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近畿地方整備局 中村晃之副局長  【2023年03月27日掲載】

近畿の港湾 攻めと守りの重要施策 全力推進


 近畿圏における港湾整備では、瀬戸内海はじめ太平洋と日本海と、それぞれに気象・海象条件が異なる海域において地域特性に応じた港湾機能の拡充が進められ、また近年では、防災・減災対策や老朽化対策、さらに環境に配慮したカーボンニュートラルポート実現に向けた取組み等も求められている。これら施策の推進にあたり、近畿圏の港湾行政を先導する近畿地方整備局港湾空港部では、各種の課題に対応しながら様々な施策を展開して着実な事業執行に努めているが、それら取組みの状況や今後の見通し等について中村晃之副局長に聞いた。

   国際化への勢い 阪神港夢洲の航路浚渫など

■まず、来年度事業の見通しについて。

 来年度の事業予算の配分は決まっていませんが、執行にあたっては令和4年度補正予算の約65億円と一体として運用していきます。予算執行では、経済社会活動の確実な回復と経済好循環の加速・拡大、豊かで活力ある地方創りと分散型国づくり、国民の安全・安心確保―を3本柱として、それぞれの事業進捗に応じて配分していくことになります。
 主な事業では、国際コンテナ戦略港湾阪神港で国際標準の大水深コンテナターミナルはじめ、臨港道路の大阪湾岸道路西伸部を引き続き進めていきます。また、直轄海岸事業では和歌山下津港海南地区での津波対策を継続して実施する予定です。

■いずれも重要な事業の継続となりますね。

 阪神港の機能強化では、大阪港夢洲の航路浚渫と荷さばき地の拡張・耐震化、神戸港では六甲アイランドとポートアイランド第2期地区での荷さばき地の拡張・耐震化を進めていきます。大阪湾岸道路西伸部では、今年度は海上橋脚設置に必要な航路付替工事が完了しましたが、この後については、複雑な地盤状況を鑑み、専門家からなる技術検討委員会の意見を踏まえた上で進めていきます。
 また、堺泉北港では昨年、ふ頭再編に向けた水深12メートル岸壁の整備に着手しており、舞鶴港の水深12メートル岸壁についても鋭意、工事を進めていくほか、姫路港広畑地区の水深14メートル岸壁の整備では、設計調査が進捗しており来年度内の現地着工を目指します。
 このうち阪神港の貨物取扱量に関しては、直近3年間で1年目こそ落ち込んでいましたが、トータルではコロナ禍以前までに回復しました。コロナにより社会経済活動が低迷する中でも、阪神港が経済活動を支えていたと思います。
 その中で、北米向けコンテナ貨物の輸送に関し、釜山港経由と阪神港を経由した場合の所要日数を調査した結果、コロナにより一時、北米西岸を中心にコンテナ船の滞船が生じた時期に、阪神港と釜山港で最大50日程度の輸送日数の差がでたことが明らかになりました。このことは、サプライチェーンの強靭化や経済の安全保障のためには、我が国の港湾において国際基幹航路を確保しておかないと、必要なものの調達や相手が望むものを届けることができなくなるということであり、国際コンテナ戦略港湾の重要性が改めて示されましたと考えています。

   天災をはね返す 耐震強化岸壁つぎつぎと整備

■防災・減災対策も重要です。

 防災・減災国土強靭化に関しては全力で取り組んでいきます。阪神淡路大震災発生時、神戸港には摩耶ふ頭に耐震強化岸壁が1カ所ありました。当時は全国的に少なく、先行的に導入していたもので、震災によりそこだけが残り、残りは、ほぼ壊滅状態でした。この反省に基づき、耐震強化岸壁の整備も進んでおり、現在、近畿地整管内で供用中の耐震強化岸壁は61個所となりました。現在も耐震強化岸壁と一体的に機能する荷さばき地を含め工事の実施中が9箇所となっており、今後も着実に事業を進めていきます。
 その流れと併行して、新潟中越地震等では、被災地への救援物資の搬送には海上ルートが有効であることが証明されました。特に、沿岸に港湾が連担する大阪湾や東京湾等の大都市圏では有効に機能することから、緊急物資輸送や災害支援の拠点としての役割が期待されています。その一環として、近畿管内では堺泉北港に整備された基幹的広域防災拠点で毎年、大規模な防災訓練を関係機関と連携して実施しています。
 また、東日本大震災では、津波により流出した貨物等を除去する航路啓開の必要性が指摘されたことから、現在では、港湾区域内は港湾管理者、それ以外は国が実施することになっており、大阪湾では主要各港に接続する一般海域の緊急確保航路を国が担当することとなっています。さらに同震災では第1線防波堤の倒壊も多数発生したことから、現在、和歌山下津港において粘り強い防波堤の整備に取り組んでいます。

   新しい力加えて いのちの港NWやCIM導入

■大阪湾BCP計画の取組みでは。

 湾内の港湾ごとのBCP計画と大阪湾全体のBCP計画があり、港湾では重要港湾以上で全て策定されています。大阪湾BCP計画については海溝型地震や上町断層帯地震等の地震ごとのBCP計画を策定しています。このほか、日本海側からの救援物資の搬入も想定して舞鶴港との連携も検討しています。
 また、いのちの港ネットワークの取組みを開始しています。基本的には海岸沿道路が土砂災害等で途絶した場合に船で物資を搬送するためのもので、試験訓練の実施を予定しています。取組みに先立って1月に和歌山市内で飲料水・支援物資の輸送訓練を行い、2月には和歌山県内のいのちの港ネットワーク推進協議会が設立されました。

■港湾工事における働き方改革の取組みについて。

 新担い手三法を踏まえ、働き方改革や生産性向上等の取組みを港湾分野において進めています。アイコンストラクションについては、平成29年度から開始し、浚渫工やブロック工など順次、適用範囲を拡大しています。今後、捨石均しの出来形検査等での導入を目指し、潜水士が行う作業をICT機器を活用し計測データの収集を行います。
 またCIMに関しては、堺泉北港汐見地区の岸壁工事で導入しており、先程言いました来年度に着工する姫路港の岸壁整備では3次元データを活用し施工検討を予定しています。このほか、オンラインによる電子納品や遠隔臨場等の取り組みを拡大させ、ドローンの活用も含めて港湾建設現場の省人化・生産性向上に向けた取組みを進めています。

■カーボンニュートラルポート(CNP)の取組みも始まりました。

 令和3年12月に本省港湾局でCNP形成に向けた施策の方向性と形成計画策定の手引書が示されことから取組みがスタートしました。近畿では神戸港がフロントランナーとして「神戸港CNP形成計画」が策定され、引き続き、大阪港、堺泉北港及び阪南港で策定されました。姫路港と東播磨港では播磨臨海地域CNP推進協議会が設立され、検討が進められています。
 令和4年12月には、港湾における脱炭素化への取組推進を位置付けた改正港湾法が施行され、港湾脱炭素化推進協議会と港湾脱炭素化推進計画が法制化され、各港湾管理者が策定する計画を我々が支援していきます。
 計画の策定にあたっては、港湾を取り巻く状況がそれぞれ異なっていることから、それぞれの特性を考慮しながら取組みを進めていきます。具体的な取組みで神戸港では、コンテナターミナルでのCO2排出量を削減するため、荷役機械のディーゼルエンジンを水素燃料電池への転換を進め、停泊中の船舶の電源を陸上からの供給とすることを検討しています。

■今後も機能の拡充とともに新たな取組みにご尽力下さい。ありがとうございました。



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