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大阪造園業協会 矢野幸吉会長  【2021年03月08日掲載】

コロナ禍来年度の市場環境悪化を懸念

「受注機会」「適正利益」の確保に全力

将来の担い手づくりへ

「Park―PFI」での維持管理業務分離発注を


 一般社団法人大阪造園業協会(矢野幸吉会長、本会員49社・賛助会員22社)は、造園の技術と技能を伝承するため、若者に魅力ある業界づくりめざして2003年に設立。以来、業界の地位向上に向けて行政との意見交換会や要望活動、会員各所の経営力・技術力を高めるための研修会の開催、緑化施策への協力などの活動を積極的に展開してきた。
 同協会は大阪府内に本店を置く中小造園業者を中心に構成されるが、コロナ禍により市場環境が不透明となる中、会員各社は事業継続に向けた正念場を迎えつつある。矢野会長に業界の現状や直面する課題などを聞いた。

■まずはコロナ禍における造園業の現状について教えてください。

 大阪造園業協会の会員は、公共工事に関しては、造園工事をはじめ、公園や国道緑地の維持管理などの仕事を主に手掛けています。ここ数年はこれらの工事がコンスタントに発注されたことから、昨年の8月頃までは会員各社の業績も比較的順調だったといえます。
 しかし、昨年11月頃から得意先であるゼネコンさんの受注競争が激しくなるなど、市場環境が変わってきました。コロナの影響で民間工事の計画中止や延期が相次いだためです。われわれ造園業者も計画に織り込んでいた工事案件が取れないといったケースが徐々に増えてきました。さらに地方自治体においてはコロナ対策が最優先課題となっています。対して造園関連工事は急務な事業ではなく、発注が後回しになる恐れもある。四月以降は仕事の絶対量が確保できないのではないかと強く懸念しています。協会の会員の殆どは大阪府内に本店を置く中小企業であり、受注減少により大きな打撃を受けるかもしれません。

■コロナ以前から地元業者の受注機会が減っているとも聞いています。

 それが顕著なのが公園の維持管理業務です。地元業者が元請受注できる機会が目に見えて減っている。都市公園整備では民間資金を活用したPark―PFI(公募設置管理制度)が主流になりつつありますが、地元の造園業者がPark―PFIに事業者として参加することはほぼ不可能です。正直、大手系列の造園業者以外は構成員に入れてもらえず、地元業者は事業者JVの下請に甘んじるしかない。もちろん、民間発注のため最低制限価格の設定もなく、適正利益の確保が困難な状況に追い込まれています。会員各社は技術者と技能者を抱え、機材・車両を保有しています。しかし、Park―PFIの導入が拡大し、元請としての受注機会がさらに減少すれば、担い手の確保・育成はもとより、今の体制を維持することさえできなくなる。技術・技能の伝承も危ぶまれます。
 そのうえ、従来からの公共工事においても、造園工事を建築や土木工事に含めて一括発注し、コスト削減を図る動きも出てきました。これでは地元業者の収益はさらに圧迫されます。

■民間企業が運営を担うことで「公園の商業化が行き過ぎている」という指摘もあります。

 公園というものは本来、人々の「安らぎ・憩い」の場であるはずですが、民営なので利益を追求せざるを得ない。そのため過度な樹木伐採や剪定が行われるなど、景観や緑陰効果などが損なわれるケースも散見されます。
 樹木の剪定は萌芽や伸長など樹木の特性を十分考慮したうえで作業に当たる必要があり、だからこそ、公園の維持管理業務ついては、技術・技能に優れた造園業者に分離発注すべきです。事実、一括発注された現場においては、手先は器用だが造園作業の知識の少ない軽作業員が刈り込み、その結果、樹木の健全な生育を阻害するといった問題も生じています。

  「大阪・関西万博」「うめきた2期」 技術力発揮のチャンス

■大阪では、うめきた2期や万博の工事が期待されていますが。

 「うめきた2期」では大阪の顔となる場所で都市公園が整備されます。「大阪・関西万博」には世界中からたくさんの人が集まります。われわれ大阪の造園業者の技術力を存分に発揮し、アピールできる絶好のチャンスであると捉えています。
 当協会の第一の目的は業界挙げて若者の入職を促し、将来の担い手を確保・育成することです。そのために夢と魅力にあふれた業界にしようと取り組んでおり、大阪での国家的プロジェクトの工事には是が非でも元請として参加したい。発注者との意見交換の中では「1970年の大阪万博や1990年の大阪花博と同じような造園業者への発注はできないかもしれない」とも言われました。難しいことは承知していますが、地元業者に造園工事を発注してもらえるよう引き続き働きかけていきます。

■技術者・技能者の高齢化と新規入職者不足、加えて経営者の高齢化も課題です。

 業界にとってはいずれも長年の懸案事項です。結局、これらの課題解決のためには安定的な工事量と適正利益の確保が不可欠です。会員各社の経営が安定してこそ、社員および技術者・技能者の処遇改善、そして担い手の確保・育成を推進することができる。その意味では、Park―PFIによる公園整備は「建設業における働き方改革」の流れに逆行しているのではないでしょうか。地域で造園業に携わる人たちがないがしろにされているように感じます。
 かつては大阪にも名門老舗の造園業者がいくつかありましたが、その多くが倒産・廃業していきました。生き残った業者も多くが規模を縮小しながら持ちこたえているのが現状です。国による設計労務単価の引き上げは非常にありがたいことですが、それ以上に必要なのは仕事の絶対量です。そこは重ねて強調しておきたいと思います。

■そのほか、行政に求めることはありますか。

 大阪府が発注する造園工事においては、予定価格5千万円未満の工事は大阪本店業者のみが対象ですが、5千万円以上のものは支店業者、つまり本店所在地が府外にある業者も参加できます。ここ数年は5千万円以上の工事の発注件数が増えており、それらを支店業者が落札することも多くなってきました。競争性・公平性の観点からは止むを得ないことですが、本店業者と支店業者の棲み分けがこれからの課題となってくるでしょう。
 一方、公園や街路樹などの管理業務委託については、継続して大阪本店業者への優先発注を求めています。やはり災害が発生した場合、率先して復旧活動に取り組むのは地元業者であり、地域特性も熟知しています。当協会では大阪府と防災協定を締結し、訓練を年2回実施しています。また地元業者は技術面においても、それぞれの地域環境に応じた樹種や土の研究などに取り組んでいます。

■来年度の協会としての活動については。

 毎年、近畿地方整備局、大阪府、都市再生機構西日本支社との意見交換を行ってきましたが、昨年4月以降はコロナの影響により、これら意見交換はもとより、協会の定例役員会や委員会の活動ができず、総会も書面でのやり取りで済ませています。来年度についても、意見交換や総会も書面だけのやり取りになるかもしれません。コロナの収束が見えない中、造園業界も大きな影響を受けると予想されますが、そんな厳しい時期ゆえ、業界の実情についてさらなる理解を促し、受注機会の拡大に全力を注ぎたいと考えています。



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