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interview
大阪府住宅まちづくり部 佐野裕俊部長  【平成23年5月19日掲載】

震災への取組を総点検

泉北NT りんくうT 大阪活性化のシンボルに


未曾有の被害をもたらした東日本大震災。大阪府でも災害発生直後から緊急復旧活動の支援に乗り出し、現地へ専門職員を派遣するとともに、被災地域の避難住民の受け入れを行なっている。その役割を担う、大阪府住宅まちづくり部の佐野裕俊部長は、4月の部長就任前から復旧支援への取り組みに携わる一方で、府有施設の耐震化の促進にも力を注ぐ。また、今年度は新たな住宅政策の下、府営住宅の建設をはじめ、ニュウータウン再生や密集市街地整備などに取り組むとしている。その佐野部長に、今後の事業の見通しなどについて聞いた。 (渡辺真也)

「リスク管理の面から災害への備えに完璧なものはないと改めて思い知らされました。危機管理は何が起こるかわからない、 そういった意識で取り組まなければと思いました。災害対応は複数の段階に分けて検討し、迅速に動けるようにしておかなければと強く感じました」

部長就任にあたっての抱負では、就任前から取り組んでいる東日本大震災への対応が真っ先に出た。

「今回の震災では、重要となる災害発生後からの意思決定、立ち上げのため、普段からの備えがいかに大事かということを改めて思いました。また想定外とならないよう、準備、計画づくりが重要で部長就任後の初めての会議では、部の取組の総点検を指示しました。特に長周期地震動への対応も含めて民間にメッセージを発していかなければならないと考えています」。

府では、被災者の受け入れも実施。府営住宅で100人超を受け入れ、民間からも無償提供の申出があるとしている。また、仮設住宅建設が間に合わない場合などに備えて「まちや地域ごとの受け入れも準備をしている」とする。部の職員も仮設住宅建設の応援として二週間交代で派遣。特に、中越地震の応援経験者が現地に入り、チェックリストを作成するなど「経験が生きた」とその成果を語る。

府では昨年度、従来の住宅政策を見直す方向性を打ち出している。

「住宅政策の転換では府営住宅が半減すると騒がれましたが、これは民間住宅を活用した住宅政策を目指したもので、従来の府営住宅の供給を中心とした政策から方向性を転換したものです。このため今年度では、住宅まちづくりマスタープランを見直し新たな10カ年計画を策定することとなり、その中で打ち出していくことが事業の柱になります」。

もう一つは、中古住宅の購入やリフォームに際しての情報提供について住宅産業界の方々と協議会を設置して支援していく考えを示し、また高齢者に対応した介護サービス付き住宅等の支援、さらにこれら住宅関連情報をスムーズに伝達できる仕組みづくりにも取り組む意向だ。また、まちづくり事業では密集市街地の整備促進を上げる。

「ある程度整備が進んでおりますが、まだまだ木造住宅が過密し道路も整備されていない場所が多く残っております。基本的には地元市が主体となって実施し、それを府が支援します。早期整備を目指し、アクションプログラムに基づく事業の重点化、地元と府の分担の明確化など、今年度詰めていきたい」。

さらに耐震10カ年戦略プランの耐震化率の目標を達成するためにも木造住宅の耐震化促進が重要と指摘する。

「民間住宅の耐震化については先ほど言いました住宅リフォームの情報提供システムやまちまるごと耐震化支援事業で地元工務店や自治会、 NPOとともに協働して取り組んでいこうと考えております」

まちづくりに関しては「泉北ニュータウンやりんくうタウンに関しては大阪の活性化のシンボルとなるようにしたい。泉北では府市等による再生協議会において泉北高速鉄道泉ヶ丘駅前の活性化ビジョンを策定しております。これをベースにエリア全体に広げ、さらに関空にも近いことからベイエリア関連の流れを呼び込めるようになればと思っております」

泉北ニュータウンでは6割を占める府や公社、URの公共賃貸住宅を一体的に活用できるような手法について議論を深め、今年度には一定の方向性を打ち出したいとする。りんくうタウンについては国際医療交流を柱の一つとした再生策を検討するとした。

また府営住宅事業では「大規模団地において、周辺地域を含めた活性化のため、地域資源としての府営住宅の活用、建て替えによる余剰地や空き駐車場の利用など、転用や集約化を図り、周辺も巻き込んだ形の活用について地元市とともに協議を進めていきます」

一方、府内の建設業の振興も役割の一つ。

「最近では、公共工事で現場従事技能者の育成を考慮した入札契約方式も導入しております。府では専門工事業団体も含めた建設懇話会を設置しており、 その中では専門工事業の課題に関して生の声も聞いています。それら課題解決に向け入札契約方式にどこまで盛り込むことができるかの検討も続けていきたいと思っております」

府では、元請から一次下請け業者への支払いに関する調査を実施しているが、「二次以降の業者への支払い状況」が課題とする。

「まちづくりには建設業が不可欠です。今回の震災からの復興においても地元業者、そこで働く職人方の役割は非常に重要なものです。機械では出来ない、人の手に頼らなければならない部分があります」

「若い人が魅力を感じる業界とする必要があります」と、建設業振興への想いは強い。

入庁して最初に手掛けた仕事が府営住宅の基本設計。地元との折衝の中で「府民の方といろいろな話ができたことが印象に残る」。建築以外の部局や市、国へも出向、人と人のつながり・人脈が広がったことも財産となった。また再開発事業や第三セクター、密集市街地事業、彩都を経験、これらでは「民間企業の発想や意思決定のスピード感を学んだ」とする佐野部長。これらまちづくりの現場で培った経験を生かした今後の舵取りに期待したい。

佐野裕俊(さの・やすとし)昭和54年4月大阪府採用、平成元年4月商工部産業政策課主査、同6年4月土木部都市整備局都市整備課再開発係長、同9年4月建築部建築監理課主幹(寝屋川市都市計画部技監)、同11年4月同(財団法人大阪府まちづくり推進機構)、同12年4月建築都市部都市整備推進課課長補佐(財団法人大阪府都市整備推進センター)、同14年4月建築都市部住宅まちづくり政策課参事(彩都)、同18年4月住宅まちづくり部居住企画課長、同19年4月同部副理事兼居住企画課長、同20年4月同部住宅経営室長、同21年4月同部技監を経て、今年4月に現職に。京都大学工学部建築学科卒。静岡県出身。58歳。


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