・教育に期待したいと思う」

■他に望みたいことは。

 「末端で働いている人間がどれくらい苦労しているのか。本当のところが行政には届いていない。業界からも情報が上がっていないように思える。国が職人の高齢化に強い危機感を持つのであれば実際に職人を抱える親方の声に耳を傾けてもらいたい。だからこそ、われわれのような叩き上げの親方も団結し、もっと声を上げていかないと」

■現場の親方たちは、技能伝承の危機に直面して苦しんでいる。

 「職人の世界というものは本来、丁稚から始めて職人、そして親方になっていくものだが、もはやこの流れが維持できなくなっている。親方も丁稚も少なくなり、大きくバランスが崩れた。
 例えばウチ(筒井組)の場合、職人の年齢構成は40代が半分以上で20代が1人〜2人。あとは10代。30代の中間層が全くいない。なお採用については、私が保護司をしている関係から、親や学校の先生がやんちゃな子たちを連れてくる。『社長、何とか面倒見て欲しい』と。今年は中卒の若い子を3人預かって残ったのは1人だ」

■若い子は入ってくるものの、定着率は極めて低いということ。

 「やはり問題は夏場の作業環境にもある。特に今年のような酷暑だと身体がもたない。多くの若者がこの時期に現場から去って行く。ここを乗り切る知恵と工夫が必要だ。例えば、昼間の最も暑い時間帯は休憩にして、その代わり早朝や夜間に作業してもらうとか。人材確保のためには、社会保険の前にやっておくべきこともある。ただ本音で言えば、やはり職人の魅力は賃金。かつての親方連中は高級車に乗り、遊びも豪快だった。若い子たちもそれを見て『自分も将来、親方になりたい』と、辛くても歯を食いしばって頑張った。しかし今ではそんなこともできない。若い子が憧れる親方も少なくなってしまった」



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