日刊建設新聞社 CO−PRESS.COM |
(株)藤井組 森致光社長 【2020年08月03日掲載】 |
満足度高める環境づくりを推進 本社ビルなど改築工事が完了 次世代継承に向け、看板を金看板に 「鋼製杭技能者」の地位向上に強い意欲 |
大阪に拠点を置く土木基礎工事の専門工事会社で、鋼製杭の施工に特化して事業を展開する藤井組(大正区、森致光社長)。同社では業界に先駆けて、施工技能者の社員化や長時間労働是正などに取組み、着々と成果をあげる。先月末には本社ビルおよび機材センターの改築工事が完了。環境改善を積極的に推進し、従業員満足度のさらなる向上をめざす。就任二十周年を迎えた森社長に、満足度向上のための様々な取組みや採用活動の現状、今後の抱負などを聞いた。 |
■今年は社長就任20周年の節目の年です。先月末には本社など一連の改築工事が完了した。その経緯から。 |
「今回改築した本社ビル及び機材センターについては、新築から20年以上経過していた。業務をこなす上では十分に用は足りていたが、企業の就労環境として考えた場合、それでよしとしていいものなのかと。社員の満足度を高め、当社の一員であることに誇りや喜びを感じてもらう。そのためには大掛かりな改築が必要だと判断し、1年半前に着手した。また、ものづくりのまちで工場が集積するこの大正区においてシンボリックな建物にするため意匠を凝らし、福利厚生として屋上庭園も設けた。誰が見ても分かるほど社屋がきれいになることで、社員の意識も変わった。これが非常に大事だ」 |
■なるほど。 |
「例えば、当社では短時間集中型の勤務を推進している。かつては夜の9時、10時頃まで残業していたが、今では6時半には誰も社内に残っていない。とはいえ、いくら管理体制を整え、社長が口酸っぱく言っても根本的な部分は変えることはできない。結局は社員が自主的に意識改革に取り組むこと。そのための環境整備が不可欠だ」 |
■プロバスケットボールチームのオフィシャルパートナーになるなど企業ブランドの構築にも注力されている。 |
「私は突出したリーダーが社員を引っ張る時代は終わったと思っている。いわゆるカリスマ経営者では2代、3代と続かない。だからこそ、社員には藤井組という会社に思い入れや誇りを持ってもらいたい。その一環として、大正通と大浪通が交わる三軒家交差点に架かる歩道橋のネーミングライツも取得した。先月には大阪市と正式契約し『藤井組三軒家歩道橋』と名付けた。例えば、社員が休日に家族と車で出かけ、この交差点を通る時に『あれがお父さんの会社やで』と胸を張れる。私は会社の『看板』というものに非常に重きを置いている。社員の満足度を高め、『看板』を金看板にし、その看板のもとに人が集まる。これが当社の進むべき道だと確信している。他社に負けない企業風土と就労環境をつくり上げ、金看板として次世代に継承していきたい」 |
■ところで、現在の主力事業については。 |
「売上比率で簡単に説明すると、売上高の9割は土木分野の基礎工事、即ち、本業の鋼製杭の施工によるものだ。そのうち施工条件の厳しい特殊工事が35%程度を占める。これからも本業に特化し、いたずらに規模を求めず、『小さな良い会社』でありたい。もちろん、技術面では新工法の開発・導入を怠らず、名義人としてゼネコンさんのニーズに応え続けていきたい。ゼネコンさんが受注した特殊工事、大型工事について『当社ではとてもできません』とは絶対に言いたくない」 |
■元請工事も手掛けています。 |
「土木の元請に取組み始めたのは15年ほど前から。やはり、堤防に杭を打つような得意工事であれば、自ら元請として施工するのが一番シンプルであり、利幅も大きい。そして何より、社員のモチベーションアップにつながる。残念ながら、杭工事の仕事は成果物が表面からは見えない。誇りとなるのは仕事のプロセスだけだ。一方、元請工事では成果物が目に見える形で残る。今回、大阪府都市整備部優良建設工事等表彰において部長表彰をいただいたが、これも一つの節目であり感慨深い」 |
活躍する他業種からの転職者 |
■取り巻く環境は厳しいですが、採用活動は進んでいますか。 |
「今のところ極めて順調だ。特にコロナ以降は面接回数も増えた。当社では面接の際に『ウチは基本的に終身雇用。基本的には65歳の定年まで勤めてもらいたい。10年後、20年後に会社の中枢を担うことを期待している』と必ず伝える。3年前には新入社員寮も新設した。そして、入社後の1年間は機材センターで機械の整備や洗浄、積み下ろしといった作業に当たらせる。新入社員には『この仕事は今日来て明日からできるものではない。これからできるようになればいい』と話している。 |
■森社長は先代の急逝を受け、25歳で社長に就任した。後継者についての考えは。 |
「土建業に限らず、中小企業はオーナー企業であるべきというのが私の持論だ。つまり、その家に生まれた者が継承するということ。先代である父親は銀行取引のために家屋敷を担保に差し出し、5代目となる私は、それが当たり前の環境で育ってきた。また、父親が苦労して会社を経営し稼いだお金で育て上げてもらった。その意味では責務だとも思っている。これは私の長男も同じ。20歳になった大学生の長男は今、当社の機材センターでアルバイトとして働く。ガス・アーク溶接、玉掛けなどの作業資格を取得し、朝から晩まで泥だらけになりながら機械整備に従事する。私も入社後の数年間は現場で泥まみれでバックホウを操作していた。現場を知らなければ施工会社の経営はできない。原点はそこにある」 |
いち早くすべての技能者を社員に |
■10年以上前にすべての技能者の正社員化に踏み切り、処遇改善も実践されています。 |
「ゼネコンさんから受注した自らの専門分野の工事を、自らの技能者と機械で責任を持って最後まで仕上げる。これは当然なことだと思っているし、そうでなければ施工会社として存在意義がないのではないか。技能者を社員として現場で働けるようにすることが会社の務めであり、私が最も大切にしている部分だ。さらに今後は、鋼製杭の施工に携わる技能者の地位向上をめざして業界団体を設立したい。次世代に引き継ぐためには、われわれの職種としても取り組まないといけない。私は社員に『われわれは建設業界においても極めて高度な仕事をしている』と常々話している。業界内外にも広く訴えかけていきたい」 |
Copyright (C) NIKKAN KENSETSU SHINBUNSHA. All Rights Reserved.
当サイトを利用した結果に関するトラブルなどに関しては、当社としては一切責任をとりかねます。