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interview
近畿地方整備局港湾空港部 田所篤博部長  【平成23年3月31日掲載】

国際コンテナ戦略港湾へ

大阪・神戸一体で取り組み

防波堤開発など民間協力に期待


近畿における特定重要港湾である大阪港や神戸港、日本海側で唯一の重要港湾の舞鶴港など、多くの拠点港を管理する近畿地方整備局では、港湾機能の拡充に努めながら、地域の振興にも寄与する各種施策を展開している。それら事業の今後について、同局港湾空港部の田所篤博部長に聞いた。

■昨年、大阪・神戸両港が阪神港として、国の国際コンテナ戦略港湾としての指定を受けました。まずはその取り組みについてお聞かせ下さい。

田所部長

国際コンテナ戦略港湾については国も予算的に充実させる意向であり、必要な港湾法の改正も閣議決定を終えております。阪神港の役割は、東アジアの経済成長に伴い、わが国を巡る国際物流のあり方が大きく変化する中、特に中国等のアジア諸港を発着するコンテナ貨物が増加するにつれコンテナ船の大型化も進み、さらに大型化に対応した寄港地の絞り込みによる競争が始まってきたことが背景にあります。

■コンテナの大型化による貨物の大量輸送ですね。

田所部長

特に阪神大震災以後は貨物量が減少し、瀬戸内の貨物も震災前は神戸港で基幹航路へ積み替えていたものが、釜山港へ流れていきました。これらを戦略港湾として神戸・大阪両港に呼び戻し、基幹航路を維持するのが狙いですが、阪神港としては西日本全域をカバーするものと位置付けされております。このため、大阪港と神戸港を一体として取り組みを進めることとしています。

■今後の取り組みでは。

田所部長

まずは、港湾運営の民営化です。民の視点で効率的に運営されるよう税制優遇措置などで支援します。また、瀬戸内海を発着する貨物を阪神港に集約し、積み替える物流構造に転換するため、大型内航船の投入による輸送効率化など、内航フィーダー輸送の機能強化を推進します。ハード面では、大型船に対応するため、大阪港の主航路や神戸港の中央航路の整備を進めていきます。大阪港の主航路は水深16メートルの計画ですが、まずは水深15メートル化を急ぎたいと考えています。

■来年度の直轄事業について。

田所部長

港湾事業に関する政府予算案は、ほぼ概算要求通りで今年度より増えております。主な事業では舞鶴港の機能強化として前島地区でフェリー発着場の増深事業を実施しています。ただ、浚渫工事については、大阪湾と同じように土砂の受け入れ場の確保が課題です。

■自然災害に対する備えでは。

田所部長

堺泉北港の堺二区で基幹的防災拠点の整備を進めております。普段は緑地として利用され、災害時には緊急物資の集積や支援部隊の活動拠点となるもので、司令塔としての機能を有する管理棟も整備中です。耐震強化岸壁の整備は来年度中に終え、緑地についても一定の防災機能が発揮されるところまでは持って行きたいと考えています。臨港道路は既に供用しております。このほかの港湾でも、地震発生後でも救援物資等を搭載した船舶の接岸を可能にするとともに、国際コンテナ物流サービスを安定的に供給するため、耐震強化岸壁を整備しております。

■近年では、地震による津波対策も重要となっておりますが。

田所部長

津波対策では、大きな被害が予想される和歌山下津港の海南地区で津波が襲来するまでに港口を閉める防波堤の整備を進めています。現在は、陸上部の護岸の嵩上げなどを実施していますが、海上部の防波堤は設置予定海域が航路と交差するため、通常は海底下にあり、津波発生時に浮上する可動式とします。来年度は施工性や作動機能等を確認するための試験施工を行う予定です。日本はもとより、世界でも初めての構造形式のため、民間からの協力を得ながら設計や技術開発を進めたいと考えています。

■なるほど。

田所部長

世界には大型の高潮対策施設はありますが、その多くはフラットゲート形式です。今回はシステムの信頼性を高めるため単純構造とし、どのような状況であっても浮き上がるように直立式の構造とした世界に類のない独自の構造として開発してきました。ただ施工場所は水深13メートルで、津波の高さは7メートル程度を想定しているため、防波堤本体となる鋼管自体の長さも25メートル以上となり、これを平時はそのまま海底に格納しますから、掘削工事では掘削深度が深くなる上、陸上との近接部では岩盤掘削も必要となります。また、鋼管本体の厚さも30〜40ミリ程度あり、これを可動させるには鋼管に曲がりは許されませんから、施工にあたっては相当な難工事が予想されます。

■ソフト面での防災対策は。

田所部長

各港湾管理者と津波対策の進捗状況を毎年情報交換させていただいております。整備局独自の取り組みとしては、和歌山の沖合いでGPSによる津波監視装置を設置して観測を続けております。

■最後に建設業界に対してご意見などありましたら。

田所部長

現在、神戸・大阪港でコンテナバースの耐震強化工事を実施しておりますが、荷役作業などを実施する中での工事で、工事規模も大きく、限られた時間と場所という制約を受けながらも良くやっていただいております。また、かつてなかった技術提案もしていただきました。当初は「間に合うかな」と危惧する部分はありましたが、施工各社の調整能力と工期を厳守するための技術提案をはじめとする取り組みには優れたものがありました。今後に予定している可動式防波堤工事は、実証実験で設計施工であり、施工場所も含め厳しい条件での工事となりますが、ご協力を期待しております。

■これからも港湾機能の拡充とともに、災害に強いインフラとしての整備をお願いします。本日はありがとうございました。
(インタビューは3月4日に行われたものです)

田所篤博(たどころ・あつひろ)部長の略歴
昭和59年4月港湾局建設課(第二港湾建設局横浜調査設計事務所)入所、平成16年4月港湾局海岸・防災課海岸企画官、同17年4月人事院人材交流派遣専門員(日立製作所)、同18年9月国土技術政策総合研究所空港研究部空港計画研究室長、同19年7月近畿地方整備局神戸港湾事務所長、同21年7月から現職に。長岡技術科学大学大学院工学研究科建設工学専攻修士課程修了。


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