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変革のとき 建設業界 【平成25年7月29日掲載】 |
【 対 談 】 |
一般社団法人 兵庫県建設業協会 前川容洋会長 |
建設産業専門団体近畿地区連合会 北浦年一会長 |
《オブザーバー》 |
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公共工事設計労務単価の引き上げや技能労働者に対する適正な水準の賃金支払いなど、社会保険未加入対策をはじめとする職人に対する処遇改善に向け、国をはじめ元請、下請の各団体での動きが活発化してきている。こうした状況の下、中野晋蔵・前近畿地方整備局建政部建設産業調整官を交えて、保険加入について「安定した工事量の確保が必要」と語る兵庫県建設業協会の前川容洋会長と、「保険加入はあくまで処遇改善の一つの方策」とする建設産業専門団体近畿地区連合会の北浦年一会長に、元請と下請の立場から語ってもらった。 |
■まずは、若年者の入職促進など国交省の取り組みについて、中野調整官から最近の施策についてお話願いします。 |
中野 |
建設業が直面する問題としては、建設投資の縮小による競争激化、それによるダンピングの増加により、社会保険等を適正に負担している企業が不利益を被っていること、職人の高齢化と後継者不足、賃金とともに企業体力が低下していることから、人を雇えないといったことが全体の共通課題であり、元請と下請、関係者が一致して取り組まなければならないものと認識しております。 |
■これらの状況の中で、今年度は設計労務単価が引き上げられました。 |
中野 |
労務単価は、平成11年から下がり続けておりました。それが今年度から普通作業員で15.7%、鉄筋工で15.4%、型枠工で15.6%の引き上げで、躯体三職種で平均15%以上引き上げました。この単価設定は、技能工の減少に伴う労働市場の実勢価格や法定福利費相当額の確保を反映したものです。これまでとの違いは、社会保険未加入対策の一環として個人負担の法定福利費相当額として5%、実勢価格の増加分を10%として平均15%としたものです。 |
■これまでの国の取り組み、現在の状況について前川会長のお考えを。 |
前川 |
急激な建設投資の減少が続く中での供給過多の対策として「技術と経営に優れた企業を生き残す」という方針で総合評価落札方式が取り入れられました。一方、東日本大震災の復興復旧では、労働力、材料供給力、施工能力において建設生産システムの崩壊が確認され、入札結果として不調が続く状況が生じています。 |
■単価が上がれば賃金も上がり保険にも加入でき、若い人が入ってくるといった単純な構造ではない。 |
前川 |
若い人は賃金だけではないと思う。賃金だけならもっと安定した他産業に行くと思う。経済対策で一時的に仕事量が増加しても先行きが不透明では、不安定であります。一定の仕事を継続して確保することが重要だと思う。常に仕事があってこそやっていける。 |
北浦 |
私も専門工事一筋で50年以上やってきており、ゼネコンの苦しさや下請の苦しみも分かっております。右肩上がりの時代であった高度成長期の理論が未だに染み付いている。仕事が安定してあることが一番だとは思いますが、その理論は破綻してしまっている。その状況の中で、今回の社会保険問題は現状の立て直しの一歩であると考えている。また単価にしても上がった訳ではない。これまで五割下がったとしたら二割戻っただけ。経営者の義務である社会保険も、私は加入することが目的ではなく職人の処遇改善が目的だと考えております。 |
前川 |
今回、労務単価を引き上げられましたが、民間までそれが元請から2次、3次の下請職人にまで適正に行き渡るかどうか、行き渡らせるためには業界全体の底上げが必要で、日建連や全建では決議を行っていますが、本当に可能かどうか疑問を感じています。 |
北浦 |
前川会長が言われるような新たな制度を構築するにはさらに数年間はかかると思います。ならば、現在のシステムの中で、元請と下請がいかに歩調を合わせていくかを考えるべきです。いろいろと意見がある中で、出来ることからやっていく。私の主張は、保険加入とともに職人を持っている業者への発注、ダンピング受注と社会保険未加入に対する罰則の強化です。全体を大きく変えるには相当な時間がかかりますが、それでも一歩を踏み出さないことには始まらない。 |
先日、太田大臣にお会いした時「現状は如何です」と問われ「正常に動いています」と答えたところ怪訝な顔をされたので「現場が止まってない限りは正常な状態です。ただ、先行きには危機感を持っています」と答えました。各現場が止まってどうにもならない状況なら「異常」ですが、現状だけ見れば厳しいながらも現場は動いている。労務単価が上がったと言われても現状ではまだ手元に来ておらず、そのため不安感だけが先行してしまっている。この流れを国交省はじめ元請、下請が一緒になって変えていかなければならない。 |
前川 |
ただ、これまでは職人を分裂細分化することで現場を守ってきた。その中でその職人グループが人を増やそうとしているときに、法律とはいえ5人以上の企業は社会保険加入を義務付けねばならないという厳格化が必要なのでしょうか。それでも実施するのであれば、仕事量を一定量確保するなりの方策を考えていただかなければなりません。 |
北浦 |
保険はあくまで一つの手段であり、目的は職人の処遇改善である。会長が言われるとおり、発注者とゼネコン、親方が一緒に考えないといけない。私が思うに仕事が半分になったら業者も半分にならないとだめだ。業者が半分になれば過当競争はなくなる。ところが業者は25%、職人は30%、仕事は50%が減った現在、まだ余力は残っています。二次・三次の業者が倒産しても職人は減らないと思っています。なぜならその下で、職人を抱えている50代の親方の連中は、職人としても職長クラスの腕があり、これらが現場へ出れば優秀な職人として立派にやっていけるからです。 |
■しかし、不良不適格業者は未だ存在している。 |
北浦 |
実際に職人を持たない一次業者も存在する。受注してから人を集めるブローカーまがいの親方がいる。職人を抱えていくことは確かにしんどい。職人を育てるには時間もコストも掛かるが、これからは職人を抱えている業者が生き残れるよう、元請にはそういった業者に発注してもらいたい。これまでは職人を抱え、保険にも加入していた業者が潰れてきたが、今回、その仕組みを国が変えようとしている。仕組みづくりは国に任せるとしても業界は業界でやらないといけない。 |
■なるほど |
北浦 |
元請にお願いしたいのは、保険に入っていなくとも、とりあえず職人を抱えている業者に発注してほしいということ。私は今すぐに保険に加入しろとは言いません。まずは、職人を抱えているかどうかを確認する。その中で保険にも加入して職人を抱えている業者が複数あれば、その中で競争させればいい。つまり、同じルールで競争させてほしいということ。それが現在は、お金だけを天秤にかけて業者を選んでいる。この点を、先程も言った地元ゼネコンと地元業者の違いとともに強調したい。 |
前川 |
大手の協力会では確かに有効でしょうが、地方の場合、専門業者は材料を支給し、職人集団に仕事を頼む中で施工管理をするといった形態が多く、それをもう一度再編して統合する新たな仕組みを構築するには難しい部分がある。 |
北浦 |
現在、姫路をはじめ岡山、広島の一次業者の中小グループで再編の動きが始まっております。そもそも大手ゼネコンの名義人が元請の真似をするからおかしくなってきた。ならば、地元の小さなグループが連携し、融通し合えるような仕組みを作りたい。 |
前川 |
一つの方法として欧米の(独自の社会保険を持つ)ユニオンという組織がありますが、諸事情で加入率は低下しているそうです。 |
北浦 |
ぜひともお願いしたい。しかし前川会長のようなお考えの方は少数なのが残念。 |
■最近では多能工を養成しようという動きもあります。 |
北浦 |
特殊工にしても個々の企業では無理。業界はもとより国交省と厚労省が一緒にならないと、縦割り行政の弊害が出てくる。同じテーブルで議論しないと、どちらか一方だけでは前に進まない。特に労働者の処遇改善の7割は厚労省の制度管轄である。 |
■前川会長は先程、若い人は親方に憧れていると言われておりましたが、会長ご自身はどのような親方像をイメージされておりますか。 |
前川 |
格好が良いだけでなく仕事を愛し、誇りをもち、独自の技能技術を有し、生き生きと仕事をし、息子や地域の若者達にも声を掛けて仕事に引っ張り込み、その影響を受けた弟子も働くことに喜びを持つ。 そして自然に弟子が増えていく。そんな親方像を考えます。こんな活き活きとした状況を壊す社会保険の法律はむしろ問題とも思います。歓んで加入できる新しい保険制度を考えられないかと思う。 |
北浦 |
確かに現在のやり方では、ある程度の工事量が見込まれる大手ゼネコンの協力会社であれば実現は可能だろうが、小規模業者では難しい。 |
前川 |
人がやる気を起こすのはどういった時か。働けば働いた分だけ、努力した分だけ評価される時です。天候や工程の遅れにより仕事ができず、別の仕事を探さなければならない場合などは、それぞれが必死になっている。弊社では出来るだけ馴染みの職人が仕事をしてもらえるように心掛けている。その中で弊社技術者と一緒になって顧客満足度を追求し、人づくりに心掛けています。 |
中野 |
問題の原点は建設産業の特性である単品受注生産にある。製造業と違い、日常的に仕事が確保されている訳でもなく、そこに厳しさがあり、それに加えて公共と民間、土木と建築の工事があり、 一番のしわ寄せが来ているのが末端の技能労働者です。何とか20日間は安定して仕事が回せるようにということでは、国交省も共通した認識を持っています。 |
北浦 |
そのためにも国交省と厚労省が一緒になって規制を緩和する必要がある。 |
前川 |
現在、確かに仕事は増えてきており、既に仕事があっても職人がいない、応援を要請しても賃金が高くなってきている状況もあります。その中で若者を入れたいが「5人以上となるとまずい」 と保険未加入問題を真剣に考え躊躇が起こる。そういった根っこの部分に多くの問題がある。こんな現場の声をだれが聞くのか。 |
中野 |
保険に関しては個人事業主で5人以上を直接雇用する場合は加入義務があり、それに関しては本省でも認識しておりますが、保険未加入問題は、方策2011や2012等のいろんな メニューがある中の一方策であります。国交省では企業単位での加入が限界であろうとの見解もあり、個人事業主の下にいる労働者単位の保険加入については、厚労省の管轄であると法律で決まっていることから、 国交省の立場では、建設企業でありながら保険未加入の企業が不良不適格業者であるとしています。 |
前川 |
腕も能力もある親方の下にはやる気のある若者が集ってきますが、そういった場合、保険加入が壁となって増やしたくても増やせない人もいる。一方、社会保険加入企業には 若い人が増えるという発想、2つの考えがあり、その辺を柔軟に考えながら、それぞれが上手くいくようになればとも思う。 |
北浦 |
私も今すぐに全員が保険に入れとは言わない。まずは直用にして、それから順次、保険加入を進めていきなさいと言っている。いきなり保険加入すれば潰れてしまう業者もいる。 |
中野 |
今回のメ―ンテーマは技能労働者の入職促進と育成で、せめて製造業なみの処遇にしようとするもので、その一つが社会保険です。公共工事では労務単価を上げ、一般管理費を上げ、 そこを民間にも理解していただく。そのためまずは元請、受注者に変わっていただきたいというのが第一です。それぞれが自制をして適正な契約をしていただきたいということです。 |
■いろいろと貴重なご意見をお聞かせいただき有り難うございました。 |
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