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建設産業専門団体連合会 岩田正吾会長  【2021年09月13日掲載】

CCUSは改革のエンジン

慣習・固定観念から脱却


請負価格が乱高下するような業界に未来予想図は描けない


 今年6月に就任した岩田正吾・建設産業専門団体連合会会長は、これまでの専門工事業の業態からの脱却を目指し、様々な取組みを模索している。担い手確保・育成を活動のベースに、職人賃金のランクアップ制とオープンブック、そのための請負金額と平均賃金をセットにした可視化など、既に実現にあたっての建専連の組織改革や財源確保等の取組みを進めている。「請負価格が乱高下するような業界に未来予想図は描けない」とする岩田会長に、今後の取組みや見通しなどを聞いた。

   まず担い手確保

■建専連の会長となったことで、これまでも関西鉄筋工業協同組合理事長、全国鉄筋工事業協会会長として活動されてきたこととの違いは感じますか。

 建専連会長として専門工事業を見た場合の景色が全く違います。組合理事長はあくまで関西地域だけであり、全鉄筋では鉄筋業種のみでしたが、建専連として見たことにより課題が明確になりました。課題については、現行制度の中では解決しないものや、時間が掛かっても変えていかなければならないもの、さらに、できることできないこと、やらなければならないことが見えてきました。
 これまでは、それなりに仕事もあったことから、社会保険や建設キャリアアップシステム、働き方改革については大きな反対もなく進められてきました。しかし、コロナにより建設投資が低下するとゼネコンが先行きを懸念し、受注活動が活発になり、地域によっては受注競争が激しくなってきました。そういった時期の会長就任にあたり、建専連としてもスピード感を持って活動しなければとの思いがあります。
 建専連の活動は担い手確保がベースになります。特に若者の入職に関しては、親の目線が絶対に必要で、親が業界に持つ疑問を解決しない限り変わらない。その疑問とは何かと言えば賃金体系です。
 職人の賃金は、ベテランと新人の賃金の中間をとったものを平均賃金としますが、専門工事は請負業であり、賃金は請負金額によって変わっていく。請負金額が低ければ平均賃金が下がり、平均賃金が下がれば人は入って来なくなる。公共工事設計労務単価が、ここ9年間で53・3%まで引き上げられましたが、状況によって単価が上げ下げするような業界に人が入ってくるのか。親が我が子をそんな業界への就職を勧めるわけがない。

■そこを変えていく必要があると。

 これまでもその必要性が指摘されながらも変わってこなかったのは、業界側が、「昔からそうしてきたから」とそれまでの慣習や固定観念で判断してきたからです。私自身もそれらを否定はしませんがそれが実態です。今回の会長に就任にあたっては、前会長ともその辺に関して議論した上で、「これまでの業界の考え方や物差しではなく、変えていけ」とする意思を託されたと思っており、それが会長就任にあたっての抱負と思っている。

■改革にあたって特に重要な課題は。

 CCUSを加速させなければならないと思っています。CCUSは、いろんな意味でエンジンだと考えている。そのエンジンを動かすガソリンが請負単価で、今は、そのエンジンにガソリンが入っていない、入らない仕組みになっている。ガソリンがない中でエンジンを噴かして空回りになっているのが現状です。
 CCUSは、技能労働者の評価を四段階に分けて見える化するものですが、段階評価しながら同一賃金とするのはおかしいのではないか。担い手確保のためにも平均賃金上げるためにガソリンを増やさなければならない。ガソリンである請負単価が平均賃金の基準にならないといけない。

■技能労働者の賃金に関しては、今年3月に行われた国交大臣と、建専連や日建連、全建等の建設4団体との意見交換会で、概ね2%以上の賃金アップの実現を目指して取り組むことが確認されましたが。

 国や他の発注者のいう平均賃金は労務費ベースを基準に考えている。労務費をベースにすれば常用単価となり、そうなると中抜きが常態化してくる。業法では請負としながら、派遣法では中抜きを禁止しているのにも関わらず請負単価については独禁法で縛っている。ここに建設業特有の業態がある。
 例えて言うならば寿司屋のネタと同じで、仕入れた魚が多ければ値段は安くなり、少なければ高くなる時価となっている。これを享受している業界の体質を変えていかなければならない。この話をすると皆さん納得はするが、この業態に慣れきって変えようとする意識が働かなくなってしまっている。
 そういった業態を国が許容しながら、賃金アップを進めようとしている。これを実現するには、原資となる支払単価が決まっていないこと、原資である請負単価が上下することが問題です。エンジンを回すガソリンを安定的に供給しないと車は走らない。賃金の2%アップにしても、どの基準でアップするのか。1番良い時の単価なのか低い時の単価なのか。労務単価の引き上げも含め、そこを議論せずに取組みを進めている。
 建専連としては、技能レベルに応じた賃金を出すことが必要と思っている。このため、平均賃金を設定して公に示すオープンブック方式の導入を考えている。資格と経験年数により目安となる賃金を示して見える化することで担い手確保につなげていきたいと考えている。

   レベル毎の最低賃金可視化
   改革への取組み

■改革にあたっての取組みとしては。

 建専連の組織改革から人事構成、財源の確保が必要です。またこれまで、社会保険への加入や働き方改革、CCUS登録、登録基幹技能者の取得等を促進してきましたが、それらが職人にどういったメリットがあるかを周知する責任がある。
 職人からすれば保険に入らされている、資格を取らされているといった考えが多数を占めており、保険加入や資格取得によるメリットを感じている職人は一部でしかない。そこで建専連として、メリットを受けるための原資を適正に受け取ることができるように、元請に働きかけていくことが求められる。そのためには、請負と賃金を評価してもらえるような仕組みをどう構築していくかです。
 その為には、資格と経験年数で自動的に給与の上がる仕組みを作る必要があり、働く人にわかりやすい形で処遇を透明化することが重要です。
 レベル毎の最低賃金が可視化されることにより、資格取得目標とあと何年頑張れば所得が上がるというモチベーションアップにつながる。欧米では手取りの時給という形で、オープンブックとしてわかりやすく整理されています。
 ここを目指したいのですが、安定的な受注単価が見込めないこれまでの商取引では、二の足を踏んでいるのが現状です。そこで、レベル毎の最低賃金を担保する為に必要な標準単価とセットで可視化することを提案しました。

■なるほど。

 実現にあたっては、専門工事業界全体で取り組む必要があり、各業種の合意形成が図れる組織体にする必要がある。そこでの私の役割は、標準単価の設定と理事会の承認、そのための人事と組織改革、財源確保だと思っている。
 このうち組織改革では現在、理事会は鉄筋、とび、型枠、左官、塗装、重機土工、圧送ポンプ、室内装飾、道路標識等の各団体のトップを理事として構成しています。専門工事業では、とび、型枠、鉄筋の業種が一本化することが不可欠で、そういった意味から理事に三業種のトップが揃ったことは重要です。8月には臨時理事会を開催し、標準単価と財源確保のために外国人材受入事業をスタートさせることを協議しました。また、レベル評価についても将来的には建専連でやっていこうと思っています。
 さらに民間発注者とのコンタクトを密にしたい。デベロッパーはもとより、IT業界等のこれからの日本の成長エンジンとなる産業が建設業をどう見ているかも気になる部分です。建専連としは、これら具体的に掲げたものを一つずつ取り組んでいくことと、組織全体をどう変えていくか、最終的にはシンクタンク設立まで持っていきたい。そのためにも財源確保が不可欠となります。

■地区建専連との連携については。

 地区建専連とは、各地区の課題に対してできることから協力体制を強化していくことになります。中央の元で組織化するより、地区ごとに活動し、地方から上がってきた意見や取組みを支援する形になる。既に、各地区の会長が所属する団体のトップの殆どが理事となっており、地域の意見や要望はダイレクトに組み上げることが可能になっています。
 そういう意味で今は変えるタイミングにあると思っている。ただ、地区会員に対するサービスやメリットをはっきりとさせることは必要で、情報提供等の部分では、関係を密にし、徹底して行っていきます。

■最後にこれからの取組みにあたっての抱負を。

 重ねて言いますが、標準単価の設定なくして担い手確保のエンジンにはならない。単価が下がれば社会保険やCCUSもスルーされ、ゼネコンも優秀な業者を抱えなくてはやっていけなくなる。
 地方では、ダンピング受注による指値発注が出てきて、各地に広がろうとしており、それが当たり前のようになっていく。
 国では、設計労務単価のアップをはじめ、処遇改善に向けた投資を行っている中で、不当行為が業界全体に大きな影響を及ぼしている。工事単価が時価で、賃金の原資である請負価格が乱高下するような業界には未来予想図は描けない。分かっていながら誰も声を上げない。このような核心の部分を建専連として声を大にし、変えていきたいと思っています。

■ありがとうございました。



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