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近畿地方整備局 魚谷 憲副局長  【2024年3月25日掲載】

広がる役割大きな責務 機能強化進む「近畿の港湾」

海上長大橋梁の基礎本体工事に着手へ

物流維持コンテナターミナルなどの耐震さらに


 日本海や瀬戸内海、太平洋と気象や海象の異なる海域を有する近畿圏における港湾整備では、それら気象条件や地理的条件、後背地等の特性を活かした取組みが必要で、また、物流・交易等の本来の港湾機能の強化・拡充に加え、近年では観光振興や災害時の対応拠点としての役割も求められている。これら近畿における港湾行政を統括する近畿地方整備局の魚谷憲副局長に、港湾に関する最近の動向、これまでの事業の取組状況や今後の事業の見通し等について聞いた。

   3つの取組みに加えて

■まず、現在の事業の状況について。

 直轄港湾事業としては、大きく分けて国際戦略コンテナ港湾阪神港の機能強化、産業や観光振興に寄与する港湾整備、安全・安心の確保の3つの取組みに加え、中長期的な課題としてカーボンニュートラル社会への対応と物流における2024年問題への対応があります。
 阪神港に関しては今年2月に、本省でこれまでの国際コンテナ戦略港湾政策のフォローアップと今後の進め方についての報告書がまとめられました。基本的には従来からの主な施策である集貨・創貨・競争力強化を、国と阪神国際港湾梶A港湾管理者等が連携・深化して進めていきます。
 このうち集貨では、令和4年に日本海側の貨物を阪神港へ集める航路が開設されましたが、今後は、東南アジア・東アジア諸港から他国を経由して北米に向かう貨物を、阪神港経由とするための輸送ルートの構築に取り組んでいきます。また、国内輸送はトラックが大半を占めることから、鉄道など他の輸送手段に多様化するための検討を進めています。
 競争力強化については、神戸港ではコンテナターミナルの岸壁や荷捌き地の耐震強化等を進めています。現在は、六甲アイランドやポートアイランドPC―15〜17、18で実施していますが、PC―15〜17では、コンテナターミナルを集約して一体運用する計画で、それに合わせて整備を進めています。
 また、大阪湾岸道路西伸部も阪神港の機能強化の一つです。現在、六甲アイランドとポートアイランド間の海上長大橋梁の4つの主塔基礎に関する裁荷試験を実施しています。既に最初の杭工事が始まっており、結果に問題がなければ基礎本体工事に着手することになります。このほか大阪港では、夢洲C―12の拡張部の工事を実施していますが、万博開幕前には完了する予定です。このほか主航路の浚渫工事を実施しており、これは来年度も継続して実施します。

   CONPASで脱渋滞

■事業を実施する上での課題は

 いずれの分野でも、労働生産人口の減少に対応するためには生産性向上が求められます。コンテナ物流での生産性向上としてCONPASの取組みがあります。ターミナルゲートでの手続きをカードのタッチのみで完結して時間短縮を図るもので、これまで大阪港C12と神戸港PC―18で試験運用を行っており、輸入貨物の場合で約1分程度かかっていたゲートでの手続きが10秒足らずとなることが確認されました。
 CONPAS導入によりゲート前での渋滞緩和につながるものと考えており、利用者の募集も始まっています。今後、C12では今年度末、PC―18は来年度上半期末には導入する予定です。海運と陸運の双方にとって生産性向上につながるものと期待しています。このほか、PC―18、PC―14〜17で門型クレーン操作の遠隔化の取組みも始まっており、港湾労働者の労働環境改善にも寄与するものと考えています。

   産業に寄与防災の使命

■産業・観光の振興では。

 産業振興では、国際物流ターミナル整備を推進しています。来年度は、堺泉北港汐見沖で桟橋の鋼管杭打設や上部工を予定しており、舞鶴港和田地区では、西舞鶴道路と結ぶ臨港道路整備を引き続き実施し、令和3年度から取り組んでいる2つ目の岸壁の整備ではケーソン製作を予定しています。
 また、姫路港広畑地区では、2つ目の岸壁と臨港道路を整備しており、岸壁は鋼矢板工、道路は設計段階となっているほか、和歌山下津港、日高港でも事業を実施しています。
 観光振興ではクルーズ船の誘致があります。来年度は近畿管内で210回、うち外国船171回の寄港の予定で、外国船は過去最高となります。全体的にはコロナ前の水準には戻っていませんが、徐々に回復傾向にあると言えます。クルーズに関しては地元自治体に対する交付金等の支援をしています。

■防災・減災への取組みも重要です。

 直轄事業では、津波対策として和歌山下津港海岸地区で護岸嵩上げや水門等の施設整備を実施しています。平成31年度には外側の防護ラインが運用開始し、現在は、人口が集積する湾奥の市街地エリアで工事を進めています。工事にあたっては、臨海部に位置する企業等の港湾利用や活動等へ影響を及ぼさないよう注意を払いながら、着実に実施しています。
 岸壁の耐震強化については、コンテナターミナルの場合、基幹的な物流機能の維持のため、岸壁と荷捌き地の耐震性の確保を神戸港六甲アイランドやポートアイランド、大阪港夢洲で行っています。緊急物資輸送の耐震強化岸壁に関しては、能登半島地震では七尾港に一カ所あった耐震強化岸壁が健在であり、東日本大震災でも生き残った耐震強化岸壁が災害支援に活用されたことから、今後もどう整備していくかが課題となります。

   カーボンニュートラル
   「大阪みなと」一体で

■働き方改革と生産性向上への取組みでは。

 発注者として、時間外労働時間の上限規制への対応、担い手確保・育成、生産性向上への取組みを柱とした施策を進めています。労働生産人口が減少する中で働き方改革を実現して社会資本整備を進めるには生産性向上が不可欠です。また、担い手の確保・育成がなければ持続性がありません。このためICT施工やBIM/CIM、さらにDXへ取り組んでいますが、これらは手段であり目的ではなく、生産性向上は絶えず継続的に取り組んでいくべき課題です。
 港湾関係のICT施工に関しては、浚渫工から始まり現在は基礎工やブロック据付工まで拡大しています。近畿管内では、平成29年度は2件であった対象工事が、令和5年度は19件まで増加しています。今後は、工種を増すとともに、効率的な出来高の確認・検査への取組みが必要です。
 また、港湾におけるBIM/CIMでは、平成30年度に舞鶴港第二ふ頭で試行したのが最初でした。その後令和5年度からは原則適用となり、施工計画検討や監督検査の効率化、関係者協議等で活用していますが、設計から施工、維持管理までの一気通貫にまでは至っていません。取組みにあたっては、実績を積み上げていくことが必要で、また施工者からもアイデアを取り入れていくことも必要だと考えています。
 さらに、全国的に港湾関係者間やりとりを電子化し、生産性向上を図るサイバーポートの取組みを物流、維持管理、港湾インフラの3分野で進めていますが、インフラ分野については令和五年度に全国10港で試行を開始し、令和6年度から重要港湾に拡大する計画です。将来的には、港湾台帳をはじめBIM/CIMも含め港湾工事関係のデータも一元化し、共有を図ることとしています。

■カーボンニュートラルへの取組みは。

 港湾の脱炭素化については、港湾内の物流と生産の大きく2つの活動に起因するものをどうするか、そして代替エネルギーの受け入れ環境をどうするかが大きな課題です。現在、コンテナターミナルのCO2を削減するため、神戸港PC―15〜17の門型クレーンで使用しているディーゼル燃料を水素とする現地実証を行っています。また、神戸港、播磨臨海地域、大阪港と堺泉北港と阪南港からなる「大阪みなと」で、それぞれ法定計画である港湾脱炭素化推進計画の議論が進められており、今後、各港湾の特性を考慮しながら取組みを進めていくことになります。
 社会資本の整備にあたっては、受注者である建設業界等は、我々発注者とはイコールパートナーであり、災害時にも一緒になって活動する不可欠な存在です。このため発注者としても、建設業界が持続的に発展していくために、働き方改革をはじめとする各種の取組みを進めていきたいと思っています。

■ありがとうございました。



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