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近畿地方整備局 伊藤博信副局長  【2021年03月29日掲載】

近畿圏港湾さらなる機能強化・高度化を推進

沖波も見直し全力で防・減災取組み

阪神港AI化を本格的に

神戸港「脱炭素」へ先駆け


 日本海から瀬戸内海、大阪湾と気象や海象、地理的条件の異なる近畿圏の港湾行政を先導する近畿地方整備局港湾空港部。近年では、大都市港湾や地方港湾を問わず、減災・防災対策が課題となる一方で、物流交易拠点としての機能拡充に向けた施策も展開されている。また、港湾における脱炭素社会の形成やAI化、ICT導入など、新たな取組みも進められているが、これら事業の推進にあたり伊藤博信副局長は、「国民の安全と経済活性化に向け、事業を円滑に執行するのが我々の務め」とする。その伊藤副局長に、現在の事業状況や今後の見通しについて聞いた。

■まずは、港湾における防災・減災対策について。

 防災・減災対策では、国土強靱化の3か年対策に続き、来年度からは5か年で計画された対策も活用しながら実施します。取組みでは、激甚化する台風の波浪から施設の安全性を確保するため沖波の見直しを行っています。
 平成30年の台風21号で、神戸港のコンテナターミナルはじめ各地で浸水被害が発生したことによるもので、波浪そのものが強靱化していることから、最新の知見により更新された設計沖波等で耐波性能等を照査し、その結果に基づき、防波堤や護岸の嵩上げ、背後地での防潮堤築造等の対応策など、構造物の安定性等を検討していきます。
 また、大阪湾において発生する高潮の早見図を作成しています。台風の規模や進路等から潮位の予測等を行い、事前防災に備えるためで、港湾管理者と情報を共有することを検討しています。これら防災・減災対策では、ハード面では構造物等の安定化、ソフト面では情報提供等の取組みをしっかりと進めていきます。

■なるほど。

 東日本大震災から10年経過しましたが、当時、物資補給を行う船舶が安全に航行するための航路啓開作業が急務となり、建設業界団体に全国から起重機船を回航して頂きました。近畿においても業界団体と災害協定を締結して不測の事態に備えています。
 また、堺泉北港堺2区の基幹的広域防災拠点の機能拡充も進めていきます。同基地では、堺市と合同で毎年、防災訓練を実施しているほか、令和2年7月の九州豪雨では、備蓄品を被災地の八代市へ緊急輸送し、西日本豪雨の土砂災害では、府内各地からの支援物資の集積地として機能しました。しかしながら、物資輸送等に使用する耐震強化岸壁が1バースしかなく、最近の災害で利用されている大型船舶には充分に対応できなくなっていることから、さらなる機能強化に向け検討しています。
 一方、南海トラフ巨大地震の津波対策として、和歌山下津港海岸海南地区で護岸工事を行っています。同地区では、避難を要するレベル2津波が想定されていますが、背後地には石油コンビナートや世界的シェアを誇る製鉄業が集積していることから、これらを防御する必要があります。計画では、内陸部の地形に沿った形で護岸や水門、津波防波堤を構築していきますが、工事にあたっては直背後に立地する工場施設に影響を与えずに実施することが求められています。
 ただ、施設の構造が複雑であり、早期の事業着手が求められていることから、一部の地区ではECI方式を採用しました。設計施工一括方式として、詳細設計を行った後に協議をした上で施工を行うもので、来年度から協議に入る予定です。いずれにしても防災・減災への取組みは我々の使命であり、やれるところはしっかりやっていきます。

■来年度事業について。

 まず、国際コンテナ戦略港湾の阪神港では、機能強化としてソフト・ハード両面から取組みを進めています。ソフト面では、令和3年度からサイバーポートとして港湾のAI化を本格的に進めます。新しい港湾情報システム「CONPAS」により作業車両の渋滞や混雑を防ぐ効率的な輸送をはじめ、各種施策を一体的に推進することで「ヒトを支援するAIターミナル」を実現し、港湾に関する様々な情報が有機的に連携することを目指していきます。
 ハード面では、競争力強化のため神戸港と大阪港での国際海上コンテナターミナル整備を引き続き実施します。大阪港では、夢洲の航路と泊地の浚渫工と高規格コンテナバース背後地の耐震化とヤード拡張を実施します。同じく神戸港の六甲アイランドとポートアイランドでも行います。
 また、大阪湾岸道路西伸部工事では、神戸港で海上橋脚部の設置予定地となる場所での航路切り替えに係る既存の防波堤撤去工事として、第4・第5防波堤の撤去工事と浚渫工を行っています。

■継続事業が中心となりますか。

 堺泉北港では、RORO船や外貿コンテナ船に対応する物流ターミナル、さらに中古車輸出の拠点としての機能を強化するため、令和3年度より汐見地区において岸壁整備を本格化させていきます。また、舞鶴港和田地区や姫路港広畑地区でのターミナル整備に向けての準備も進めていきます。
 このほか、防災対策はもとより、新型コロナウイルスで急減したクルーズ船の寄港を安全に実現するため、港湾管理者と危機管理、保健衛生部局、業界関係団体による水際・防災対策連絡会議を設立し、情報共有を図っていきます。
 新たな取組みでは、カーボンニュートラルポートに取り組みます。2050年までに脱炭素社会の実現を目指すもので、国交省では、港湾での温室効果ガスの排出量ゼロを目指したカーボンニュートラルの形成に取り組むこととしています。CO2の排出量の約6割を占める産業の多くが港湾に立地していることから、港湾機能の高度化を通じて脱炭素社会の実現に貢献するものです。
 そのため神戸港はじめ全国で6地域の港湾を対象港湾としてCO2削減に向けた仕組みの構築に向けて検討を行うこととし、今年1月に第1回目の検討会が開催されました。今後、神戸港がその先駆けとなり全国に広げていければと思っています。

■働き方改革への取組みでは。

 港湾工事の場合、気象や海象に大きく左右されることから、週休2日の実施も難しい状況にありますが、4週8休の達成に向け、制度的な取組みを業界の方々とともに進めていきます。また、生産性向上ではICTを導入していきます。現在、浚渫工では基本的に実施しており、基礎工やブロック据付工でも順次、導入していきます。
 BIM/CIMに関しては、舞鶴港第2埠頭地区岸壁改良工事で実施しているほか、今後は同じ舞鶴港の臨港道路、堺泉北港での岸壁工事等にも導入していく考えです。BIM/CIMに関しては、令和5年度以降の事業には全面導入する方向です。設計段階はもとより維持管理においてもデータを活用した取組みを試行錯誤しながら進めていきます。また、コロナ対策の一環としてターミナルの維持管理で遠隔臨場を実施しています。

■これら施策を推進する上で業界に対する要望がございましたら。

 今年度はコロナ禍にあっても、工事の中断もなく順調に進めることができたことに感謝申し上げます。我々の使命は、国民の安全安心な暮らしの確保と地域経済の活性化を図ることで、このためには事業を円滑に執行する必要があります。建設業界はその直接的な担い手であり、パートナーです。今後も厳しい状況が続くとは思いますが、引き続き支援と協力をお願いします。

■ありがとうございました。



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