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ビナ・キョウエイ・スチール社(ベトナム) 森 光廣社長  【平成24年12月20日掲載】

電炉・圧延一貫ラインを新設  生産能力倍増へ

20年で約10倍の鉄筋需要


日本式「ネジ節鉄筋」も市場投入


 鉄筋棒鋼のトップメーカーである共英製鋼(大阪市北区)。同社は約20年前、日本の鉄鋼業としては初めて、ベトナム鉄鋼公社との合弁による「ビナ・キョウエイ・スチール社」(以下VKS社、ベトナム・バリアブンタウ省)を設立。その後VKS社は、経済の急成長に伴って着実に業績を伸ばし、ブランドも浸透。今では鉄筋サプライヤーとして揺るぎない地位を確立した。 
 ただ、最近のベトナム経済には陰りが見え始める。現地建設関係者も「不動産は売れない。中小企業の倒産も多い。ここ数年は厳しい状況が続く」との見方を示す。今後の見通しや事業展開などをVKS社の社長であり、ホーチミン日本商工会会長も務める森光廣氏に聞いた。         (中山貴雄)

■まずはベトナム進出の経緯からお聞かせ下さい。

 「親会社である共英製鋼は、もともと日本の鉄鋼メーカーの中でも海外志向が強かった。1960年代から台湾やタイ、74年には、日本の鉄鋼業としては初めてアメリカに進出。ニューヨーク州に鉄鋼ミルをつくった。ベトナムでは、これも74年でまだ統一前。ここが南ベトナムだった時代に製鉄設備を納め、技術指導を行った。その後ベトナムは、86年のドイモイ政策で経済を自由化。90年代に入ると、企業の進出先として注目され始めた。その頃の共英製鋼は、タイやインドネシアでは実績を上げおり、東南アジアでの次の拠点として、ベトナムを候補地に選んだ。そして92年頃から調査を始め、94年に当社を設立。同年10月には工場建設に着手し、96年から操業している。当時、ベトナムに進出した日本企業としては、最も大規模なものだったと言える。私は初代社長を6年間務め、2000年に帰国したが、一昨年、社長で再度着任した」

■その当時のベトナム進出は、かなり思い切った決断だったのでは。

 「結局、日本市場オンリーの事業展開に限界を感じていた。建設投資額はピーク時から半減。今では約40兆円。当然、鉄筋の需要も減っていく。92年頃には、国内市場だけで年約1200万トン〜1300万トンとも言われていたが、現在では約800万トン程度。今後も減っていく。だから、われわれは常に海外市場を視野に入れていた。東南アジアで次に可能性のある市場。人口が多く(現在約8800万人)、国の建設をスタートさせたばかりのベトナムは、今後、建設鋼材の需要は伸びる。そう判断した。あわせてベトナムという国を知っていたことも大きな理由だ」
 「私が初めて訪れた92年当時、ベトナムの鉄筋の需要量は年50万トン程だった。少々足踏みしているとはいえ、今やそれが年約500万トンまで伸びた。20年で約10倍の規模に成長した。まだまだインフラは不足しており、近い将来、必ず年800万トンまでいくだろう。また個人的には、これから10年で1000万トンを超すと見ている」
 「けれども競争は激しい。参入している鉄筋メーカーは大小あわせて約30社以上。現地企業でも大きいところでは、年間100万トン程の生産能力を有する。メーカー全体では、おそらく年800万トン〜900万トンくらいの供給能力を持つ。さらに韓国のポスコも参入してくる。ますます熾烈な争いになるだろう」

■工場の供給体制、シェアなどについては。

 「工場の生産能力は年間で約45万トン。立ち上げ当初は約24万トンだったが設備改造や操業時間増で増強した。現在は単圧設備で200人強のベトナム人が製造現場を担う。日本人は管理責任者の副社長一人だけ。また、ベトナム国内における当社シェアは約9%。今年は40万トン強の生産を見込んでおり、出荷先はベトナム国内市場向けが90%以上。残りはカンボジアやラオスなどに輸出している」
 「なお、バリアブンタウ省にある当社工場(フーミー工業団地内)は、ホーチミン市内から約75q。現在は車で約1時間半以上かかる。だが、2年後に高速道路が開通すれば距離にして約50q。市内から1時間以内で通勤可能となる。当然、鉄鋼業は物流面で港が非常に重要となるが、近くには日本のODAによる2つの港を含め、10万トン程度の船が接岸できる港湾群がある。さらには建設予定の新国際空港にも近い。空港の完成には10年〜15年くらいかかると思うが将来的には非常に良いロケーションになると期待している」

■今年6月に新設ラインの起工式を行った。増産計画、その背景を詳しく。

 「新たに工場を拡張して生産能力を倍増する。具体的には、電炉・圧延一貫ラインを新設し、年80万トン〜90万トンの供給体制を構築していく。投資金額は約2億ドル(約160億円)。既に製造設備を発注し、まもなく建設に取りかかる。電力供給にも何とかメドがつき、再来年前半(5月〜6月)から稼働する予定だ。電炉の原料となるスクラップは、アメリカ、オーストラリア、日本などから輸入することになる」
 「また建設市場に関しては、ホーチミン市内だけでも地下鉄は6号線まで計画されており、他にも高速道路や発電所など膨大なインフラ投資が見込まれる。最近のベトナム経済は減速し、あと1〜2年くらい厳しい環境が続くかも知れない。それでも、いずれは回復し、長期的に需要は伸びると確信している。ベトナムのインフラ整備のスピードは確かに遅い。しかし、モタモタしながらも計画は進めていく。そうしないとこの国は成り立たない。まだ何もないんだから。実際、今でも着実にインフラは出来上がっている。とりわけ日本のODAが一番多い。同時にアパートやオフィスビルなど民需の伸びも期待できる。前述のとおり、需要倍増が見込まれ、今の体制では将来的にシェアを落としてしまう。だからこそ、生産能力を増強し、今後も10%くらいのシェアを確保しようと決断した」

■昨秋には日本式のネジ節鉄筋の製造販売も開始した。

 「ベトナムでは、鉄筋の接続は独特の機械式がポピュラー。日本のような溶接は殆どない。ところ
が現場を見てみると、ワーカーが鉄筋の端面を圧縮で太くし、そこにネジを切削して継手(カプラー)をつけていた。しかも鉄筋同士を繋げる際には、相手方の鉄筋をぐるぐる回す。これでは、きちんと入っているかどうか分からないし、品質面でも不安がある。ネジ切り部分も錆びやすい。そんなこともあって、圧延工程でネジを加工する『ネジ節鉄筋』を売ろうと決めた。日本で普及している方式だ。これなら接続も確実だし、先組み工法の採用も可能。加えて、ベトナムのワーカーはこのような継手に慣れている。コスト面でさらなる努力が必要だが、受け入れられる素地はある。既に当社でつくったネジ節鉄筋はカンボジアの『ネアックルン橋』(日本のODA)に採用されている。ベトナムではまだ実績がないので、サイズや規格などを建設省に申請し、現在承認待ちの状態だ。できれば来年夏頃には販売開始し、高速道路や地下鉄などのインフラ分野、高層ビルに展開したい」

■コストにシビアなベトナムで、高品質の製品を売るのは大変では。

 「私が初代社長の頃、当社の鉄筋をテレビCMで流した。日本では考えられない話だろう。何故そうしたか。ベトナムでは個人が家を建てる時、建築屋さんに材料支給する。鉄筋やセメント、レンガを自ら調達して、『これでやりなさい』と。施主が建築材料を吟味する。建築屋さんを信用しておらず、日本のように一括発注・請負方式ではない。従って、コマーシャルで消費者への認知度を上げれば、鉄筋を買ってくれると考えた。結果、個人住宅の分野で当社は大きくシェアを伸ばすことができた。もちろん、日本ブランドへの高い信頼性もプラスに働いた。ところで、ベトナムの一般的な住宅は、鉄筋の入った柱と梁、そしてレンガ積み。一戸当たりで約25〜26s/uの鉄筋を使う。つまり、100uなら約2.5トン。これくらいの量なら、多少割高でも安心できる鉄筋を買う。そういう側面もこの市場にはある。もっとも、近ごろはデベロッパーによる住宅供給も増えて、価格面も厳しくなってきた。ブランドに頼るだけでは上手くはいかない」

■建設業では、韓国企業の施工案件が目立つ。工事リスクや価格面から、日本企業は二の足を踏んでいる様子だ。

 「ODA案件でさえ支払いが遅れ、地方政府の発注工事も代金回収に苦労することがある。ただ、そんな状況であっても韓国ゼネコンは積極的に受注している。果敢にリスクを取り、その上に安い。品質レベルもかなり上がってきたと思う。日系企業も徐々に民間や政府案件を受注しているが、まだまだ韓国勢に及ばない。ホーチミン市内の駐在員数を見ても、韓国人は日本人の約10倍いる。また韓国ゼネコンは、現地ゼネコンを上手く使って施工している。一方でベトナムの建設会社も『韓国に教えられ、鍛えられた』とも言っている」
 「ベトナム人からは『日本企業は価格が高い』と言われるが、私は『品質が違う』と反論している。イニシャルコストに惑わされている。実際に現地ゼネコンなどの施工案件では、完成したばかりなのにデコボコ、すぐにやり直す。そんなケースもよく見られ、一部では『品質を上げよう』という声も上がっている。とはいえ、全体としては相変わらずコスト最優先。品質改善に向けた取り組みは余り進んでいない。だが、こんな状況も徐々に是正されていくだろうし、ベトナム人の考え方もやがて変わる。私はそう思っている」



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