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interview
関西圧接業協同組合     濱野 功理事長 
関西鉄筋工業協同組合   岩田正吾理事長  
特別対談 専門工事業 課題解決への道  【平成24年1月23日掲載】

濱野理事長 岩田理事長


専門工事での技能者不足が顕著になってきている。工事量の減少やダンピング入札による工事単価の下落が専門工事業者の経営を圧迫し技能者の処遇が悪化、技能者は今や、健康保険等の加入もままならない状況に陥っている。これらの状況に見切りをつけ、若年者はもとより働き盛りの30代、40代の技能者の業界離れに歯止めが利かない事態を招いている。これら事態を打開するため国土交通省戦略会議では、保険未加入企業の排除等を明確にするなど、建設産業の再生と発展に向けた提言を打ち出した。こうした中、昨年9月に関西鉄筋工業協同組合(岩田正吾理事長)と関西圧接業協同組合(濱野功理事長)では、圧接組合各社が鉄筋組合に加盟、連携して課題解決に取り組むこととなったが、その岩田理事長と濱野理事長に、それぞれの抱える問題や技能者の処遇改善に向けた方策等について語ってもらった。  (文責・渡辺真也)

職人不足 まず実数知って理解を 岩田
元請は稼働日数考慮を 濱野

■技能者不足、職人不足は、もはや限界に近づきつつありますが、まずは鉄筋組合と圧接組合の、それぞれの状況からお聞かせ下さい。

岩田

既に一昨年から職人が不足する、足らなくなると元請に対して報告はしておりました。ただゼネコンからは、労務不足は理解しているが、今後も大きな仕事が控えているから「それでも協力してほしい」という要請があります。大手ゼネコンではそれなりに工事量もあることは分かっておりますが、職人が不足していると実感していないのではないか、まだ楽観している部分があると思います。以前なら、単価を上げれば人は動きましたが、人がいない状況では単価を上げても動く人がいないということを分かってほしい。

濱野

同感です。とにかく「やってくれ」と言えば、何とかするだろうとの考えがまだ残っている。実際に人がいない状況であることが理解されていない。

岩田

組合としても組合員を通じて、職人不足であるとの情報発信はしておりますが、元請は手持ち工事を消化することが第一で、1年後や2年後のことを考慮する余裕がない。従前に比べ工事が増えてきたとはいえ、鋼材の需給動向を見てもそんなに急激に増えているわけではない。にもかかわらず職人が不足してきた。かつて10人いた職人が5〜6人になり、3〜4人のところは廃業するなど、職人の業界離れが急激に加速している。元請はそれなりの単価を出しているとするが稼働日数に目を向けていない。月収で見ていない。仮に日当1万5千円としても15日間で手取りで20万円、これなら毎日コンビニでバイトする方がいい。そんな業界に人生を賭けようとする人がいるかどうか。そんな先輩を見て若い人は辞めていきます。

濱野

圧接も全く同じ状況です。将来にわたって今の仕事を続けていいのかどうか、若い職人などは迷っている。特に結婚している場合、奥さんの方から「先行きが不安だから転職してほしい」と言われることが多いです。奥さんにしてみれば子育てや子どもの教育、ローンの問題など現実的な不安があり、現状では物理的に無理な状況にありますから、やはり辞めていく職人が多い。圧接の場合、兄弟や親戚など身内で組むことが多いため、我慢できる部分がありますが、それでも親が子どもには継がせたくないといって廃業するところも出てきております。現状では職人の高齢化と現場での生産力不足になっている。職業に対する魅力がなくなってきている。

■具体的には。

岩田

昨年は東京で工事が止まりました。これまであった東北地方からの応援が受けられなくなったからで、大阪も他人事ではありません。むしろ北海道から応援要請があったくらいです。

濱野

もともと職人というのは、仕事をすればするだけの実入りはあるため努力しますが、元請がその部分だけしか見ないため、そこを押さえにかかってくる。生産性の悪い時もありますが、そこは度外視する。こちらは稼働率を増やそうとし、元請は削ろうとする。先程、岩田理事長も言われましたが稼働日数を考慮しておらず金額だけを絞ってくる。これでは職人のやる気を削ぐだけです。

岩田

元請にこの状況をどうしたら理解してもらえるのか。組合もいろいろと考えてはおりますが、現在の状況では無理があり、その中で申し入れを行ったとしてもかえって睨まれる恐れがあり、干される可能性もある。ただ、実際に安い単価の業者に請負わせ工事に影響があったケースもあり、元請も徐々に単価を上げてきてはおりますが、それぐらいでは職人の業界離れの歯止めにはならない。人生を賭けられないとして辞めた人間をわずかな金額で引き戻すことはできません。職人不足はそこまで来ている。これまではその辺りのことを放置し、仕事を先行させていましたが、本音を言えば春先以降がどうなるかわからない状態です。

■職人不足に対する専門工事業としての危機感、先行きの懸念を理解してもらうための手段としては。

岩田

現在、一番必要なのは職人の実数を知ることです。関西にどれだけの人数の職人がいるのか。実際の数字が出て、工事量と照らし合わせれば元請としても分かるはずです。現在では、職人を確保するための囲い込みを行い、職長手当て等として賃金の別枠支給を行っていますが、正確な数字を示すことで職人の絶対数が足らないとわかれば、そういった手段だけでは解決出来ないことを理解してもらえるはずです。自分のところの職人がどれだけいるか、企業や組合単位だけでなく、ゼネコンも含めた建設産業全体で仕事をしている鉄筋や圧接の職人の数を、元請と組合が業界としての数を出し、それを発注者に情報発信する。行政側でも出生率と公共投資予測等から、需要と供給の比率を割り出せば、何年後にはいくら不足するのか具体的な数値が弾きだせるはずです。これまでのような現場労働者などのあいまいな表現ではなく、技能者として業界が数を把握し、元請とともに分析する必要があります。

保険加入 保険料は発注者の負担で 岩田
家庭安定へ最低限の保障 濱野

■数を読む場合、一次、二次、それ以下の数も含める。

岩田

そうです。元請は、毎日の入場者数は把握しているわけですから1ヵ月間の平均人数を出し、その元請会社の受注量から労働時間や請負金額で計算すれば、一現場で鉄筋工事の占める割合というのは出てくるはずで、そこで出てきた数字を様々な角度から検証する。そこで、数年後にはこの人数でやれるかどうかのシミュレーションをし、そうしてある程度の数が分かれば、元請としても発注者に対して説明しやすくなるはずです。また、社会に対してより情報発信力を強化する上でも数の正確さが求められますから。

濱野

人も減っておりますが、仕事そのものも減っている。なのに職人が足らないのは、仕事量が減少する以上のスピードで職人が辞めていくからです。特に関西では全体の仕事量に比して急激に職人数が減っている気がします。平成2年あたりからその傾向が見え出し、昨年、一昨年からは顕著になってきました。この事態を元請がどう感じているのか。まだ「何とかしろ」という感じで、こちらとしても契約上、仕事を請けた限りはやりくりしなければなりませんが工事に影響が出た場合、賠償請求されかねない。やはり全体数を把握する必要はあります。実数の把握という点では、圧接業の場合、国の資格を取得していないと直接作業はできませんから、有資格者イコールで実数はすぐに把握できます。関西では現在、有資格者の七割程度は当組合に加盟しております。また、その資格も3年に一度は更新するための実技試験があり、資格を失くしてもすぐに分かります。

■圧接組合としてこれまで対応されたことは。

濱野

組合独自としての対応はなかなか難しい面があります。やはり人を育てるには時間がかかりますし、資格が必要です。そのためそれを見越した上で採用しますから、すぐに現場へ行って作業が出来るものではありません。また資格を取ってから辞め、元請と直接仕事をする職人もいて、こういった事を防ぐ方法もない。そういう意味では登録基幹技能者制度には期待する部分が大きい。圧接でも登録基幹技能者がいないと仕事が取れなくなってきた。基幹技能者の資格取得には、やはり組合は必要となるでしょう。

■さて、社会保険への加入問題ですが、これに対する取り組みについては。

岩田

技能者を守ろうとするなら業界としてやるべきです。それととともに言いたいことは社会保険料は発注者が負担すべきということ。現場で働く職人の生活を成り立たせることは建設産業において絶対条件です。技能者を泣かせて建てた建物に住み、利用して気持ちの良いはずはない。発注者が保険料を支払い、受け取った技能者も納税義務を果たす。一種の利益還元であり、納税者と受益者で双方ともすっきりします。それを税金も払わない、保険もかけないような業者と混同され、競争させられることがおかしい。適正でない、公平性を欠く競争となっている。これを正すには保険に加入している業者に発注すべきで、そのためには登録基幹技能者を活用することで、入札図書に明記する必要があり、現在組合としても国交省などに要望しています。

■公共工事の場合、法定福利費は発注金額に含まれておりますが。

岩田

今まではそれが技能者にまできちんと支払われているかどうかを確認してこなかった。別枠支給でなく一般管理費の中に含まれているためですが、そこでは全て単価に含まれているため、その費用が必ずしも適正なものとはなっていなかった。それを今まであいまいにしてきた部分はあった。上が「支払っている」と言うのなら下は「確認しましょう」となるようにしなければ。これは公共工事だけでなく民間工事においても浸透させていく必要があり、そのためには専門工事業側も賃金台帳をきっちりと出すための仕組みをつくる必要があると感じています。今、我々が声を上げる必要がある。それが鉄筋組合と圧接業組合との連携に繋がってきました。

濱野

社会保険はやはり必要で、業界としての取り組みも必要。職人を守る意味においても家庭の安定という意味からも最低限の保障で、普通の企業では当たり前、それが出来ていないというところが建設業の大きな問題。発注者も元請もその辺を理解して貰いたいし、理解せずにやってしまうと潰れる会社が出てくる。加入する必要性と加入するための環境整備、これを車の両輪として動かしていかなければならない。

岩田

労働三保険に関しては、我々の加入促進と発注者の費用負担を並行してやらないといけない。そのため鉄筋組合と圧接組合が先頭をきってやっていくつもりです。税金を払っている業者に適正な競争をさせるためにも保険加入は必要ですが、その前提にあるのが発注者の費用負担です。この競争原理を正しく実施していただきたいと思います。

組合連携 情報の共有を図る 岩田
魅力ある業界へ 濱野

■鉄筋組合と圧接組合の連携については。

岩田

今回の連携については周囲から「よく出来たな」と言われましたが、特別に意識したわけでもなく、情報発信したわけでもない。ただ、技術展や出前講座を一緒にやる中で手応えはありました。鉄筋工事は5〜10人、多ければ30人単位で動きますが、圧接工事は2人から3人、あるいは1人の場合もある。業態が違う2つの組合が意見交換しながら仕組みをつくっていく。本当は他の業種とも連携していければ一番いいんでしょうが、まだそこまでいっていない。

濱野

もともと圧接は鉄筋と同じ現場で仕事をしているため連携することには違和感はありません。団体として加盟することは自然な流れで、むしろ今まで一緒にならなかったことの方がおかしかった。これまでも鉄筋と圧接は職人どうしが現場レベルでは連携しており、密接なつながりがある。さらに圧接組合の数社は鉄筋組合にも加盟しており、全組合員がまとめて加盟しても異論はなく、業界として共同路線をとり、同じ方向を向くことは当然なことと思います。

■連携の契機となったのは。
濱野

私が理事長に就任して挨拶に出向いた時に技術展の話があり、その流れで出前講座につながっていった。仕事に対する自負があれば業界に人が来る、 来ないは別として、鉄筋工事というものを社会に訴えていくことは大事なことで、仕事に携わる我々がやらなければ誰がやってくれるのか。 実際、やってみて学生達も興味を示してくれ楽しかったですし、次はあれをやりたい、これもしたいと、いろんなアイデアが湧いてきます。

岩田

技術展も他職種との工程順の展示が出来ればおもしろいでしょうが、経費等の問題もあり難しい。ただ、組合としては技術展ありきでやっているわけではなく 時代の流れがあります。職人が辞めていく、保険加入も求められるといった時代の流れの中で、何もしなければ衰退する一方です。特に若い世代には危機感が強い。 その中で鉄筋工事の一業種である圧接にも声をかけさせてもらった。

■出展以来、三年連続でベストブース賞に選ばれた。

岩田

鉄筋という業種に注目が集まったといった点では成果はありました。今後は業界内部に向けた情報発信が必要で、発注者に対して品質保証や品質が担保される ということ、これまの出展で技能者の技能は見てもらうことができたことから、次はそれと合わせた技術提案等のような見せ方、型枠や左官などと連携した 情報発信が出来ればと思います。

■出前講座もその延長線上にある。

岩田

先程、濱野理事長が言われましたが、人が来る、来ないではない、リクルートのためにやった訳ではない。学生にものづくりの楽しさを 教える喜びは圧接も鉄筋も、職人同士ではあると思います。我々の仕事を知ってほしい、プロの技は凄いということが伝われば職人の誇りが呼び戻される。 これを一度体験した人は次もやりたいと感じるはずです。これを人集めの手段と考えると続きません。

濱野

アピールすることは大事なことだとは理解してはいましたが、実際にやってみて改めて感じました。

■今後の取り組みとしては。

岩田

それぞれの組合の定例会等に出席して情報の共有を図ることと、出前講座の実施と建設技術展への出展、さらに構造設計関係との連携強化などを考えています。 お互いに刺激しあえればと。また、我々の連携が他業種の刺激剤になればとも思います。

濱野

我々からも上部団体からの情報提供、特に継手に関することや現場レベルでの情報共有などで組合員の意識向上にも期待しています。

岩田

両組合の意識が向上し、例えば鉄筋も圧接も「組合員の会社なら大丈夫」となるまでに持っていきたい。継手のことは鉄筋ではわからないし 瑕疵担保に関してもともに勉強していきたい。

濱野

鉄筋工事の中では違う職種とはいえ、大きな枠の中では一つにまとまっている。元請に対しては職人のための取り組みであることを伝えたいし、 かつて勢いのあった時代の姿を取り戻したい。そのためには本当の姿を知ってもらうことで、出前講座等も継続することが重要です。 職種を問わず出前講座を体験した学生が業界に興味を持ってくれたら。そのためにも我々が受け入れることができる魅力ある業界にしていかなければと思います。

■いずれの問題も一朝一夕には解決できるもではありませんが、業界の将来のため、今後もご努力下さい。ありがとうございました。



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