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近畿地方整備局 村上幸司営繕部長  【2020年11月12日掲載】

時代のニーズに応える真に価値ある社会資産へ

業務効率化や働き方改革加速

週休2日達成へ着実な取組み

コロナ禍 現場にもリモートの流れ


 公共建築は、暮らしを支える様々な分野での活動拠点となり、災害時においては防災拠点としての役割を担っている。近畿における公共建築行政を先導する近畿地方整備局営繕部の村上幸司部長は、公共建築に求められる役割そのものは変わらないとしながら、「時代に応じた公共建築を提供していきたい」と語る。その村上部長に、公共建築の発注者として取組みについて聞いた。

■昨年、担い手三法が改正され、新担い手三法が施行されましたが、改正の狙いについて。

 新担い手三法は、国民の安全・安心の確保に大きな役割を担うとともに、地域の守り手である建設業の発展のために、働き方改革を推進し、担い手を確保することなどを目的としています。改正は、品確法と適正化法、建設業法の三法を一体的に行われたもので、このうち今年10月1日には、改正された建設業法の一部が施行されました。
 改正では、長時間労働の是正を目指し、工期を適正化するために著しく短い工期による請負契約の締結を禁止し、違反者に対しては国土交通大臣が勧告等を行うことになりました。これは発注者や元請、下請にも適用され、また、公共工事だけでなく民間工事にも適用されるもので、その遵守が求められています。

■なるほど。

 その一方で、こういった規制強化のようなものだけでなく、建設現場の生産性向上を図るため、現場技術者に関する規制の合理化も図られています。元請の監理技術者に対して、それを補佐する制度が創設され、技士補を配置する場合は監理技術者が複数の現場を兼務することが認められ、下請の主任技術者では、一定の工事金額等の要件を満たす場合はその設置が不要となりました。これらの合理化は、限りある人材の有効活用と若者の入職促進にも対応するものではないかと思っています。
 なお、監理技術者の兼務に関しては、近畿地整直轄営繕工事における運用として、兼任は2件まで、かつ同一府県内の工事に限ることとしています。また、対象工事は、工事の技術的難易度U以下としていることから、当初は限定的な運用となろうかと思いますが、状況をしっかり確認しながら一層の対象拡大についても検討していきたいと考えています。

■現場における働き方改革や生産性向上への取組みを促進させる取組みですね。

 設計業務に関しても品確法の対象として位置付けられ、働き方改革の推進に対応する見直しが行われています。これを踏まえ、受注者の働き方改革を後押しするため、本省官庁営繕部が建築設計三会と意見交換を行い、今年3月に「働き方改革に配慮した建設設計業務務委託ガイドライン」を策定しました。
 ガイドラインは、適正な履行期間の確保や手戻り防止のための設計業務プロセス管理、履行時期の平準化や適切な業務発注など、受注者の働き方改革に配慮した委託業務を実施するために発注者が慰留すべき事項をとりまとめたものです。
 適切な、設計者選定のためのマニュアルである「建築設計業務委託の進め方」と併せて、適切な業務発注、働き方改革の促進に向け、公共建築の発注者に対して積極的に情報提供を行っていきます。
 また、設計業務に関しては、新型コロナ後のニュー・ノーマルに向けた知的財産戦略として今年5月にとりまとめられた「知的財産推進計画2020」において、『品確法等を踏まえ、建築設計業務など品質を適切に評価することが必要な業務については、質的な評価により設計者を選定することを徹底する』とされました。
 我々官庁営繕事業では、新築や大規模改修などの設計等については、技術提案書の提出を求め、技術的に最適な者を設計者とする「プロポーザル方式」により設計者を選定しているところです。このような取組みについても、引き続き、地方公共団体等に幅広く周知等を行っていきます。

■入札契約に関しては、昨年度に営繕工事では初めて二段階選抜方式を実施されています。

 本方式は、比較的多くの競争参加者が見込まれる建築工事A等級工事を対象に実施しています。技術提案書の作成に係る受注者の業務量、2次審査以降の発注者の事務量の双方の負担軽減を図ることを目的としたものです。昨年度は1件、今年度は2件の工事で手続きを進めています。昨年の工事では15者の応募があり、このうち1次審査通過者は11者となりまして、一定の効果があったものと考えています。このように、品質確保の重要性を損なうことなく、入札契約上の工夫も講じながら、業務の効率化や働き方改革を進めていくことも重要であると考えています。

■週休2日工事の実施状況では。

 近畿地整管内では、すべての営繕工事を対象として、受注者希望型による週休2日促進に取り組んでいます。昨年度の実施状況ですが、完成した工事17件のうち9件にて取り組んだところ、4週8休達成が4件、4週7休達成が2件、4週6休達成が2件で、惜しくも達成できなかったものが1件ありました。
 なお、昨年度までは、週休2日の達成状況に応じて労務費を補正変更することとしていましたが、今年度からは、週休2日促進工事の取組みを一層進めるため、4週8休以上の現場閉所達成を前提として労務費を補正した予定価格で発注しています。したがいまして、受注者が週休2日を希望しない場合や、達成できなかった場合は工事費が減額となります。
 さらに、これまでは、建築工事と設備工事を分離発注しているなどの現場については、全ての工事で一斉に週休2日に取り組んでいただく必要がありましたが、6月以降の発注工事からは、工事単位で取り組むことが可能となりました。今年度の発注済み工事25件中、20件で週休2日工事を実施することとなるなど、確実に取組みが進んでいると考えています。
 施工者へのアンケート調査によると、適正な工期設定や円滑な協議の実施などが週休2日の達成を左右するとの声が多く寄せられています。発注者としましても取組みを後押しできるようしっかり対応していきたいと思っています。

■今年は新型コロナにより生活様式や行動様式が変わりましたが、ウイズコロナに伴い、公共建築のあり方も変わっていきますか。

 新型コロナウイルスにより、日常の生活や習慣、行動様式が大きく変わりました。テレワーク勤務が推奨されるなど働き方も変わってきました。今後も人と人の接触を減らし、対人距離を確保しつつ、密を避けた環境での働き方が推奨される方向へと進むのではないかと思います。公共建築に求められる役割そのものは変わらないと思いますが、公共建築の設計、管理、運営等の各プロセスで感染リスクを低減するための工夫が重要になってくるのではないでしょうか。
 例えば、感染リスクを減らし、三密を防ぐための空間づくりや動線計画、配置計画などを含めて、建築設計の考え方が大きく変わってくるかもしれません。建築現場でも遠隔臨場等の取組みが始まるなど、施工・管理もリモート化へ向かっています。デジタル化、リモート化の進展によっては、行政サービスのあり方そのものも変化していく可能性もあります。
 アフターコロナの社会について、はっきりと想像することはできませんが、何れにしましても、時代の求めに応じた公共建築が提供できるよう、しっかりと取り組んでいきたいと思います。

■ありがとうございました。



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