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大阪府住宅まちづくり審議会会長 高田光雄 京大大学院教授  【平成24年05月28日掲載】

居住安定性確保を

マスタープラン さらなる検討期待


 大阪府ではこのほど、府の住宅まちづくり政策の根幹となる「大阪府住宅まちづくりマスタープラン」を策定したが、策定にあたっては、有識者らで構成する「大阪府住宅まちづくり審議会」が、専門家の立場で助言しながらプランの骨子ともなる答申をまとめている。その審議会の会長である高田光雄・京都大学大学院教授に、審議会での協議やマスタープランについて聞いた。  (渡辺真也)

■審議会の役割について。

住生活基本計画や住宅マスタープランは行政計画ですが、自治体によっては計画策定委員会が設置され、外部の委員が実質的な計画策定に携わるところも少なくありません。大阪府の場合は、常設の審議会が設置されており、計画策定の前年の審議会で計画の骨子にあたる内容について意見聴取をして答申をまとめ、答申を受けて行政側が計画素案を策定、審議会での検討やパブコメを経て、最終案を行政側が策定するという流れです。住宅計画が審議できる常設審議会が設置されているのは、関西では大阪府と兵庫県だけで、他府県では臨時の委員会が5年に1回設置され、計画策定後解散するのが普通です。

■今回、マスタープランを改定して新たな計画を策定されたわけですが、前回との相違は。

マスタープランとしての本質は大きく変わったわけではありません。まずは、社会の変化の中で増大する居住不安をできるだけ取り除き、居住安定性を確保することが求められています。安心して暮らせるという点をしっかりと示していく必要があるという審議会での議論を受けて、安心が基本目標に掲げられています。
居住安定性の確保では市場メカニズムとの関係について、さまざまな議論がありました。公的住宅供給と民間住宅への家賃補助、福祉政策との連携等いろんな選択肢について議論してきました。アフォーダブルな住宅市場の環境整備をベースに多様な手段の適用の検討が必要ですが、いずれにせよ慎重なプロセスのデザインが必要です。

■バウチャー制度やセーフティネット構築に関しては。

バウチャーという言葉は審議会答申では使用していません。バウチャーという言葉は、どうしても技術基準を含まないアメリカの家賃補助制度をイメージしてしまうからです。アフォーダブルな住宅市場が整っていない状況では、お金だけを渡しても家賃が上がるだけで住宅の質が上がるとは限らない事は、日本でも生活保護制度の住宅扶助で実証済みです。審議会としては、技術基準を伴う家賃補助制度を公共住宅の社会住宅化とともに議論してきました。諸外国の家賃補助政策の経験もふまえると、家賃補助には他にも多くの課題があり、単純に公共住宅を家賃補助にすればいいというものではないことも指摘されました。ただ、府営住宅供給に依存した住宅政策を改め、多様な施策の体系的適用をめざす必要がある事は確かです。居住の安定確保や住宅困窮者を救うために家賃補助的な手法を使うことは賛成ですが、その時に住宅の質や水準も定めて補助を行うことが大事であると審議会で意見をまとめ答申にも「質・水準を定めた家賃補助」と明記しました。

■審議の中では、府営住宅を半減するという報道がなされました。

府営住宅半減は、審議会の議論ではありません。きちんとした議論を積み上げてきた審議会の議論との関係が示されないまま突然府当局の方針としてマスコミに発表されたものです。しかも、なぜ半減なのかという根拠、いつまでにという期限は示されていないので、政策というより政治的スローガンだったと思います。
マスタープランでは、バウチャー制度を検討して国に提言していくとしていますが、国においても公営住宅制度の見直しに際して、ずっと以前から家賃補助制度が検討されてきたことをきちんと踏まえた上で、より進んだ提案を行わなければ意味がありません。それをせずに公営住宅を半分に減らしてバウチャーを導入しますと言ったところで国の審議会の議論は越えられない。住宅不安を煽るだけです。
審議会では、その仕組みをきっちりと作った上で、マスタープランの言うところのセーフティネットの構築を図るべきだという議論をしてきたと思います。公営住宅を半減させても、残りの人達が家賃補助で救済されるかどうかは分からない。居住安定性を確保しながらシステムを改革するにはもっと具体的なプロセスの検討が必要です。

■なるほど。

実際、ヨーロッパ各国でも家賃補助制度のさまざまな問題が指摘されており、それらもふまえた制度設計は簡単ではありません。一方、財政当局が家賃補助を認めないのは、一旦制度を認めると、際限なく支出が増大することを懸念するからで、それらも含めた研究や検証が必要です。制度を移行する場合はプロセス自体をきっちりとデザインしなければいけません。公営住宅を半減する報道が注目されましたが、居住安定性確保の重要性とプロセスを重視することが強調されるべきでした。

■マスタープランの他の項目については。

環境に関しては、環境問題が一層深刻化する中、対策の必要性が強まっています。しかし、CO2削減が目的化すると、地域居住文化が破壊されていく危惧もあります。対策も設備技術だけに依存しているように見えます。もっと人々のライフスタイルに踏み込み、環境が生活を支えるものであるということを強調したほうが良かった。環境政策と住宅政策をもっとすり合わせてほしいというのが審議会での意見でした。
活力と魅力あふれる住まいとまちづくりは、大阪の持つエネルギーや資源を住宅政策に生かそうとするもので、組み立てを工夫すれば大阪らしさが発揮できる施策です。
このほか、サービス付き高齢者向け住宅の議論では、社会福祉学を専門とされる委員から慎重論が出ました。高齢者を1カ所に集めてサービスを行うのはあるべき姿と逆行しているからです。ただし、府の実態では高齢者が居住できるストックが少ないため、とりあえずサービス付き高齢者住宅を導入し、その後サービスを地域に展開するというプロセスを考えてはどうかという議論がありました。
マスタープランは、全体的には、審議会答申の枠組みに従っていると思いますが、審議会での重要な論点がまだ深まっていない。さらなる検討を期待したいと思います。



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