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土木学会 三村 衛関西支部長  【2021年11月18日掲載】

国土を守る―さらに高まる土木技術の役割

インフラ整備 大きなミッション

深めていきたい自治体とのつながり


 道路や橋梁、ダム、港湾等のインフラ整備はもとより、近年、多発する自然災害に対する防災・減災対策への取組みは不可欠なものとなっているが、これら社会資本整備を推進する上で、土木技術が果たす役割には大きなものがある。これら社会資本の重要性と土木技術・土木事業への理解を深めることを目的に、土木学会(谷口博昭会長)では、昭和62年に、11月18日を「土木の日」に定め、同会の創立記念日である11月24日までの1週間を「くらしと土木の週間」として毎年、関連イベントを開催している。こうした中、土木学会関西支部の三村衛支部長(京都大学大学院教授)は、土木技術の継承について、とりわけ「自治体では技術者が育ちにくくなっている」ことに懸念を示す。その三村支部長に、コロナ禍によるリモートを中心とした支部の活動状況や来年、京都で開催を予定している全国大会の見通し等について聞いた。

■まず支部活動の現況について。

 コロナ禍であり、支部に限らず本部会合等もオンライン対応となり、私も、なかなか会員にお目にかかる機会もありませんでしたが、リモートにも慣れるに従って習熟度、も高まってきました。また、現場見学会等の市民向けのイベント等についても、実現場の監視カメラやドローンを駆使することで、それなりに現場の状況を見ることができました。
 さらにオンラインの場合、会場に集まる必要がなく、地域を限定せずに全国からの視聴が可能となり、より多くの方々に参加いただけるというメリットがありました。これは大学の講義でも同じで、オンデマンドで配信すれば、学生は自由な時間で講義を受けることが可能になりました。

■なるほど。

 その一方で、研究発表会等では、事例発表や質疑応答には問題はありませんが、やはり空気感というか、参加者の反応が直に分からないといった部分はあります。これは講義でも同じで、学生がちゃんと理解しているかどうかが分からない。また、参加者同志が親交を深めることや、雑談する中で、閃きやアイデアが生まれることもありますが、そういった機会がないという部分でのデメリットはあるような気がします。
 オンライン自体には問題はありませんが、サービスを受ける会員が満足しているかどうか。その辺りの意向を把握する必要はあるかと思います。また、コロナが収束した場合でも、対面方式とオンラインの2本立てでやっていく方向になるのかなとは思っています。
 また、来年は京都で土木学会全国大会が開催されます。開会式や講演等は京都国際会館で開催し、学術研究発表会は京都大学吉田南キャンパスで予定しております。コロナの状況がどうなるか分かりませんが、対面方式とオンライン方式の併用で予定していますが、できるだけ多くの方に参加していただきたいと考えています。

■防災・減災をはじめとする土木の役割についての考えは。

 土木の役割ではインフラ整備が大きなミッションになります。現在、土木構造物の整備にあたっては強靱化が求められていますが、その場合、整備費を抑えてメンテナンスに費用を掛けるか、コストが掛かってもしっかりと整備してメンテナンスフリーとするか、技術者と発注者、それぞれの考え方があります。一概にどちらが適正とは言えません。
 ただ、治水対策等で地下河川等を整備することで台風や豪雨でも浸水被害を防ぐことできるようになりました。また、構造物の地震対策にしても一般の方々には見えず、「災害が発生しても何もないことが当たり前」との感覚がありますが、行政も含め土木技術者が、何もないことが当たり前とするために、どのような取組みを行っているかをアピールする、土木のそういった役割を知ってもらう努力をすることも必要です。

■土木に限らず建設業界全体として技術者や後継者の確保が課題となっていますが。

 理系への進学者は多いですが、工学系志望者が少ないのが現状です。就職に関しても、かつては国家公務員や地方公務員を志望する学生も一定数いましたが今は少なくなっています。学生が就職先として魅力を感じなくなっているのかどうかわかりませんが、私の見方では、専門知識を活かすというよりは、行政マンとしての役割を求められているのではないかと思っています。
 その反面、ゼネコンやコンサル会社にも一定数は就職しており、土木の仕事を嫌っているわけでもなさそうです。ただ、転勤による単身赴任など、家族と別れての生活が嫌で転職する者もいます。残業や休日出勤は当たり前としていた我々の時代とは価値観も違いますから、そういった点も受け入れ側としては真剣に考えていく必要があり、そうすることで人材を確保することはできると思います。

■自治体職員の技術力も低下しているとも聞きます。

 職員が勉強する風土といったものがなくなってきています。組織としての技術力が低下すると若手の教育ができなくなり、技術者が育たなくなる。土木を学んだ学生はそこに行く必要を感じなくなるという悪循環が起こるという懸念はあります。
 現在、支部会員も自治体技術者が少なくなり、学会と行政の人的な関係も薄くなってきました。このため自治体に対する学会の役割を明確にするため、支部として近畿地方整備局をはじめ、近畿の各府県と政令市と災害協定を締結しました。これにより災害時に被災地域へ学会メンバーを迅速に派遣することができました。
 また、災害に限らず土木構造物の点検や維持管理等も支援することが可能となり、これを契機に自治体との関係を再構築できればと考えています。時間はかかると思いますが、関係を深めていければと思いますし、学会としてもそういった点で役に立てればと考えています。

■支部長自身の土木学会との関わりは。

 土木学会とは学生時代に支部の年次学術講演会に参加したことが支部と関わる契機になりました。その時に、私の発表論文について、当時の大阪市立大学の故三笠正人先生から鋭い質問を受けまして、その時は「厳しい先生だな」と思いましたが、今になると、それだけ学生に対しても、同じ研究者として真面目に向き合っていただいていたと分かりました。
 それから支部の運営にも係わるようになり、今回、支部長を拝命した次第です。支部運営に関しては、事務局スタッフや各委員会メンバーが動きやすいよう支援するとともに、外部との交渉や問題が発生した場合は出ていきますが、基本的には従来通り、それぞれの役割を見守っていくことになります。
 関西支部の活動は、比較的自由に活動しているのが特長だと思います。私も代表幹事時代は会合後に、メンバー同士で議論しました。メンバーには発注者やゼネコン、学者など、様々な職業や年齢の者が、土木の役割や発注に関わる発注受注の双方の問題など立場を超えて議論することができ、その中で、同じ土木技術者が本音を言い合うことで、表面上では分からないことや気づくこともあり、互いに理解が深まりました。
 勿論、ただ議論するだけでなく、その中で出てきた問題や話題について、支部として当事者や関係者を招いて研修会や講習会を開催するなど、支部活動に反映させていきました。こういったことが自由にできる風土が関西支部にはあり、こういったことも若い人に引き継いでいきたいと思っています。

■ありがとうございました。

 

 三村衛(みむら・まもる)
1981年3月京都大学工学部土木工学科卒、1983年3月京都大学大学院工学研究科土木工学専攻修士課程修了、同年4月京都大学助手、防災研究所、1993年10月オランダ・デルフト地盤工学研究所客員研究員、京都大学助教授、防災研究所等を経て、現在は京都大学大学院工学研究科教授。



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