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近畿地方整備局淀川河川事務所 波多野真樹所長  【2022年09月26日掲載】

頻発・激甚化の河川災害に先手の取組み

河川防災ステーション契機に高台まちづくり

災害時の舟運活用へ 淀川大堰閘門整備

市町村など幅広い関係機関と連携を密に


 近年、台風や豪雨等の自然災害が頻発化・激甚化し、各地で被害が多発しているが、特に河川の越水等による被害は広範囲に及ぶため、その対策は極めて重要となっている。大阪府北部の自治体を流域とする淀川を管理する近畿地方整備局淀川河川事務所では、流域全体の治水事業はじめ、各種防災事業を実施しているが、これら事業の展開にあたって同事務所の波多野真樹所長は、「河川管理者だけでなく多くの関係機関との連携が不可欠」とする。その波多野所長に、現在実施中の淀川大堰閘門事業や河川防災ステーションの取組みなどを聞いた。

   主な事業

■まず、同事務所が実施している主な事業から。

 淀川流域は上流に木津川、宇治川、桂川とそれぞれが大きな流域を持つ3河川が大阪と京都の府境付近で合流し、淀川本川となり大阪湾に流れています。当事務所は、淀川本川と、桂川は嵐山付近まで、宇治川は天ヶ瀬ダムの堤体付近まで、木津川は笠置橋までを管理しています。
 現在、実施している主な事業では、本川下流部で阪神なんば線淀川橋梁改築事業を進めています。同橋梁は計画堤防より低く、橋脚数が39基と多く洪水流下の支障となっており、また橋桁が堤防にくい込む形のため、平成30年台風第21号では高潮により陸閘を閉鎖することとなりました。このため橋脚を10基に減らすとともに、橋桁を堤防より高くする工事を実施し、あわせて陸閘を除却することとしています。
 また、本川下流部では、淀川大堰閘門事業を実施しています。阪神淡路大震災で緊急物資等の陸上輸送が困難であったことを教訓に、災害時に大阪湾から淀川に船舶の航行を可能とするもので、平時には舟運による観光振興や公共工事に活用することとしています。沿川自治体からの要望もあり、下火になっている舟運を盛り上げるとともに、2025年大阪・関西万博への海上アクセスとしての期待もあり、2024年度中の完成を目指しています。

■この事業は早くから注目されていました。

 本川中上流部では、今年度から摂津市の鳥飼地区河川防災ステーションの整備に着手しました。当事務所管内では初めての河川防災ステーションで、水防活動を支援する水防センターや水防倉庫、備蓄資材置場、ヘリポートなど、水防活動の拠点として整備します。土地造成等を当事務所が、水防センターの整備は摂津市が行います。
 鳥飼地区は、淀川と安威川に挟まれた低地のため、水害が発生した場合、広範囲にわたり長期間の浸水被害が想定されています。
 摂津市では、この河川防災ステーション整備を契機として、高台まちづくりを推進することとしています。高台まちづくりは、堤防や高台と市街地のビルをデッキ等でつないで緊急避難場所を確保するもので、東京のゼロメートル地帯で先行的な取組みが行われており、摂津市でも、河川防災ステーションを核に周辺の公共施設を高台に整備し、それらをつなぐことで、まちづくりと一体となって緊急避難場所等を確保することも検討されています。

   流域治水

■流域治水事業との関連は。

 流域治水事業は、河川管理者だけでなく、まちづくりを担う市町村や農業関係者など多様な連携も必要で、その主体は多岐にわたります。その中で河川管理者は河川改修や防災施設の整備等を行いますが、今回の摂津市の取組みのように防災施設整備を起爆剤にして、まちづくりと一体となって水災害対策を進めてもらうことも流域治水事業の重要な施策となります。我々としてもこういった取組みが、流域に展開できるよう各市町村に働きかけていきたいと考えています。

■施策の誘導ですね。

 淀川沿川でもっと高規格堤防が整備できればよいのですが、なかなか難しい部分もあります。一方で、沿川自治体から水害が発生した場合の緊急避難場所がないとの課題も出されており、河川防災ステーションを整備することで高台まちづくりが進められれば、浸水被害が発生しても生命を守ることが可能になると思っています。
 今後、鳥飼地区河川防災ステーションが流域治水を体現するような取組みになることを期待しており、既に他の自治体からも、そうした取組みに向けた動きが出てきております。流域治水全体の取組みについては、沿川自治体等と協議会を結成し、それぞれが下水道事業やため池整備事業等を活用しながら自主的に取組みを進めています。当事務所の役割は事務局として優良事例を共有するなど、河川管理者だけではできない取組みを進めていくことが大事だと思っています。

   舟運復活

■昨年、工事着工した淀川大堰閘門については。

 先程も話ましたが、阪神淡路大震災で陸上交通が麻痺した時に舟水運が有効であったことから、まずは災害時に舟運を輸送手段として活用することを目指して整備するものです。淀川上下流の船舶の航行中でネックとなっているのが淀川大堰です。淀川大堰は明治18年の大洪水で淀川左岸が決壊したことから、新淀川(放水路)が開削されましたが、旧淀川(大川)への維持用水を確保するため、その前身となる長柄堰が整備されました。これにより水位差が生じたことから、淀川本川の上下流方向で船舶が航行できませんでしたが、阪神淡路大震災で舟運の必要性が見直され、近年では舟運復活の機運も高まってきたことから、淀川上下流の航行を可能にするため淀川大堰の横に閘門を整備するものです。
 また、淀川本川には災害時の緊急用船着場を現在整備中の十三船着場を含めて11カ所設置しておりますが、本川上流には毛馬閘門を通じて大川側からしか入れず、淀川大堰閘門の整備後は下流の大阪湾からの乗り入れが可能となり、緊急時用の輸送ルートとして期待できます。
 また、河川敷に幅員七メートルの緊急用河川敷道路を整備しています。普段は車両の乗り入れはできませんが災害時に輸送車両のルートになるものです。淀川大堰閘門が整備された際には、警察や消防、自衛隊等の実働機関と、この道路や舟運等を災害時に利活用するための訓練も実施したいと考えています。
 以前の勤務地であった荒川下流河川事務所では、警察や消防、自衛隊と沿川市町とで連携し、荒川の緊急用河川敷道路や緊急用船着場で、首都直下型地震を想定した訓練を実施していました。淀川大堰閘門が完成すれば淀川でも同様の訓練が実施できればと思っています。船舶の航行が可能になれば、海から淀川をつたって直接被災現場に向かうことができるほか、災害時に出動する実働機関がどういった装備や資機材を持っているか等の情報を共有することで、緊急用河川敷道路や緊急用船着場の改良にもつながることから、実働機関等と連携した取組みを進めていきたいと思っています。

■各種河川事業を進める上、建設業界に対して期待することなどがありましたら。

 現在、建設産業全体では担い手の確保育成が課題となっており、このため、建設産業が社会にとって大切な産業であることをPRする必要があると思っています。一例ですが、淀川の河川敷には多くの人が通行し、工事現場の前を通ることもあることから、各現場でも建設産業をPRする場として活用すればと思っています。以前、受注業者が被災地で担当した災害復旧工事の内容を示した掲示板を掲げたところ、通行する人たちから励ましの声をいただいたこともあったそうで、そういった現場単位での取組みも大事だと思います。
 いろんなPR方法はありますが、一つ一つの現場からしっかり情報発信することで、国民の建設産業への理解促進につながると思います。地道な取組みではありますが、建設産業の皆さんと一緒にできればと思います。

■ありがとうございました。



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