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近畿地区審査委員会 小島孜委員長   【平成23年10月17日掲載】

建築文化を先導・継承し、地域に貢献

周辺の魅力や価値を高める役割

さらにデザイン的工夫が必要に


制定から9年目を迎えた「公共建築の日」と「公共建築月間」。今年も全国各地で講演会や見学会等、様々なイベントが開催される中、公共建築協会が主催する第13回「公共建築賞」の作品募集も始まっている。同賞は全国の優れた公共建築を顕彰することで、公共建築の水準向上に寄与するものだが、数ある建築賞の中にあって、公共建築のみを対象とするほか、地域社会への貢献、管理や保全等の視点から評価するといった特徴を有している。こうした中、今回の審査を担当する小島務・近畿地区審査委員会委員長に、公共建築の役割や整備の方向性などを聞いてみた。

■公共建築の役割についてどのようにお考えですか。

公共建築を狭い意味で捉えれば、税金で建てられた建築ということになります。そのため、安全性や機能性、環境に対する配慮等、トータルな性能において一般建築以上の質が求められ、またコスト面では、設計から施工までの全ての段階で、合理性と透明性が要求されます。さらに、街づくりやまちなみ形成を先導し、地域の文化資産になるなど、地域住民や納税者の要求を、より高度なレベルで充足する必要があります。

■確かに、多岐にわたる役割が求められていますね。

公共建築物はまた、造り手だけでなく管理者や運営者、利用者にとって親しみのあるものでなくてはなりません。さらに新工法や新技術を民間に先駆けて採用するとか、各種機能が複合した、新しいビルディングタイプを導入・普及させるといった建築文化全体を先導する役割も重要です。その一方で、伝統的な技能や技術といった建築文化を継承する役割も同じく担っていかなくてはなりませんね。

■昔から変わらない役割もある。

公共事業は、不況時の景気浮上策として有効でしたが、その役割は既に終わっています。しかし景気全体を浮上させる力を失った現在でも、地域経済の活性化に寄与できる程度の経済効果は持っています。地域経済の観点からは、地元業者の育成や地元産材料の使用など、地域文化や地場産業の活性化に施策の重点を移していく必要があります。また近年、運営に多額の費用を要する大型の公共建築がハコモノと批判されてきましたが、地域に密着した小型施設への分散化を図り、運営の一部を地元に委託していくなどの思い切った対策をとる必要があります。お役人だけでなく、多くの人が運営に参加できる施設へと開放性を高めていくことが重要です。

■各自治体では近年、建て替えより改修や補強による長寿命化の方向が強まっています。

国をはじめ地方自治体の財政が厳しくなったこともあり、新築よりは既存施設を活用し、リノベーションやコンバージョンによって長期的活用を図ろうとする流れがでてきましたね。この保存再生の方向は、経済的理由だけでなく文化的な視点からも重要です。文化的価値のあるものなら民間施設であっても公共が引き受け、公共施設として活用できるのではないかと考え、機会を捉え、具体的な提案をしたいと思っているところです。

■公共建築が担うべき新たな公共性ですね。

公共建築に限らず、全ての建築は生活の場であり、地域を支える資産であり、日常的に目に触れるものであるという意味で公共性を持っています。勿論、一般の建築は私有財産であり、個人のプライバシーを確保し、生活の安全と安心を守る必要はあります。しかし、プライバシーを尊重するあまり、外界から完全にシャットアウトされ、中の様子がうかがい知れない建築は人々に不安感を与えます。公共建築に限らず、建築をもう少し地域や周辺環境に開く必要を感じています。

■今後の公共建築について、特に強調したいことは。

優れた建築には、ツアーを組んで世界中から見学者が訪れてきます。つまり建築は文化的資産、観光資源にもなり得るわけです。全ての建築にこうした可能性があると考えれば、ある建物を建てるという行為には「他の優れた建物が建つ可能性の排除」という側面が含まれていることになります。そのことを、我々は常に意識しなくてはならない。周辺環境を無視して勝手な建物を建てる行為の反公共性について、施主や建築家は無論のこと、社会全体がもっと強く自覚する必要があります。公共建築となるとなおさらです。

■なるほど。

単に必要だから建てるのではなく、地域コミュニティをつなぎ支える役割、周辺の魅力や価値を高める役割がますます重要になってきます。そのためにはデザインの力を信じ、デザイン的工夫をもっとしていかなくてはなりません。そのような成功例として、金沢の二十一世紀美術館を挙げることができます。ここでは、円形プランの外周をガラス張りにし、従来の美術館が持っていた気位の高さを排除したことにより美術が身近になり、市民に親しまれています。それを受け、美術館を運営する側からも次々と新しい企画が生み出され、地域全体が元気になっています。このような建築自体が媒体となって人々や地域文化を活性化する、こうした公共建築の役割について、もう少し深く考えていきたいと思っています。

■かつて官庁営繕には建築家を育てる役割もありました。

地域社会に公共建築を根付かせるためには、そのつなぎ役となる建築家を育てることも重要です。公共建築の発注量が減ったうえに、その設計者を 実績重視で選定するケースが増えたため、若い建築家が育ちにくくなっています。先程、地域活性化のためには分散化が有効だと申しましたが、地域住民の身近な 要求に応える、交番や自転車置場のような小さな公共建築を数多く造り、若い建築家にチャンスを与え育てていくことも公共建築が担うべき役割ではないか。その場合でも、 経験の少ない若い建築家では技術力に不安が残ります。そこで、ワークショップなどによりニーズを引き出す段階、ニーズを止揚するアイデアの段階で若手を起用し、 アイデアを具体化する技術提案の段階、実施設計や現場監理の段階と分業しながらコラボレートする、新しい方式を開発せねばなりません。

■発注方式の多様化ですね。

さらに時代を先取りした企画マネジメントの力が求められます。性能レベルの設定や、分散化と複合化、新築と保存再生などの方針決定には、 経済性だけでなく文化戦略的な企画力が必要となります。設計や施工だけなく企画、意思決定の場にも民間が参入できるような仕組みが必要ではないでしょうか。

小島孜(こじま・つとむ)昭和40年3月大阪大学工学部構築工学科(建築コース)卒業、設計事務所勤務や近畿大学工学部建築学科教授等を経て、現在、アーキラボ小島研究室主宰。平成二十二年五月からは(社)日本建築家協会(JIA)近畿支部長を務めている。


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