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土木学会 加賀山泰一関西支部長  【2023年11月20日掲載】

前進また前進 土木の力

防災 ハードにソフト合わせて

技術者に「現場こそ」の魅力伝える


 社会基盤における土木の役割は、道路や橋梁、ダム、港湾など多岐に渡り、また、近年では、防災・減災やインフラ老朽化対策に関してもその役割はますます大きくなっている。これら土木分野において専門的な立場で、様々な視点から技術や調査・研究に努めている土木学会では、過去の教訓から学び、新たな課題に対しても常にチャレンジを続けている。こうした中、土木学会関西支部の支部長を務める加賀山泰一・阪神高速技術且ミ長に、現在の土木を取り巻く状況や支部の活動等について聞いた。

■まずは、支部長御自身の土木との関わりから。

 大学時代は土木について漠然としたイメージしか持っていませんでしたが、当時、本四架橋や青函トンネル等のビッグプロジェクトが動き出しており、それらを見ながらモノづくりへの憧れが生まれました。卒業後、当時の阪神道路公団に入社し、いろんな現場を経験しましたが、一番印象に残っているのは阪神淡路大震災です。
 当時は関西国際空港へ出向しており、関空も被害が出ていましたが、阪神高速は比較できない位の被害が出ていました。この時に構造物が倒壊したことへの驚きとともに、インフラの防災対策の必要性を痛感し、土木工学は単なるモノづくりだけではないと思いました。
 まちづくりにインフラ整備が必要なように、土木技術は街と地域が一体となって成長していくものとの想いが強くなり、道路も車を走らせるだけのものではないとの思いが強くなってきました。これまでの経験もありますが、そう思う契機となったのは阪神淡路大震災でした。
 構造物のハードの耐震対策は勿論大切ですが、防災に強いまちづくりは高速道路も含め広範囲で考える必要があり、そこに土木が多岐に渡って関わっていると考えています。特に近年の災害は激甚化し、設計基準を超えものも多発しており、従来のように構造物によるハードによる防災では限界があり、ソフトでの対応が必要で、それらを含めてカバーできるのが土木だと思っています。

■その一方で土木に限らず、発注者、受注者とも担い手不足が課題です。

 当社も同様ですが、最近の傾向として、志望動機に関西の大動脈である高速道路のメンテナンスを支えたいとする学生も出てきました。ただ、人口減少が進む中では、生産性向上やDXへの取組みは必要です。当社の場合、技術者を必要としない部分ではデジタル化等で省力化に努め、リモート化の進展により遠隔臨場等も可能となりました。これらを上手く使うことで省力化にもつながります。
 ただ、土木現場に技術者は不可欠で、現場こそが土木の一番の魅力でもあります。書類づくりではなくモノづくりです。そういった土木の魅力ややりがいといったものを如何に伝えるか。私としては良い意味での失敗を経験することも大事だと思っています。勿論、顧客や関係者に迷惑をかけることは許されませんが、その経験が糧になると思っており、どのような形で経験させるかが現在の課題です。
 また、技術を次の世代に継承することも課題です。現在では、付きっきりで指導することはできませんから、協力会社に依頼する場合もあります。このため、指導技術者や協力会社がいない場合に備えて、施工計画書を一人で書けるような取組みも、3年前から実施しています。この中では、いろんな失敗も経験しますが、一通り経験していくことで理解も深まり達成感も得られますし、協力会社のとの関係も疎通も図れます。

   「土木の役割」発信に取り組む

■土木が果たす役割や重要性があまり知られていない中で、どう発信してくかも課題です。

 確かに一般の方々には伝えきれていない部分があったことは反省すべき点です。災害の多発やインフラ老朽化が課題になってきたことで、維持管理やメンテナンスが注目されてきたことから、この機会を捉えてそれらの大切さを伝えていきたいと考えています。
 現在、本部でも会長プロジェクトとして取り組むこととしており、関西支部でもこれまで各種の取組みを行っています。関西支部の場合、会員の皆さんが協力的で積極的な取組みができているのかと思っています。FCCや小中学生向けの現場見学会も以前から実施し、高校の教員を対象とした研修プログラムも実施しています。
 今年7月には、夏休みに小中学生向けの模型製作のイベントを開催しましたが、その時に引率してきた保護者を対象に土木の魅力を伝える講座を行いました。また、学生を対象に海外短期研修として派遣する事業も行っています。土木学会と聞くと堅苦しく思われがちですが、そうでなくオープンな団体であることもアピールしています。
 女性活躍については、最近では女性技術者も増えており、以前と比べことさらに意識しなくなりました。また今回、副支部長に初めて女性が就任するなど、役員や会員にも徐々に増えてきております。
 今は現場事務所の環境も改善されており、幅広い分野で積極的に活躍されており、そういった部分も見せてPRする必要もあると思っています。

■なるほど。

 また今年は、幹事と商議員との合同会議を豊岡で行い、その際、養父市長との懇談を予定しています。これは、インフラメンテナンス国民会議の下に設置されている市区村長会議と土木学会とが今年五月に連携協定を締結し、各支部が市区町村会議各ブロックと話し合いを持つことになり、養父市長が近畿ブロック会の会長であるためです。地方の自治体では発注担当の技術者が少ないと言われています。我々とどういった連携ができるかなどの意見交換をする予定です。

   まずは万博への協力

■今後、2025年に万博、土木学会も2027年には創立100週年を迎えますが、これらに対して支部としての取組みでは。

 現状では、直接的に何かをするといったことを決める段階ではありませんが、土木の魅力を発信できる一つの機会として、これから議論が必要かなとは思っています。まずは、万博に向けた機運醸成への協力とお手伝いできるところがあればとは思っておりますが、自動運転車やスマートシティなど、様々な取組みが試行されるにあたって、土木として将来、どういった貢献ができるか、インフラ整備等のハード面で我々がやるべきことがあるのではないかと、議論する場を設ける必要があるのではと思っています。
 いずれにしろ将来のインフラ整備がどう変わっていくのか、そこに土木がどう貢献していくのかとの視点での取組みが必要ではないかと思っています。

■ありがとうございました。



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