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土木学会 塩谷智弘関西支部長  【2020年11月19日掲載】

さらに増すインフラ整備の重要性

メンテナンス強化が必要

若手技術者育成 もっと現場で学ぶ機会を

土木事業を利用者の身近なものに


 土木事業は、道路をはじめ、橋梁やダム、治水等の各分野における社会基盤を整備する上で必要不可欠なものとなっているが、近年では、その担い手の確保・育成が課題となっている。土木の専門家集団である土木学会(家田仁会長)では、一般の方々に対し、社会資本の重要性と土木技術・土木事業への理解を深めるため、昭和62年に、11月18日を「土木の日」として定め、同会の創立記念日である11月24日までの1週間を「くらしと土木の週間」として毎年、関連イベントを開催している。
 こうした中、土木学会関西支部の塩谷智弘支部長(大阪メトロサービス監査役)は、「特に都市土木の現場が減少し、技術者が育ちにくい環境にある」としながら、将来に向け、若い人に土木の魅力を伝えることの必要性を指摘する。その塩谷支部長に、土木技術者の果たす役割や責務等について聞いた。
 なお、11月18日を土木の日としたのは、土木の文字を分解すると十一と十八になるほか、土木学会の前身である「工学会」の創立日が11月18日であったことに由来している。

■一般的に土木事業に関しては馴染みが薄く、漠然としたイメージしか持たない人が多いように思われます。

 インフラ整備に関わってきた身としては、これまで利用者と距離があったように感じています。事業者がインフラ整備の必要性についてうまく説明してこなかったからで、例えば、高速道路の場合、日常利用しない人にとっては不要と感じても、物流を動かすためには不可欠で、あらゆる面でその恩恵を受けていることに気付かないからです。そういった部分でもアピールすることが下手だったこともあると思います。
 自身の経験で言えば、そういった部分を反省し、インフラをより身近に感じていただく取組みを行ったことがあります。 地下鉄今里筋線の工事所長時代、施工者に依頼して、普段は路面覆工の下で見えない工事の進捗の写真を仮囲い等に掲示をしていただいたり、土木学会関西支部70周年事業として実施した明石海峡大橋ウォークを参考に、開業前に淀川下を歩いて渡る、「トンネルウォーク」や試運転時には地元住民を招待しての試乗体験等の取組みを行ってきました。
 土木構造物に関しては、供用後には直に触れることができないことから、工事中からその必要性等を広く理解してもらうことが重要だと思っています。また、供用後のメンテナンス作業も見てもらえればと思いますが、時間的、空間的な制約があるためなかなか難しい面があります。そこで、ユーチューブ等を活用して発信するなど工夫が必要だと思います。

■メンテナンスに関しては、既存構造物への維持管理が重視されてきました。

 今から約40年前、大阪市交通局に就職して当初、メンテナンス部門の線路いわゆる保線担当でしたが、当時はすでに、構造物そのものの劣化が始まっていることに気づきました。その後建設担当部に移ってからは、施工段階からメンテナンスのことを考慮する必要性を強く感じました。実際は、予算や工期の関係でそこまで十分に手が回らなかった面はあります。
 昨今、急速に老朽化するインフラのメンテナンスに関して、土木学会では、インフラ管理者だけでなく市民レベルと協働で活動する取組みが始まっており注目していきたいと思います。

■現在の課題の1つに若手技術者の育成があります。

 若手技術者が育たない要因として現場がないことが挙げられます。知識を学ぶだけではなく、実際の現場を体験することで初めて分かることがあります。今の技術者は要員不足もあってなかなか現場に出られないことが多い上、地下鉄工事に関しては地下鉄工事の現場がないことが一番の悩みです。現場を知らないからちょっとしたトラブルにも対処できない。そのような中、シールド工事に関しては現在、大阪では3件しか施工されていない状況ですが、そのうちの1件で現場を見せていただく機会があったのですが、見学者の多くは現場を見て座学研修よりも施工のイメージがよく分かったと言ってくれました。
 私もこれまでの工事でいろんなトラブルに直面しましたが、対処にあたっては先輩から聞いていたことや教えが役立ったことがあります。現場を知っていたからこそですが、今は現場自体がなく、教える人がいない、教えられる現場もないのが現状です。さらに施工の機械化が進み工事状況もパソコン管理となっている。理屈と合わせて現場を経験していないから後進に伝えることもできなくなっている。
 保守工事でも建設工事でも、まず現場を見せることが重要だと思っています。今の状況を見ると、国や府県レベルはもとより地方レベルでは相当技術が低下しているのではと危惧しています。

■受発注者とも技術者の育成が課題となりますが、その辺を支部として共有しながら取り組む必要がある。

 現在関西支部として、大阪府の安威川ダムで大学生を対象としたインターンシップによる現場見学会を実施しています。これからインフラ整備に関わる人たちに現場を見せることで、やりがいを実感してもらう良い取組みだと思います。
 技術者については、行政側もゼネコン側にも特に都市土木の経験がある技術者が少なくなっていますが、一方では既存構造物の劣化は進んでいる。建設にせよメンテナンスにせよ技術の継承は途切れずにやることが大切で、一旦、途切れてしまうと元に戻すのに膨大な時間と労力がかかってしまいます。
 メンテナンスを行うにも、対象物の施工条件や経過が分からなければ、不具合の原因が特定できず補修の仕方も分からなくなってしまう。施工とメンテナンスはセットで考えないといけない。構造設計が分かっていないとその補修が正しいかどうかも分からない。現場を知り、設計に携わった上で、もう一度現場に戻ることが理想だと思っています。
 現在、大阪メトロでは夢洲への延伸工事が始まっており、できるだけ現場に行くようには推奨していきます。特に夢洲は埋立地盤のため施工難度は高いですが、勉強するには良い機会だと思っています。ただ、コロナの影響でどうなるかと懸念する部分はあります。

■土木技術者に求められる役割について。

 これまでのインフラ整備では、一定程度成果が得られましたが、財政的に厳しくなって「無駄な公共工事」という言葉に委縮していたように思います。一方で、激甚化する災害に対して「想定外」という言葉で逃げることはしたくありません。そのためにもインフラに対する理解と、何故それが必要かという社会的コンセンサスを得る努力が必要となります。
 被害が起こってからでは遅すぎる。特に土木構造物の整備は長期間にわたることから長期的な視点が必要で、土木技術者は、そういったことも含めたことをきちんと説明責任を果たすことが求められます。事業にあたっては、本来の機能や安全安心を担保するためにも、人に言われたからでなく、自ら信念を持ってやるということを忘れずに取り組んでほしいと思います。
 また、工事の完成時やトンネルが貫通した時の喜びや感激は格別のものがあります。私自身、初めてシールドトンネルの貫通に立ち会った時の喜びはひとしおでした。苦労した現場では特にそうで、そういった達成感を味わった時に土木技術者でよかったと思いました。どんな仕事でもやり遂げることの喜びを、ぜひ若い人達にも知ってもらいたいと思いますね。

■ありがとうございました。

 

塩谷智弘(しおたに・ともひろ)
1980年3月京都大学工学部卒、同年4月大阪市交通局に入局、鉄道事業本部事業監理担当部長、理事兼鉄道事業本部長等を経て、2016年4月から2018年3月まで交通局長を務め、その後、大阪市高速電気軌道(大阪メトロ)副社長を経て、現職に。



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