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万博首長連合会長 澤井宏文松原市長  【2024年7月29日掲載】

地方創生なくして万博の成功なし

会員一体で「果実を日本の隅々まで」
 交流・関係人口の拡大2025のレガシーに  


 2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)まであと300日を切った。会場となる夢洲においては「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、iPS細胞(人工多能性幹細胞)技術を活用した「動く心臓」など様々な最先端の技術が披露され、それら技術が将来、実装・産業化されることが期待されている。一方、万博成功に向けて広域での自治体間連携が促進されており、あわせて、そのレガシーとして交流人口・関係人口の拡大を図る地方自治体の動きも活発化している。
 万博の機運醸成に取組む全国市区町村長の連合体「2025年日本国際博覧会とともに、地域の未来社会を創造する首長連合」(万博首長連合)の澤井宏文・松原市長に、同連合の活動内容や地域にとっての万博開催の意義などを聞いた。

     共創による万博弁当・万博音頭プロジェクト

        地域プロモーションに貢献

■まずは万博首長連合の設立経緯について教えてください。

 万博首長連合は、正式名称を「2025年日本国際博覧会とともに、地域の未来社会を創造する首長連合」といい、日本全体の発展とともに大阪・関西万博レガシーの構築を目指し、万博に向け、機運醸成の取組みを進めている全国664(7月11日現在)の市区町村長の連合体です。2015年6月に設立された「2020年東京オリンピック・パラリンピックを活用した地域活性化推進首長連合」(オリパラ首長連合)を前身としており、オリパラ閉会後の2021年11月に、この「万博首長連合」として改組されました。
 私は、昨年6月に開催された万博首長連合第3回総会の場において、会員自治体のみなさんの信任を受け、会長に就任しました。

■活動状況については。

 万博首長連合の取組みの一つとして、まずは「万博弁当プロジェクト」が挙げられます。これは地域の特産品を持ち寄って、ほかにはない、ただ一つのオリジナル弁当を創り上げることで、全国各地の食の魅力を発信する取組みです。この「万博弁当」第1弾では、食材の一つに当市発祥の合鴨(河内鴨)が選ばれました。太子町のみかんソースをつけて召し上がっていただきます。
 会員自治体の中には、農業や漁業が盛んな地域もあれば畜産が盛んな地域もあり、いずれの地域においても誇れる食文化、郷土料理が必ずあるはずです。実際、「万博弁当」には多数の申し込みがあり、食材の調整が難しかったとも聞いています。「日本の食」は海外からも注目されていることから、「万博弁当」をきっかけに食材に興味を持ち、一人でも多くの人が「一度、この地域に足を運んで食べてみよう」となればうれしいですね。

■地域の観光資源を掘り起こすということ。

 もうひとつの取り組みが、「#(ハッシュタグ)万博音頭プロジェクト」です。地域に伝わる音頭の魅力を再発見しつつ、現代風にアレンジを施す試みです。それをSNS等で発信することで、地域から万博の機運を盛り上げていきます。

■確かに、日本の各地域には民謡やご当地音頭があります。

 お弁当や音頭は特段に新しいものではなく、どこの地域にもあるはずです。老若男女問わず、誰でも参加できることから、まちおこしのツールにもなるとみています。行政だけなく地域の方々なども巻き込んで進めていきたい。
 なお、これら2つの取組みはNHKはじめ各放送局のニュースで取り上げられ、ユーチューブでも発信されるなど地域のプロモーション活動にも貢献しており、会員自治体のみなさんからも喜ばれています。

■万博会期中においてはイベント開催も予定されている。

 現在、首長連合としては会員自治体との共創による催事を企画しています。具体的には、全国の自治体のお米や具材を持ち寄り「共創おにぎり」をつくろうと。さらには各地の神楽や踊りなどの伝統芸能も万博会場内のEXPOメッセで披露します。
 まずは興味・関心を持ってもらうことが必要で、そのため、地域に溢れる「日本の奥深さ」を五感で楽しみ、味わってもらえる体験型コンテンツを準備しています。日本国内はもとより、世界中のみなさんに当連合の催事に足を運んでいただき、全国会員自治体の共創によって織りなされる地域の魅力を存分に体感してほしいと願っています。

■地域を見直すきっかけにもなります。

 最先端技術の紹介だけでなく、万博は地球温暖化といった世界的課題について考え、各国が開発した技術によりそれら課題の解決をめざす。いわば「学びの場」でもあります。万博を契機に「何かをやりたい」という声もよく聞きますし、高校生からはSDGsに係る環境問題に取組みたいという希望もありました。

    「日本の奥深さ」味わえる体験型コンテンツも披露 催事

■首長連合の活動のもう一つの柱として国際交流があります。

 その一環として先日、首長連合の総会を大阪で開催し、それにあわせ、万博プロデューサーや参加国関係者を招いての交流会や大屋根リングツアーを実施しました。会員自治体間の団結を強めるとともに、海外関係者との交流を深めることにより、万博開催に向けてさらなる機運醸成を図ることが目的です。
 ところで、万博首長連合の前身であるオリパラ首長連合の時はコロナ禍のため、参加国との交流を深めることができず、地域の活性化も図れませんでした。今回の万博には約160の国・地域が参加する予定ですので、万博リングツアーなどを通じて参加国の関係者を地方に呼び込み、国際交流につなげていきたい。その結果として地域の活性化、ひいては万博後にも継続するレガシーを築いていけるのではないかと考えています。

■松原市では万博を契機に新たにタンザニアとの交流が始まっています。

 万博関連の国際交流プログラムとして内閣官房から事業採択され、当市においてはタンザニアとオーストラリア、韓国と交流しています。また当市では、安心安全なまちへの取組みとしてWHO(世界保健機関)が推奨するセーフコミュニティの国際認証を受けていますが、この認証取得にあたっては海外の審査員に活動を報告する必要があります。その審査委員の先生の中にタンザニア出身の方がおられ、その先生と話をする中で、同国には動物や自然などを鮮やかに描く「ティンガティンガ」という現代アートがあることを知りました。「ティンガティンガ」は日本各地で展示会が開催されるなど人気も高いことから、当市でも原画展を開き、「ティンガティンガ」の魅力を広くお伝えするお手伝いをしております。

■かねてから草の根の国際交流に取り組まれておられる。

 そもそも万博の参加国は日本との関係を深めることを望んでいます。今回の万博を契機に、経済はもちろん、環境や文化、観光、教育など様々な分野での国際交流が各自治体においても広がっていくことを期待しています。

■とはいえ、万博に関してはネガティブな報道が依然目立ちます。

 万博をめぐって、色んな意見があることは承知していますが、やはり日本全体で盛り上げ、コロナで低迷し、物価高騰で疲弊した地域経済を活性化させることも狙っていいと思います。パビリオン建設をはじめ、関連工事を担当する建設企業では、資機材や労務費が高騰し、限られた工期の中で苦労しながらも熱意を持って工事を進められている。また各国のパビリオンも魅力的なデザインで、内容も興味深いものが多く、そういった部分での情報発信、前向きなイメージを打ち出す必要があるのではないでしょうか。

■自治体としても主体的に万博を活かす必要もあります。

 日本の各地方自治体においては、これまでにも地域活性化・地方創生が叫ばれ、少子化対策や交流人口の増加などに向け、 様々な取組みが行われています。もっとも、それらは自治体単独での取組みにとどまり、情報発信力としては弱く、全国的にはほぼ知られていなかったといえます。
 一方、それぞれの自治体の取組みを広域的にとりまとめ、発信することで認知度は高まるとの指摘もありましたが、 自治体間での温度差があるうえ、危機感の共有も十分できておらず、なかなか前に進みませんでした。

    つながる660超の市区町村 「地域が輝く」未来社会の創造めざす

■足踏み状態から抜け出す必要があったと。

 そのような中で、今回の万博開催が決まり、それをきっかけに、自治体間連携の動きが一気に活発化しました。 特に、関西および周辺自治体に与えるインパクトは大きかったと実感しています。また、オリパラと比べ開催期間が半年と長いことから、来場者はもとより、訪日客も多くなることが見込まれています。しかも、日本全国が主役となれる国家プロジェクトでもあることから、危機感を持つ自治体はチャンスと捉え、当連合に参画してきています。
 現在、事務局において情報発信のあり方などを各自治体とともに検討しています。そのやり取りの中でも各自治体の想いが伝わっており、 われわれが知らなかった地域文化などの資源が各地にあり、逆に、これまで気付かなかった自らの地域の魅力を教えてもらうこともあります。万博を契機にこれらをPRしていく方針です。

■首長連合の果たすべき役割は大きい。

 大阪・関西万博には、国内外から約2800万人もの来場者が予測されています。われわれの共創の取組みにより、そこで生まれた賑わいをそれぞれの地域に届けたい。 万博の成功が地域活性化・地方創生につながるものと信じています。
 当連合会長としての私の任務は、この万博という好機を活かして、全国地域のみなさんにご協力をいただきながら、全国的な万博の機運醸成に貢献するとともに、 万博の果実を日本中に行き渡らせることだと考えています。端的に言えば、「地方創生なくして万博の成功なし」です。

■各自治体の姿勢も問われます。

 結局、万博が開かれるからといって、ただ待っているだけでは何も動き出しません。われわれも危機感を持ち、努力しているところをクローズアップしながら、 何か仕掛けをつくろうと取り組んでいます。その仕掛けづくりを応援するのが国および日本国際博覧会協会であり、 国民の窓口となるわれわれ基礎自治体は万博の機運醸成に資するべく力を尽くす。そんなウィンウインの関係で進めていければと思います。 現在、各自治体が配布している広報紙などを活用して万博をPRしており、国や大阪府に対しても、首長連合をもっと活用して、 協力し合いながらやっていこうと常々申し上げています。地方が良くなれば、国や都道府県のためにもなりますから。

■万博の成果として具体的に期待することは。

 先述したように、万博を契機にわれわれの地域への来訪者をもっと増やすことです。インバウンドが復活し、いわゆる観光都市には既に多くの観光客が訪れ、賑いをみせています。しかし、われわれのような地方都市にはその恩恵はほとんどなく、太刀打ちできない状況にあります。
 それが今回の共創プログラムを通じ、今まで点でしかなかった各自治体の取組みが線としてつながり、さらには面として展開できる土台が構築されました。首長連合という全国的なネットワークを活かし、広域連携による情報発信を強力に推進し、是が非でも地域への誘客促進を図りたい。まさしく、交流人口・関係人口を拡大させることこそが万博の成果、レガシーとして残していくべきものです。繰り返しになりますが、われわれの地域にとっては、やはり、大阪・関西万博のおかげで地域活性化・地方創生につながったと。そうならなければ開催の意味はありません。
 今後も、万博首長連合の会員自治体が全国一体となり、地域が輝く未来社会の創造のために、引き続き邁進していきます。

■話は変わりますが、能登半島地震では首長連合の被災された自治体へも松原市として対応されていますね。

 首長連合でも被災された自治体があり、これまで支援物資などは届けています。しかし、まだまだ復興には至らない状況です。関西広域連合で大阪府は輪島市をカウンターパートとして支援を行っていますが、住家被害は約1万5000棟にのぼり、いまだに避難所暮らしを余儀なくされている方々もいます。
 被災した住まいの再建に目処が立たない状況が長引くと、特に小さなお子さんのいる家庭では「別の地域に移る」という決断をするかもしれません。すなわち、子育て世帯の流出です。それに加え、被災により職を失った若い人たちが転出すれば、人口減少が加速するという負のスパイラルが生じます。そういった意味でも復興に向けた取組みは急務ですし、同時に次のまちのあり方を描く必要もあります。
 観光など地域を支える産業の再生に力を入れることも求められます。たとえば、輪島の朝市などは有名ですし、 そこに人を呼び込む。既にプレハブのお店や駅前で間借りしながら商売を再開されており、そこで買物や食事することも支援の一つとなります。 これら被災地の状況ついて万博を訪れた方々にお伝えする必要もあるでしょう。同時並行であらゆる手立てをとることに意味があり、首長連合でその一助を担うことも考えています。 当然、万博でも復興を後押しします。

■なるほど。

 被災地支援に関しては、カウンターパート以外にも当市独自で職員を派遣していますし、これからも支援を続けていきます。もちろん、 首長連合としても地震発生直後から関係自治体で連絡を取り合い、情報収集を行って支援物資を送っています。そのためのネットワークでもあります。 こういった相互扶助の取組みは、万博閉幕後も府県や市町村を超えたつながりとして受け継がれていきます。

    松原市「協働」がキーワード 世界基準の安心安全なまちへ

■松原市としても災害対策に力を入れておられる。

 たとえば、主な水道施設の耐震化整備は100%完了しました。全国的にみても(2022年度末)、都道府県トップである神奈川県は70%超、大阪府は50%超となっており、基幹管路の耐震化率は日本一といえます。
 最近では空き家対策として、市内の建設業協会などの団体と空き家の流通促進に向けた連携協定を締結し、所有者や相続人からの相談に応じる「空き家なんでも相談室」を設置しました。 その内容に応じ、当市が窓口となり、協定団体の専門的能力とネットワークを活かし、専門家を紹介します。あわせて相続登記や除却工事といった費用を一部補助する制度も創設しました。

■2013年に大阪府下で初のセーフコミュニティの国際認証都市となり、世界基準の安心安全を掲げ、成果もあげられている。

 当市では「協働のまち」として協働をキーワードに、地域住民、関係機関、行政が一緒になって安心安全なまちづくりを進めています。具体例を挙げると、「子どもの安全対策」「高齢者の安全対策」「交通安全対策」「犯罪の防止対策」「自殺予防対策」「災害時の安全対策」の6つの重点課題について地域住民や関係機関と対策委員会を立ち上げ、様々な検討を行いました。このうち、「子どもの安全対策」に関しては、学校やPTA、町会の方々を中心に登下校時の見守りを行っていただいています。以前はそれぞれ縦割りでの活動となっていましたが、複数の組織に横串を通して情報共有を図り、課題をあぶり出しました。そのうえで改善策を講じ、より効率的・効果的に実施できるようになりました。
 また「交通安全対策」では、遅い時間帯で交差点における高齢者の自転車事故が多発していました。主因は無理な横断です。このような事故やけがは原因を調べ、 対策を講じることで予防できます。つまり、様々なデータを活用しながら市民協働で対策を考え、実施する。それにより安心安全を確保し、災害時においても共助、 地域住民の助け合いに結びつく。まさに「協働」と「検証」による取組みがセーフコミュニティの要点であり、当市では昨年11月に3度目の国際認証を取得しました。 ほかではほとんどみられない取組みです。このセーフコミュニティの活動を通じ、「世界基準の安心安全なまち」をめざしていきます。



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