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(株)北梅組 北浦雄之助社長  【2020年12月07日掲載】

徹底した対話と情報公開で社内改革

「施工部」を核に技能伝承へ

本物のワンチーム、強じんな体質めざす
   

北浦年一前建団連会長のお別れの会で、同社役員・部長
及び協力会社幹部
右から3人目が北浦社長

 


 鳶土工の専門工事業者である北梅組(大阪市城東区、北浦雄之助社長)。同社は1941年に創業し、以来、大手ゼネコンの名義人として「大阪万博」「関西国際空港」や「東大寺金堂(大仏殿)・昭和大修理」「大阪中央公会堂保存・再生」などシンボリックなプロジェクトを数多く手がけてきた。まさに名実ともに関西を代表する専門工事業者であるが、それゆえの課題も抱え、「10年以上は様々な面で厳しい状況が続いていた」(北浦社長)。2017年に就任した北浦社長は、徹底した対話と情報公開をルール化。人事面では主力部門の幹部に若手を抜擢し権限を委譲するなど迅速かつ大胆に改革に取組み、成果をあげた。北浦社長にこれまでの取組みや思いなどを聞いた。

■3年前の9月、会社として非常に厳しい状況の中での社長就任となった。立て直しに向け取り組んだことについて。

 「まずは人事制度を抜本的に見直し、年功序列から能力重視に切り替えた。例えば、ゼネコンさんの専門工事を担う当社の主力部門、建築部と土木部の部長に仕事に前向きな40代の社員を抜擢した。あわせて権限も委譲し、『部長の答えが会社の答えだ』と現場で即決できるようにした。つまり、若い部長たちが責任をもって事業運営と経営管理を担い、私を含めた役員2人は彼らの後方支援に徹すると決めた」

■情報開示も迅速かつ大胆に進めた。

 「役員と部長で徹底的に話し合うことを習慣化した。『1にも2にも対話だ』と。そうやって社内の情報共有を促し、信頼関係を深めた。また、顧問を務める税理士や弁護士、社会保険労務士に対しても、あらゆる情報をオープンにし、建設業界だけの範囲にとらわれず、財務諸表はもとより、人間関係・会社の方向性まで包み隠さず見てもらう。問題や疑問があれば、顧問の先生から『ここがおかしい』と容赦なく指摘される」

■改革と並行し職人の社員化にも着手した。

 「11人の社員工からなる『施工部』を新設し、なにわの名工でもある佐藤正勝を部長に据えた。佐藤は故北浦年一さん(2代目社長で前大阪府建団連会長)が育てた職人だ。施工部のメンバーは登録鳶・土工基幹技能者および一級鳶の資格を持つ職長クラスが9人、若手の10代・20代の子が一人ずつ。部長を除いた平均年齢は約38歳。10代の子はまだマンツーマンによる指導段階だが2人とも辛抱強く頑張ってくれている。
 当社の専門は鳶土工工事業であり、ゼネコンさんの筆頭名義人でもある。だからこそ、職人の技能を伝承し続けなればならない。施工部を核にその責務を果たしていく」

■ただ、法定福利費はじめ費用負担はかなり増える。そのコストを吸収できますか。

 「通常の鳶土工の仕事だけでは到底賄えない。経営は厳しい。当社では鳶土工以外に、掘削や解体、建築・土木一式工事を手がけ収益源を多角化している。この経営基盤があるから実現できた。骨格をつくったのは年一さんだ。
 年一さんは建団連会長として『1年に1人ずつでいいから職人の社員化を進めてほしい』と専門工事業者に訴え続けた。私も『その通りだ』と思い、社長になってすぐに施工部設立を検討した。もっとも、私ひとりで決めた訳ではない。役員と部長で議論を重ねた末に『やろう』と腹をくくった。最初は『手取りが減るから嫌だ』と難色を示す職人もいたが、家族も交え、年金や病気になった時のメリットなどを何度も説明し、社員になってもらった」

■協力会との関係についても再構築したと聞いています。

 「当社の現場では、1日に約470人の職人が作業にあたっている。協力会社との意志疎通は極めて重要だ。主力9社のオヤジたちとは、月に1〜2回のペースで会合を開き、安全対策・案件や仕事の割り振り、組合せなどについてとことん話し合うようにした。お金の話も互いに隠さず正直に話す。また、協力会のオヤジ同士もすごく仲が良い。現場を上手くおさめるため、われわれの知らないうちに助け合ってくれている。
 現在、当社の現場で働く鳶土工はすべてフルハーネス型安全帯を着用しているが、これは協力会のオヤジたちが『全員装着を北梅組のルールとする。そのため購入費用を協力会で半額補助しよう』と声をあげて実現したものだ。オヤジたちとはまさに何でも言い合える仲にあるが、この信頼関係は取締役の岩佐をはじめ各部長・社員みんなが築いてくれている」

   コロナ禍で工事中断 職人賃金すべて補償

■職人の仕事を切らさないよう、全社で気を配ってもいる。

 「協力会社に対して『仕事がないから他で飯を食ってくれ』とは何があっても言いたくない。例えば今年の4月、新型コロナの影響で工事中断が相次いだ時、すぐさま九社のオヤジたちを集め、『2ヶ月現場が止まっても職人の賃金は全額補償する』と宣言した。正直なところ『さすがにこの金額は怖いな』とも思ったが、部長たちから『社長、このままではみんな不安が募る一方だ。北梅組が全部出すと言ってください。そう言わなければ本当のチームにはならない。お金は大丈夫だから』と強く背中を押された。これを機に、一体感がさらに強まった」

■この3年間、売上・利益とも極めて好調ということですが。

 「特に仕事内容が変わったわけではない。あくまで対話と情報公開を軸に社内改革を進めた結果だと思う。一方、痛みを伴った改革の中にあっても、みんな必死で持ち場を守り続けてくれた。それぞれの担当工事において、計画・提案の能力や技能などが認められ、『次の現場も頼むよ』と。その信頼が得意先様から指名が入ることにつながり安定した受注が確保できている。活動全般を支える総務部の存在も非常に大きい。結局、われわれの仕事は人間関係がすべて。全役職員、協力会社はもちろん、顧問の先生まで含め、全員が1つのチームとして結束しないと上手くはいかない。今は正直、『よくこれだけ会社が変われたな』と実感している。
 これからは、当社の将来を担う20代の採用をさらに進めるため、北梅組のブランド構築にも取り組みたい。強じんな企業体質の確立を目指すとともに、担い手の確保・育成には引き続き全力を注いでいく」



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