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大阪府特別顧問・大阪市特別顧問(万博担当) 
            橋爪紳也大阪公立大学特別教授
    【2024年07月29日掲載】

西日本最大の交通結節点形成し、新たな都心へ

新大阪

基本アイデアは「乗換駅からの脱却」


 およそ1か月後に2期先行まちびらきが予定されるなど「うめきた(大阪駅北地区)」プロジェクトが華々しい成果を見せるなか、対岸に位置する新大阪駅周辺地域では、西日本を代表する一大ハブ拠点の形成を見据え、それに相応しいまちづくりに向けた取組みが着実に動き出している。
 高度経済成長期にあって、道路と鉄道を重視して整備された新大阪のまちを大胆につくり変え、これからの大阪に必要な新しい都市機能を組み込む。まさに20年〜30年の時間軸で挑む壮大な事業となることが見込まれる。
 大阪府市特別顧問(万博担当)の橋爪紳也・大阪公立大学特別教授に新大阪におけるまちづくりの課題や方向性などを聞いた。

   視点変え北端のまちを真ん中に  交わる国土軸と都市軸

■「うめきた二期」の先行まちびらきが目前に迫るなか、今後、注目しておくべき再開発の動きについてお聞かせください。

 大阪市域においては、戦後復興期並びに高度経済成長期に開発したエリアを再開発するフェーズに入っています。その代表例として、戦後復興期に開発に着手した「大阪城東部地区(森之宮北地区)」と、東海道新幹線開業および1970大阪万博開催を契機に区画整理を手がけた「新大阪駅周辺地域」が挙げられます。前者では新駅が整備され、両地区では幹線となる鉄道が新たに敷設される予定です。

■大阪城東部地区においては、1期開発では大阪公立大学・森之宮キャンパスの建設が来年秋の開学に向けて進み、続く1・5期では森之宮新駅の設置やアリーナの整備など開発方針が示された。新大阪駅周辺部の取組みはいかがでしょうか。

 2022年に都市再生緊急整備地域に指定されたことを受け、「新大阪駅周辺地域都市再生緊急整備協議会」(会長=岸田文雄内閣総理大臣)が設置されました。引き続き、同協議会規約のもと実務トップを集めた「新大阪駅周辺地域まちづくり検討部会」(部会長=大阪府・森岡武一副知事)が立ち上げられ、現在、めざすべきまちの姿に関する意見交換をしているところです。私は学識経験者として部会に参加しています。

■大阪市都心部からみれば、新大阪は市域の北端に位置し、やはり、淀川を越えると「ちょっと遠いな」という印象を持つ人もいると思います。

 そうですね。都心部を中心に考えると、新大阪をそのように位置付ける向きもあるかもしれません。ただ、逆の視点を持つことも大事で、例えば新大阪を真ん中に置いて広域を眺めると、国土軸と大阪都市軸のクロスポイントであることがよく分かる。関西圏においては北摂や神戸、京都などをつなぐ重要な拠点だということも理解できるのではないでしょうか。

■視点を変えると結節点としてのポテンシャルが明確になります。

 新大阪駅エリアでは広域交通インフラが着々と拡充されている。例えば、大阪・関西万博を契機に整備が進む阪神高速道路淀川左岸線が全線開通すると、新大阪から全国の都市拠点などを結ぶ高速道路網へのアクセスが飛躍的に向上します。2031年には関西国際空港を一本でつなぐ阪急・新大阪連絡線の開業が予定され、ゆくゆくはリニア中央新幹線および北陸新幹線の全線開業が見込まれるなど、まさに西日本を代表する広域交通の一大ハブ拠点へと様変わりする可能性があります。

■地域への経済効果も相当大きい。

 これはコロナ前のデータになりますが、新大阪駅の乗降客数は約45万人。博多駅とほぼ同じです。しかし将来、既存路線に加え、リニアをはじめ3つの新線が開業すれば、約127万人の名古屋駅や約110万人の品川駅レベルまで増加することも予想されます。この強烈なインパクトをまちづくりに展開しなければいけない。

     分断されたまちを一つに

■では、まちづくりにおけるポイントについて教えてください。

 新大阪駅エリアは新幹線と在来線、幹線道路の新御堂筋により、まちが6ブロック(北東、北、北西、南東、南、南西)に分断されています。これを1つのまちとしてつなげていくことが大きな課題です。
 また私は「新大阪が目的地となるまちづくりをしましょう」と言い続けています。つまり「乗換駅からの脱却」です。残念ながら、現状の新大阪駅は在来線と新幹線の
巨大な乗換駅と見なされることもあり、実際、通勤・通学や出張といった目的以外で駅周辺のまちを使う人は限られています。
 この先、新大阪駅の乗降客数増加を見据えた場合、数十万人が改札口を抜け、まちに繰り出すような工夫が必要かと思います。

■もともとの原因はどこにあったとみていますか。

 新大阪の歴史をざっと振り返りましょう。1960年に東海道新幹線の駅位置が正式決定。大阪市は1961年に「新大阪駅周辺土地区画整理事業」に着手します。この事業は幹線道路と鉄道整備を重視したもので、大阪市は駅を核とするビジネスセンターをつくる方針のもと拠点整備を進めた。その後、1964年に地下鉄御堂筋線(梅田〜新大阪)と東海道新幹線(東京〜新大阪)が開業。さらに1969年には、万博会場(千里丘陵)へのアクセスルートである御堂筋線の千里中央への延伸が完了し、同じく新御堂筋も全線供用を果たしました。
 高度成長期にあって、大阪市は1967年に「大阪市総合計画基本構想」を策定。交通の要衝である新大阪駅および弁天町駅周辺を「新しいタイプの副都心」と位置づけ、多心型都市大阪における「特色ある業務地区」として開発に取り組みました。

■ビジネス街として新大阪の発展を試みた。

 当時の大阪は船場や難波、梅田などの都心部に都市機能が集中し過ぎており、交通渋滞や公害が社会問題となっていた。その解決に向けて、大阪市は業務機能の一部を副都心に分散・再配置したということ。これが新大阪の初期設定です。
 ただ、副都心はあくまで大阪市都心部の機能を補完するものに過ぎず、地域の自立を促し、個性を発揮させるものではなかった。その意味では、もう一度、新たな都心としてのまちづくりを始める良いタイミングだといえるかもしれませんね。

     博多駅周辺ダイナミックに更新中
 
     手本となる「魔法学校への発着駅」開発エリアの4割占める公共空間

■参考となる先行事例はありますか。

 国内においては博多駅周辺地区でしょう。先ほどふれましたが、乗降客数は新大阪駅とほぼ同じで、航空法による高さ制限がある点も似ている。かつては新大阪と同じで、周辺はビジネス街として発展をみましたが、一方で乗り換え客も多い駅でした。
 同駅周辺では、九州新幹線・鹿児島ルートの全線開業(2011年)を機に駅ビルが再整備され、同時にまち全体の再開発も大きく進展をみせました。高度成長期に建てられた民間ビルの建て替えも順次進み、文字通り、現在進行形でダイナミックに新しい都市へと更新されています。

■「天神ビッグバン」や「博多コネクテッド」で知られるプロジェクトですね。

 私が海外事例で参照するべきと思うのが、映画「ハリーポッター」の魔法学校行き列車の発着駅として有名なロンドンのキングスクロス駅。この駅周辺の再開発が非常に参考になります。
 中心市街地の外側に位置するキングスクロス駅は、かつて物流拠点として栄えたブラウンフィールドで、単なる乗換駅の一つにすぎませんでした。ところが、隣接するセントパンクラス駅がロンドンとパリを結ぶ高速鉄道「ユーロスター」の発着駅に決まると、駅周辺の再開発計画が一気に動き出す。老朽化した倉庫群や操車場跡地には、今や住宅やオフィスが立ち並ぶ。しかも、開発はまだまだ続いています。

■欧州を代表する高速列車と在来線を結ぶ拠点駅であり、機能的には将来の新大阪駅と近いように思えます。みるべきポイントは。

 キングスクロス駅の再開発エリアにおいては、50棟もの建物を新築あるいはリノベーションするとともに10箇所の広場を整備するなど、開発エリア全体の4割が公共空間に充てられる計画になっています。ここは強調しておきたい。
 今の新大阪には広場のような「ゆとりを感じられる空間」が少ないことが課題なので、参考にしたいと思います。

■これまで新大阪駅周辺は業務機能に重点を置きすぎたと。

 まち全体として文化および商業機能の集積が不足しています。業務機能に関しても、宿泊だけではなく、もっと多くの人にビジネス活動での滞在時間を増やしてもらうことが必要です。また、国土レベルの広域拠点に相応しい交流促進施設がほしい。いずれにせよ、どのような機能を集積させるのか。今後も議論を重ねないといけません。
 さらに言えば、更新期を迎えた民間ビルの建て替えを促すことも大きなテーマとなりますが、これは地権者のみなさんの頑張りにかかっています。 そのためにも、官民連携を図りながら、各街区で魅力あるまちづくりを考える姿勢が求められます。もっとも、地権者のみなさんは前向きですよ。繰り返しになりますが、 基本とするアイデアは「乗換駅からの脱却」です。

     十三駅・淡路駅と一体で

■まちづくり検討部会においては十三駅と淡路駅エリアの議論も始まっています。

 この2つのエリアは直近の鉄道の結節点であり、新大阪駅周辺地域のサブ拠点と位置付けられます。それぞれの地区でキープロジェクトも具体化しつつある。 例えば、十三駅エリアでは、先述した新大阪連絡線・なにわ筋連絡線の開業によって、十三駅経由で新大阪〜関空が直結する。あわせて新駅・駅ビル開発プロジェクトも見込まれる。 また淡路駅エリアでは、連続立体交差事業が着々と進行する。さらに柴島浄水場ダウンサウジング開発により、広大な種地が生み出される。2031年を目標に段階的にエリア計画を策定し、 両地区の緊急整備地域の指定をめざします。そして、先行する新大阪駅エリアを含めた3地区に、20年〜30年の時間軸で新しい都市機能を組み込んでいくことになります。

■「うめきた」に次ぐ規模の再開発になるとおっしゃっていた。

 西日本最大の交通結節点の再編成に向けて、新大阪・十三・淡路駅エリア一体で取り組む大事業がいよいよ緒についたといえます。
 淀川北岸に大阪・梅田エリアと対をなす「新たな都心」が誕生する。その可能性は十分にあると考えています。

 
 
 


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