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ベトナム・ロンタングループ  レ・バン・キム会長  【平成24年11月12日掲載】

南部経済の中心地で新たなまちづくり(843ヘクタール)

コンセプトは「混在」

必要な日本企業の智恵


 今年1月〜9月期の実質成長率が4.7%(前年同期5.8%)と景気減速も指摘され始めたベトナム経済。金融引き締めによって不動産市場の停滞も懸念される。その一方、増加する中間所得者層の住宅ニーズはまだまだ満たされておらず、消費意欲も高い。事業者は難しい舵取りを迫られている状況だ。
 ベトナム南部経済の中心地、ドンナイ省ロンタン地区。工場が集積する同地区で、中流層をメインターゲットに壮大なまちづくりプロジェクト(843ヘクタール)に取り組む「ロンタンゴルフインベストメント&トレーディングジョイントストックカンパニー」(以下ロンタングループ)のレ・バン・キム会長に事業展開などを聞いた。(中山貴雄)

■キム会長が一代で築いたロンタングループは、不動産開発および建設(ベトナム国内、ラオス)、ゴルフ場経営(前同)、ホテル&リゾート経営(ベトナム国内)などの事業を展開し、傘下のグループ会社は12社にのぼる。従業員数は約2千人。資本金は1億ドル(約80億円)、総資産は4億ドル(約320億円)。国営の大企業が多いベトナムにあって、民間では屈指の規模を誇るファミリー企業だ。

 「ロンタングループは1978年に個人業として夫婦2人でスタートした。当時ベトナムでは、会社と言えば国営企業しかなかったが、バイクを売って資金をつくった。最初のビジネスは飼料の製造販売。その後、小回りが利く会社として塗料の製造販売など様々な事業を手がけた。私はもともと土木エンジニアだが、妻が化学エンジニアであり、初期の事業を大いに助けてくれた。そしてドイモイ政策(1986年)以降、90年代に入ってからはアパレル業。この時はベトナムで初めて、日本の技術を導入し、機械化に成功した。輸出先は旧ソ連、ポーランドなどの東欧諸国。ドイツやイタリアなど西側からはアウトソーシングで受注した。また、ベトナム経済が上昇していく中、1990年代後半には建設業に参入し、この時も様々な国から機械を調達し、ベトナムで最初に杭打機を取り入れた。そして2000年代に現在の主力事業、不動産開発を始めた。ホーチミン市の政策もあり、不動産市場が伸びると判断したからだ。最近ではラオスでの鉱山開発にも力を入れている」

■キム会長は大の親日家でもある。昨年の東日本大震災では32万ドルの義援金を贈った。また今回のプロジェクトでも、建築家の小山雄二氏をアドバイザーとし、事業提案も日本の設計事務所に依頼する予定だ。

 「私はこれまでのビジネスを通じて、日本企業に対して非常に良い印象を持っている。特に80年代〜90年代にかけての塗料およびアパレル事業では、日本企業から機械を購入して技術移転してもらった。日本企業はとても細かい部分まで指導や提案をしてくれた。もちろん導入時だけではなく、アフターサービスにも大変満足した。加えて、ベトナム戦争時に日本人が応援してくれたこともあり、友人になれる国だと思っている。今回の開発でも、是非日本企業の智恵を借りたいし、同時に投資家も募っている」

■ロンタン地区のまちづくりでは、既に第1期、第2期として36ホールの『ロンタン・ゴルフクラブ』を中核とする別荘地を開発。約80%を宅地分譲した。現在計画中の第3期以降の開発については、ドンナイ省の認可を受け、約3分の1の土地買収を済ませている。今後さらに、民間資金で開発地を確保し、住宅地などを造成し分譲する方針だ。

 「計画当初は高級住宅地を予定していたが、その後検討を加え、庶民から富裕層まで色んな人たちが住む街へとコンセプトを変えた。いわゆる『混在』する街。やはり、そうしないと街にはならない。中でもメインターゲットとなるのは、ある程度の高等教育を受けた人たち。つまり知識層。分かりやすくドル換算にすると、月収600ドル以上の人を主な購買層として考えている」
 「ベトナム人で夫の月収が約600ドル。一般的にこれらの人たちは市内の賃貸アパートに住む。もしくは遠くに小さな土地を買い、家を建てる。しかし、決して自分の好む場所に住めている訳ではなく、住環境としても良いとは言えない。従って、これら中流層のニーズをしっかり捉えていく。ただ、先ほども申し上げたように、600ドル以上の人だけではなく、街をエリア分けして、様々な階層の人が混在する街を目指す。具体的に数字を示すと、中流階層で月収600ドル以上の人が約50%。同じく中流で600ドル前後の人が約20%。トップの富裕層が約5%。そして、低所得者層(月収300ドル前後)が約25%。もっとも所得の低い人たちには、富裕層の近くに住むことで『自分も上を目指して頑張る』と。そんな気持ちを持って欲しいと思っている。実際のところ、低所得者向け住宅はビジネスとしては成立しないだろう。だが、ベトナムにはまだ学校にさえ行けない子供もいる。開発で得られる利益の一部で彼らを応援していきたい」

■昨年には、総合商社の双日らが「ロンドウック工業団地」(来年夏に完成)をロンタン地区に設立、注目を集めた。2020年には新国際空港も完成予定であり、現在整備の進む国際港湾ターミナルへも車で約1時間。さらに南北高速道路の一部開通(2014年)によって、ホーチミン市中心部からは約45分。「工場立地としては最高」(現地建設会社)とも言われるが、反面、労働者の住宅は不足し遠方から通う人も多く、潜在需要は高そうだ。

 「家族の絆が非常に強いベトナムでは、親が貯金などの資産を子供に残す。例えその子が成人していても。これは教育面でも同じだが、子供が家を購入する時には全面的に支援する。そして、子供は親からもらった資産などを売却し、家を買う。取得費用の四割〜五割程度をそれで賄う。残った分はローンを組む。つまり半分くらいは自己資金だ。例えば、夫が600ドルの収入で共働きだとする。そうすると、900ドル〜1000ドルが世帯収入。この所得層に販売する住宅は10万ドル〜15万ドルの価格帯を想定している。ベトナムには不動産を買える中流以上の人はまだまだ多く、特に知識層はインフレから資産を守るため、不動産への投資意識も高い。いずれにせよ、南部経済の中心地に、敢えてこのゴルフ場を立ち上げた時と同様、フロンティア精神でまちづくりに取り組んでいく」



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