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大阪府特別顧問・大阪市特別顧問(万博担当) 橋爪紳也大阪公立大学特別教授
  
 【2023年7月31日掲載】

大阪・関西

憧れ喚起し、誇り持って暮らせる世界都市へ

大阪ベイエリアに託す未来 国際競争の意識不可欠


 今年4月、大阪・関西万博の起工式に続き、IR(統合型リゾート)の整備計画が認可され、大阪ベイエリアを中心とした関西圏の発展に大きな期待が高まっている。
 一方、万博開催まで2年を切る中、強力なリーダーシップのもと、大阪・関西の将来を見据えた活発な議論を起こし、持続的成長に向けた構想を提示することも求められる。
 大阪府・大阪市特別顧問(万博担当)を務める大阪公立大学の橋爪紳也特別教授にポスト万博を睨み、取り組むべき課題などを聞いた。

   将来構想2025年までに提示し、議論を

■まず関西圏の取り組むべき課題についてどうみられていますか。

 現状の関西圏の骨格は、1970年の大阪万博に向けて、すなわち人口爆発の頃に整備し計画されたものです。今後、ゆるやかに人口が減少する中、国土と圏域を支えていくためにはどうすればいいのかが課題です。かつて都市化した地域を再都市化、再開発した地区では再再開発のフェーズに入っています。10年〜20年先を見据えて、役割を終えた施設を更新するとともに、都心や郊外の中核となる市街地を対象に、将来的に地域を牽引する拠点に切り替えていかなければいけない。そんな状況を踏まえた議論が必要ではないでしょうか。

■かねてから大阪ベイエリアの重要性を強調されている。

 1992年にベイ法(大阪湾臨海地域開発整備法)ができて、ベイエリア一体においては関西国際空港や神戸空港のほか、幹線道路網などが整備されました。ベイ法が成立し、関空開港(94年)から30年の節目を迎える中、ベイエリア全体をどうしていくのか。大阪・関西万博開催まで二年を切った今こそ、改めて考えないといけない。
 私は万博会場である夢洲を含む大阪ベイエリアの将来像を描き、今後の関西圏を託すエリアとして打ち出したい。絶えず新しい、次世代型の都市を支える基盤をベイエリアに組み込むことが求められています。神戸空港の国際化に合わせ、関空と神戸空港の連携を軸に、ベイエリア全体を次世代に向けてリノベーションする計画ができればと期待しています。

■前回の大阪万博では開催を機にインフラ整備が進みました。

 70年の大阪万博のレガシーは「国際化」という言葉に集約されます。万博開催後にはその理念を生かし、20年先、つまり1990年代に向けた構想を大阪府市それぞれが描いた。例えば、大阪府は「国際文化公園都市」と称し、北摂に公園と都市を連携した国際的な拠点をつくる計画を立て、今の彩都につながった。その一方、大阪市は国際文化情報都市という青写真を描きました。

■大阪市には湾岸地区の開発が念頭にあった。

 国際化という大きな看板のもと、ベイエリアの開発計画として大阪市は、83年に「テクノポート大阪」計画の検討を始めています。80年代末に構想がまとめられました。今回の万博会場となる夢洲(北港南地区)、舞洲(北港北地区)、咲洲(南港)などに高次都市機能を集積した新都心を形成するとともに、大阪湾に沿って都市を連携する湾岸軸と、弁天町、中之島、大阪ビジネスパーク、鶴見緑地から関西学術研究都市に至る東西軸をつくり、連携を図る計画です。現在進められている大阪ベイエリアの開発は、80年代に立案された計画がベースにあり、修正を加えながら具体化していることになります。

■計画から事業化まですごい年月がかかっている。

 これは高速道路ネットワークに関しても同様で、大阪ベイエリアの大動脈となる阪神高速湾岸線が開通(1994年)した時には、既に大阪湾岸道路西伸部や名神湾岸連絡線、淀川左岸線(2期・延伸部)の構想がありました。そして現在、それらがようやく形になろうとしている。要は先人たちが30年以上前に構想したものが、ようやく今できてきているわけです。

■先人は超長期の視点で考えていた。

 実際、大阪市では69年頃には、万博を契機とする90年代に向けた計画を立案していました。内容は中之島への文化施設の集積や阿倍野の再開発、新たな大阪港の修築、公園整備を含めた鶴見緑地の整備などです。鶴見緑地ではその後、市制100周年事業として国際花と緑の博覧会(90年開催)の誘致に取り組んだ。まさに20年先を見据えて「1970年大阪万博は、その前半の大事な事業」と位置付けていました。70年頃の大阪市の資料を読むと、90年に向けた都市整備に焦点を定め、「道半ば」と説いています。

■現在はポスト万博の構想があまり見えていないように感じます。

 やはり、大阪・関西万博開催までの2年のうちに、次の10年、20年先を見据えた将来計画をきちんと示すべきでしょう。先人がそうしたように、明るい将来に向けて希望あるビジョンを描く義務と責任が、私たちの世代にあります。
 私はもう一度、国際都市を目指すべきだと思います。そのきっかけとなるのが2025年の大阪・関西万博です。この万博を機に国際観光はもとより、得意とするライフサイエンスなど様々な分野において世界的な圏域であることをアピールしなければならない。

■大阪都心部における目下の取組みについて教えてください。

 具体的な取組みとしては、夢洲については国際観光拠点。そして、夢洲とうめきた2期が連動し、次世代型のデジタル可視化都市などを考えていくことになります。同時に、大阪城東部地区(森之宮北地区)と新大阪駅前地区の事業も大事ですね。いずれの地区もインフラの更新が求められる。新大阪駅については、東海道新幹線開通から半世紀以上経過したことから、駅周辺の都市機能向上を図るとともに、リニア中央新幹線・北陸新幹線の開業を見据え、次世代型の拠点に変えていく時期を迎えています。大阪城東部地区は、戦前は森町と呼ばれ、陸軍の練兵場から砲兵工廠関連の工場集積に転じた場所です。戦後復興期に住宅不足が顕著だったことから、日本住宅公団(現都市再生機構)が都市型住宅を建てました。また鉄道の車両工場や下水処理場やゴミ焼却所なども立地した。当時、必要とされた役割は終えつつあり、新たな発想のまちづくりが必要です。

■そのような歴史的経緯は案外忘れてしまっています。

 私は、大阪城東部地区はそのようなブラウンフィールドであったことを強調しつつそれを改善し、かつての地名である「森」をイメージした環境に配慮した先端のまちづくりがふさわしい場所だと思っています。

■なるほど。

 ベイエリアの話に戻りましょう。船場や梅田、難波といった都心部と港湾地区、今でいうベイエリアの集積。これが近代以降の大阪を支えてきた2つのコアだといえます。
 大阪ベイエリアの開発計画の歴史をさかのぼると、戦後復興期には、大阪の都市機能を西にずらしながら、新しい港をつくり港湾機能を充実させて東に移す。そうやって新たな港湾を中心とした商工都市をつくろうとした。大阪の構造的課題は都心と港湾地区に距離があること。この距離を近づけることにより、コンパクトな港湾と都市機能を目指した。これが大阪市の焼野原からの復興計画の原案でもありました。
 内陸に土地を広げることができないので、絶えず埋め立てを行い、西に土地を確保した。新しい機能を海に望む新たな埋立地に導入する。これが大阪というまちの宿命ですよ。新しい魅力ある都市機能は、西に展開しなければいけない。同時に時代に応じた役割を終えた都心は、何十年もかけて建て替えを重ね、新たな都心に改造する。それを繰り返す。この構造は変わりません。

  常に進化する「世界の都市型リゾート」 IRベンチマークはマニラ

■そのベイエリアではIRの区域整備計画が4月に認定されました。

 確実に大きな一歩を踏み出したといえます。しかし、IRができることから、大阪全体として国際観光客数を爆発的に増やさないといけない。また、国内の観光産業人材は今でも不足しており、外国人雇用についても本格的に検討する必要があります。
 さらに、国際観光拠点を形成するのであれば、間髪を入れず、IRの次の業態開発に着手し、二の矢三の矢を放つ必要があります。次に何が世界で流行っていくのか。事業者からビジネス提案が沸きでてくるような環境を整えなければならない。
 私は日本のIR分野における現時点でのライバルのひとつが、フィリピンのマニラだとみています。言い換えれば、日本のIRのベンチチマークは当初、シンガポールでしたが、その後、世界各地に巨大なリゾート開発が展開された。マニラはシンガポールモデルを参考とし、ここ10年ほどの間に4つのIR型の巨大カジノリゾートを整備し集積をつくりました。そのマニラをベンチマークとし、日本がいかにして世界との競争に勝っていくのかを示すことが必要です。
 あわせて、ホテルや飲食、エンターテインメント、大型のコンベンション施設など非カジノ部門の充実も不可欠。例えばラスベガスは、既にカジノではなく、米国4大スポーツのうち3つの本拠地の誘致に成功しました。世界の都市型リゾートは常に進化していることを忘れてはいけない。

■医療ツーリズムへの期待も高まっている。

 医療ツーリズムにおいても、先行するライバル国に対して具体的にどのような手を打ち、トップランナーを目指すのかが問われます。またそもそも、 医療ツーリズムやIRは海外の富裕層を対象としたものでした。富裕層マーケティングに関してはロンドンやシンガポールはじめ、世界の各都市がはるかに先行しています。 彼らは海外から投資を呼び込むために「どこの国の富裕層とどんな関係を持つのか」をすごく戦略的に考えている。医療ツーリズムは手段の一つ。だから何より、大阪として海外投資を呼び込むためのビッグピクチャーを描くことが求められます。

   必要な基幹産業の集積

■観光関連事業を打ち出すだけでは弱い。

 もちろん、IRという国際観光拠点は絶対に必要です。ただ観光以外に、今後の大阪圏・関西圏をけん引する基幹産業がどれくらいあるのか。話題となっている「空飛ぶクルマ」に関しても、単に運航すれば良いというものではない。それが将来の基幹産業となり得るのか。やはり、世界の大都市が当たり前に備えている基幹的な産業を集積しなければいけない。
 もっとも、万博会場は最新技術を示す場所、要するに産業見本市です。先月、航空宇宙領域における国際見本市のパリ航空ショーで「空飛ぶクルマ」が出展されました。 来年のパリ五輪でタクシーとしての運行を検討しているようです。これをお手本に万博会場で各国の空飛ぶクルマを集め、目の前で速度や航続距離を競ってもらっても面白い。万博には世界各国の人たちが訪れてくる。先に話をしたように、 ドメスティックなガラパゴス的な万博ではなく、結局、われわれが国際競争にさらされている国際都市であることに目覚めるきっかけとなることが最も重要なことです。

■基幹産業という点では、半導体工場誘致が注目されています。

 熊本が有名ですね。例えば、私もご縁のある北海道千歳市。ここではラピダスの次世代半導体工場の建設が決まり、市は国際化対応を迫られている。工場は65ヘクタールという広大な敷地に建設され、 千人規模の地元雇用が創出される。少子高齢化と過疎化に苦しんでいたまちに、突然、新たな基幹産業が生まれた。外国人技術者のための居住環境も急いで整備しなければならない。試作ラインが稼働する2025年には、 千歳市は世界最先端の技術者が集まるまち、次世代半導体の拠点となる。そのようなまちが日本の各地で生まれています。

■投資を呼び込むべく大阪では国際金融都市を掲げました。

 大阪への投資促進だけではなく、大阪を経由してどこの国のどの分野に投資するのかという視点もほしいところです。
 例えば韓国の釜山は、アジアの映画産業に関する投資の拠点となった。韓国政府の方針のもと、釜山には映画産業の拠点が集積され、ファイナンス機能も備えている。釜山をゲートにアジア各国でヒットする映画の製作を支援し、映画産業の振興を図る戦略です。
 かつては大阪を拠点とする基幹産業がいくつもありました。代表的なのは繊維業界で、大阪にヘッドクォーター(本社機能)があり、その年の流行やプロダクトの方向性を決めていた。 今でも、スポーツ用品や文房具といった業界のリーディングカンパニーが本社を置く分野においては、アジアにおける大阪の存在感は高い。隣の京都の強みは、世界を代表する企業の本社機能、意思決定機関が京都から動かないところにあります。

   大切な視点万博の年に「何を始めるのか」

■2025年に向けて一言お願いします。

 私は万博の年に「何を始めるのか」が最も大切だとも思っています。一例を挙げると、私がアドバイザーとして立ち上げた兵庫県のフィールドパビリオン。これは大阪・関西万博を機会に、兵庫県全体をパビリオンに見立て、各地の魅力を発信する体験型観光プログラムです。県内全域から130超の団体、事業者らによるプログラムが認定され、その中から、尼崎運河と沼島のクルーズ、播州織と丹波焼のものづくり体験、湯村温泉の湯がき体験の五つが、摂津、淡路、播磨、丹波、但馬それぞれの地域の核となるプレミアム・プログラムに選定された。フィールドパビリオンは2025年が第1回目となり、万博後も継続される。先ほど述べたベイエリアの将来構想もこれが重要で、あと2年を切りましたが、できれば万博開催前に跡地利用を含めたポスト万博の計画を明確に示し、大阪・関西が飛躍するきっかけとなる議論を起こしてほしい。
 万博開催はあくまで通過点であり、私たちのまちは未来永劫続く。かつて日本最大の「産業の大都」として世界的にも知られた大阪および関西の先端性を取り戻し、新たな価値を創造することで、世界中の憧れを喚起し、誇りを持って暮らせる世界都市を目指さないといけない。



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