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近畿地方整備局港湾空港部 成瀬英治部長  【平成25年03月25日掲載】

近畿圏の港湾 国際化時代の戦略

インフラ整備さらに推進

巨大地震にハードとソフトで対応


 都市圏における物流拠点として、また、社会経済活動を支える上で不可欠なものとなっている港湾機能。社会や経済情勢が変化する中にあっても、国際インフラである港湾整備の遅れは許されず、東日本大震災以降は、港湾に対する大規模災害等に対する備えも急務のもとなっている。近畿圏での港湾整備や海岸事業をリードする近畿地方整備局港湾空港部では、地理的条件や海域の異なる管内の各港湾整備にあたり、それぞれの特性を生かした施策の展開を図っているが、その陣頭に立つ成瀬英治部長に、阪神港をはじめとする事業の見通しについて聞いた。

(渡辺真也)

■東日本大震災以降、防災対策の大幅な見直しが行われておりますが、港湾関係における基本的な方針は。

 現在、内閣府で地震における被害想定の見直しがなされており、その中で南海トラフ地震に関しましては、地震の規模と津波の高さなど従来の予測が見直されたことから、国土交通省でも見直しに向けた作業が行われております。近畿管内では昨年11月に、地震津波対策に関する基本方針が打ち出され、今後はそれに基づいて具体的な対策を計画していくことになります。計画の中では、ハード面はもちろんですが、災害時の事業継続計画であるBCPについて、これまでに上町断層帯地震を想定した計画は策定しておりましたが、今回、新たに南海トラフ地震に対応したBCPを策定いたしました。

■ハード面での対策では。

 和歌山下津港の海岸事業として浮上式防波堤の工事を実施しております。2月には上部鋼管の挿入工事を行いました。これまで機能確認のための試験を実施しており、その結果を踏まえまして、今後の設計や施工上に生かしていく予定です。岸壁や護岸に関しましては、阪神港での耐震改良をはじめ、ガントリークレーン等の荷役機械の耐震化等を進めていきます。阪神港では国際物流の観点からも、物流の流れを止めないことが大前提になりますから、神戸と大阪両港での必要なインフラ整備を推進していきます。

■阪神港に関しては、国際インフラとしての役割が高まっております。

 阪神港では昨年、神戸と大阪両港の埠頭会社が国の特例港湾指定会社となり、国有施設を借り受けての運営を開始しました。ただ、これは改正港湾法上の手続で、国際競争力を発揮する上での条件を整えただけのもので、実際に貨物を呼び込むためには今後、産官学が一体となって努力しなければなりません。埠頭会社だけに努力を求めるのではなく、国としてもインフラ整備で支援し、船運や倉庫等の民間事業者に対しては、もっと港を使っていただくといった意識を高める必要があります。また将来的には、さらに競争力を高めるため、神戸・大阪の埠頭会社を経営統合する予定です。

■来年度の事業の見通しについて。

 予算につきましては平成24年度補正での近畿管内の港湾関係予算で約120億円、このうち阪神港では約93億円が計上されたことから、必要条件となるインフラ整備に関しての手当てはできたかなと思っております。また25年度予算に関しましても、京浜港と阪神港の戦略港湾で約400億円が認められたことで、施策と予算の両面から選択と集中が行われております。これによりインフラ整備の遅れが集荷に影響するといったことがないよう、予算の着実な執行に務めていきます。

■公共事業の執行はキャッシュフローで見た場合は経済対策として効果はありますが、ストックとして見た場合の充足度は。

 それなりのストックは充足しているとは思いますが、社会的なニーズが変化し、ストックとしての寿命が来る前に用途転換することもあるのではないかと思います。もちろん、船舶が大型化する中では、既存ストックでは対応できず、より高度なものが求められる場合もあることから、新たな整備は必要ではありますが、新規に整備する場合はできるだけ長く維持する必要もある。しかしながら社会的要請とマッチしないものは転換を図っていってもいいのではないかと考えます。

■大阪湾諸港と阪神港の連携も必要では。

 現在、大阪府と大阪市で府市港湾の統合が進められており、将来的には大阪湾諸港の一体化も視野に入れていると伺っております。我々としても戦略港湾である阪神港の埠頭会社の経営統合にも合致する部分があり、それらの動きを見ながら連携を図っていきたいとは思っております。大阪湾としての連携には、防災や物流はもとより、環境保全の面からも期待できます。特に環境に関して大阪湾は進んでいる面があり、湾岸地域の取組も熱心で、NPOをはじめとする民間団体等の活動も活発だと感じます。

■なるほど。

 このほか、近畿管内には日本海や大阪湾、太平洋と、いずれも気象や海象が異なる三つの海域を有しており、このため阪神港のような日本を代表する国際港湾や地域の核となる舞鶴港や和歌山港など、それぞれ性格の違った港湾があります。舞鶴港は、国際クルーズや国際物流などの日本海側の交流拠点港と位置付けされ、我々としても単なるインフラ整備だけでなく対外交流への協力を支援してまいります。和歌山港については、災害対応が課題であり、先程も言いましたが浮上式防波堤などの整備を着実に実施していきます。

■災害対応に関しては、防災から減災へシフトしております。

 ハードにより被害を100%防ぐことは不可能であり、仮に巨大な構造物で対応することができても、使い勝手が悪く、通常の経済活動等に支障が生じてきます。このため、ある程度はハードで、後はソフトで対応するといった減災の概念が主力となります。また、防波堤等の海岸防御施設については、被災地の状況を見た場合、例えば釜石港では津波の到達時間を遅らせるといった部分で防波堤は機能しておりましたが、やはり万全なものではなかった。このことから現在では、粘り強い構造に防波堤を強化する方針が打ち出されております。ただ、予算上の制約もあり想定する被害との兼ね合いとなり、できるところから整備していくことになります。

■ハードによりある程度の被害を食い止め、あとは逃げる。

 特に和歌山の場合、稲村の火に代表されるように、防災意識が非常に高い地域であり、その意識が保持されています。我々も常日頃から災害に備える意識を持つことが必要だと思います。また、防災については昨年4月、堺泉北港の堺2区に基幹的広域防災拠点が供用を開始しました。ここでは職員が24時間365日体制で常駐し、関係機関と連携して防災訓練を実施しており、これら拠点施設を活用した訓練は常時、実施していくことも必要です。

■ところで建設業界に対してご意見、ご要望がございましたら。

 災害対応に関して近畿整備局では昨年、災害時建設事業継続力認定制度を創設し第一次の認定を行いましたが、この中には港湾関係の多くの企業が認定され、二次にも多数の申請が行われるなど、業界全体が前向きに対応されていることに感謝いたします。今後は、15カ月予算として景気対策も含め、経済効果が出るように早期の事業執行にも努めてまいります。発注にあたっては高品質なものを効果的に提供することが求められますが、それらインフラ整備の一翼を担う建設業界には、そういった部分や、また各種の技術開発にも期待しております。

■ありがとうございました。

成瀬英治(なるせ・えいじ)
 昭和63年3月京都大学大学院工学研究科土木工学専攻修了、同年4月運輸省採用、平成8年10月運輸政策局総合計画課専門官、同10年2月在ブラジル日本国大使館二等書記官、同年4月一等書記官、同13年4月近畿地方整備局港湾空港部港湾計画課長、同14年4月同地域港湾空港調整官、同15年7月鉄道局施設課長補佐、同16年10月(財)沿岸技術研究センター研究主幹、同18年5月沖縄総合事務局開発建設部港湾空港指導官、同20年7月東京都参事、同22年9月港湾局国際・環境課港湾環境政策室長(併任港湾局国際・環境課海洋環境対策官)同23年4月港湾局港湾経済課港湾物流戦略室長を経て、今年1月より現職に。香川県出身。50歳。


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