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近畿地方整備局 大塚俊介企画部長   【平成23年7月28日掲載】

東南海・南海地震への備え

防災体制を見直し、社会資本整備
近畿自動車道 紀勢線ら幹線道路促進

地域建設業者の役割に期待
防災連絡会設置し、情報共有


3月11日に発生した東日本大震災は、東北地方の三陸海岸を中心に壊滅的な被害をもたらし、いまなおその生々しい爪跡を残している。津波の破壊力、福島第一原子力発電所の原発事故は、国内だけでなく、世界を震撼させる大災害となった。国土交通省近畿地方整備局も、すばやい対応をみせ災害対策本部を設置。いまも復旧・復興支援に全力を注いでいる。東日本大震災は、地震列島日本、とりわけ近畿地方にとって大きな教訓を残した。近い将来、予測されている東南海・南海地震の対策やインフラ整備など、近畿地方整備局の取り組みについて大塚俊介企画部長に聞いてみた。  (編集部・水谷次郎)

■東日本大震災が発生して4カ月が経ちました。部長は、震災発生からまだ日が浅い4月1日付で近畿地方整備局の企画部長に就任されました。防災対策への思いは人一倍強いのではと思っています。まず、就任の抱負からお伺いします。

大塚部長

近畿地方では今後30年以内に東南海・南海地震の発生確率が60〜70%、少し離れた東海地震も87%と言われています。大阪の上町断層の直下型地震も懸念されています。そういった中で、今回の東日本大震災での対応状況を踏まえ、また、インフラ整備も含め、やはり全体的には防災体制の見直しが必要であると痛感しています。特に想定を上回る大規模な地震が発生し得るということ。それと今回の災害状況をみて、地域の建設業者が果たしている役割が非常に大きいと改めて感じました。震災が発生した翌日の3月12日の明け方からは、建設業者が52のチームを組んで道路の啓開にあたられました。そのことが、その後の迅速な復旧支援活動につながったと思います。阪神大震災以降は、全国各地で耐震補強が進みました。こうした耐震補強への取り組みもあり、早期の道路の復旧、少なくとも緊急車両の通行を可能にできたことは大きかったと思います。

■防災対策を含めた社会資本の整備ですね。

大塚部長

はい。究極的にはライフサイクルコストが安く、質の高い社会資本整備を進めていく必要があると思っています。そのためには、建設生産システム全体のさらなる改善が必要でしょう。具体的には計画・設計段階から、景観や環境の保全に配慮しつつコスト縮減のための施工方法や新技術の検討、あるいは現場状況を適格に反映した設計精度のさらなる向上が必要です。入札契約段階では、工事目的別の品質確保のための技術提案だけでなく、やはり現場条件に応じた技術提案を求めることが大事であると思っています。また、ダンピング防止、工事の品質確保のために低入札対策も重要であると考えています。施工段階においては、契約書類上で甲乙の表現がなくなりました。

■片務性の解消ですね。

大塚部長

本来、発注者と受注者は対等な立場なわけです。これからはASPによる情報共有システムも導入に向け、試行を拡大したいと考えています。これは受発注間で、メールなどにより書類のやりとりを行うもので、記録がきっちり残ります。ICT技術が進歩した中で、こうしたシステムを有効に活用してワンデーレスポンスへの対応、三者会議などの円滑な実施を行うことが片務性の解消にもつながるのではと思います。設計変更は、ガイドラインを設けていますから、それに沿って設計変更審査会などを開催し、適切に対応していきたい。こうした全体の取り組みを通じて、建設生産システムを改善していく必要があるわけですが、発注者側の技術力の向上も非常に大事だと思っています。発注者側が技術力を持って受注者側とやりとりを行い、より良いものを作っていく。あるいは計画・設計段階で、コスト縮減の取り組みや環境保全など、いろんな意味での新技術の活用を図っていくために、発注者側の能力アップは欠かせません。

■おっしゃるとおりです。ところで近畿の役割については、どうみておられますか。

大塚部長

地域づくりとして、東京一極集中の中で、東日本大震災でも一極集中がよいのだろうかと思いましたね。関係者の間でも、大きな災害が起こればどうなるのかと議論されています。日本が元気を取り戻すためには、東京だけでなく、近畿圏、名古屋圏、その他の地方圏を含めて活力を取り戻していくのが大事だと思っています。防災のセキュリティの意味で東京一極集中を是正し、かつ日本全体が活力を取り戻していくためには、近畿圏が活性化していくことが重要です。近畿圏の国際競争力をさらに向上させていく必要があります。実際、私も岡山県に勤務した際に港湾関係の業務で上海や釜山の港湾を視察しましたが、非常に大規模な港湾施設が整備されてきています。近畿圏でも阪神港が国際コンテナ戦略港湾に選定されていますが、これを早期に整備していかなければいけません。そして少子高齢化社会になっても、高速道路網の整備は国際競争力維持のために、どうしても必要だと思います。特に大都市の自動車専用道路として、京奈和自動車道、阪神高速道路の淀川左岸線や大和川線、湾岸線の西進部、あるいは名神高速道路から湾岸線までの路線など、関西国際空港や阪神港と一体的に機能していく自動車専用道路網を整備することが国際競争力を維持強化していく上で大事だと思います。

■道路のミッシングリンク解消ですね。  

大塚部長

はい。これは二つの意味で大事だと思っています。一つは地域の活力を維持すること。二つ目は近畿圏全体の国際競争力を強めること。それと今回の東日本大震災をみても、高速道路が緊急輸送道路になっているのですね。ですから北近畿豊岡自動車道、近畿自動車道の紀勢線などの整備促進も、地域の活力と大規模かつ広域的な災害発生時の緊急輸送道路として非常に重要であると思っています。安全・安心への国民の要望は、今回の震災や高齢化を踏まえてますます高まるものと考えており、予防的な高速道路の整備や堤防・岸壁の耐震化など震災対策の強化、建築物の耐震・改修の推進など進めていく必要があると考えています。

■東日本大震災が東南海・南海地震に与えた教訓も大きい。それでは、具体的に地震対策についてお聞きします。

大塚部長

大規模かつ広域的な地震に対する備えが出来てないということは、私の職責では許されないことですし、それにはきちんと対応していかなければいけないと思っています。東日本大震災の状況は先ほどもお話した通りで繰り返しになりますが、地元の建設会社が、いわゆる「くしの歯」作戦による幹線道路の啓開のために52のチームを結成し、3月12日までに16ルート中11ルートを、15日までに15ルートを緊急車両用に通行可能にしたわけですね。この復旧によって自衛隊や医療チームのスムーズな移動が可能になり、早期救援・救出につながりました。東南海・南海地震においても、建設業界には同様の役割を期待しています。

■やはり道路のルート確保が大事。

大塚部長

一番津波のリスクが高いと言われている紀伊半島では、近畿自動車道の紀勢線で未区間となっているところが多い。 特に田辺市から新宮市の間。国道42号以外の国道や県道は整備があまり進んでいません。田辺市と新宮市を結ぶ国道311号がありますが、 国道42号と国道311号の間の道路が非常に弱いということで、おそらく東南海・南海地震とそれに伴う大規模な余震が発生すると、落石などによって 通行不能になると予測されています。加えて国道42号についても、津波の被害を受ける可能性が高い橋梁だけでも20橋以上あります。ガレキの撤去だけでなく、 複数の橋梁がなくなることで通行不能になることが想定されています。このため、がれきの撤去だけでなく仮橋の架設などのための資機材・燃料などの確保を検討しています。 啓開すべき道路の延長は約30キロになります。しかも新宮、田辺の両市から片押しで道路啓開をしなくてはいけない。東日本大震災以上の困難な道路の啓開作業に なるだろうと想定しています。現在、本省で設置された高速道のあり方検討有識者委員会でも、従来の道路の三便益(時間短縮、走行軽費節減、交通事故減少)に加えて、 防災上の効果について取り上げていこうという方向にあり、私どもも、その検討状況を注視しているところです。

■部長は、実際、6月に東北地方の被災地を見てこられました。その印象を。

大塚部長

主に宮城県内を視察してきましたが、本当に想像を絶する破壊がありましたね。ガレキの処理に悪戦苦闘されていました。また、港の復旧に一週間かかって いましたし、ガソリンなどの燃料や資機材が不足する事態が発生していました。自治体の機能そのものが失われ、自治体の支援が必要でした。浦安では大規模な液状化が起こり、 また都心部では帰宅難民が多数でました。東南海・南海地震が発生すると、和歌山県沿岸や阪神地方でも同じことが起こると予測しています。そうしたことを踏まえ、 いまBCPの見直し作業を行っています。具体的には道路の啓開、初動体制の見直しに合わせた資機材や物資の保管及び確保をどうするのか。橋梁が20橋前後流される ということは、光ケーブル網が寸断されるということですね。それを前提に通信手段を、たとえば無線などでどう確保できるのか。また、自治体の機能を支援する状況が 生まれますから、リエゾン(情報連絡員)の協定を締結していかなければいけないと考えています。

■情報の共有ですね。

大塚部長

関係機関とも防災連絡会を設置したいと思います。少なくとも府県、政令市の防災担当者や危機管理担当者に加え、その中に電力会社ら 関係機関も入っていただけないか考えています。要は常日頃、担当者ベースで顔を合わせ、顔見知りになっておくことが非常に大事なわけですね。 それに企業にもBCPを策定してもらい、策定された企業は総合評価の項目に加えられないかも検討しています。

■話は変わりますが、国土交通省が成長戦略会議で打ち出されている保険未加入企業の排除については、どう考えておられますか。

大塚部長

そのとおりだと思います。保険未加入企業の排除とセットで低入札対策を強化していかないと、やはりおかしい。保険に入らないで、 低入札で仕事をとった企業を、そのまま放置していいのかということでしょう。発注者協議会の場を通じて低入札対策を実施していくことは、 結果的に保険未加入企業の排除にもつながると訴えていきたい。

■最後に建設業に対する思いをお聞かせ下さい。

大塚部長

土木技術は、全ての技術を支える大本の技術だと思っています。その技術レベルが落ちると当然日本全体の技術のレベルも下がります。 その意味で基幹技能者の評価は非常に大事だと思いますし、職人の技を守っていくのも大切だと思います。ですから技能労働者の待遇改善も必要になります。 技能労働者のレベルが下がるのは、公共工事全体の品質に影響を与えます。公共土木工事の品質が維持できないと産業全体にも影響を及ぼします。 このため、基幹技能者あるいは技能者の評価をしていくのは非常に大事だと思いますね。総合評価落札方式の標準T型では基幹技能者や建設マスター、現代の名工、 技能士を評価の対象にしています。この技能者の技術力を維持し、また承継していくためには、どうしても低入札対策は避けて通れません。しっかり取り組んで いきたいと思います。

■きょうは大変お忙しい中、貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。

(おおつか・しゅんすけ)
昭和58年3月東京大学大学院工学系研究科土木工学専門課程修士課程修了。同年4月建設省(現国土交通省)入省、平成13年8月九州地方整備局大分工事事務所長、同16年7月国土技術研究センター、同18年7月農林水産省農村振興局企画部事業計画課事業総合調整室長、同20年7月岡山県土木部長、同23年4月近畿地方整備局企画部長。宮崎県出身、52歳。


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