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近畿地方整備局 成瀬英治副局長  【2020年03月30日掲載】

特性に応じ機能強化進む近畿圏の「港湾」

阪神港AIターミナルへ着々
港湾計画   舞鶴港 
 想定を超えた   
 波浪に対応も
  
  港湾工事初の   
  C I Mを導入
  
 
 

 物流交易や観光等の経済活動を支える重要なインフラである港湾。近畿圏では国際戦略港湾の阪神港を中心に、各港湾において機能の拡充や災害に対する強化が求められている。それら施策を先導する近畿地方整備局の港湾空港部では、瀬戸内海や日本海、太平洋と異なる海域で、それぞれの特性に応じた施策を推進しているが、事業の展開にあたり、それらを統括する近畿地方整備局の成瀬英治副局長に、各港湾の整備状況や今後の見通しなどを聞いた。

■昨年も自然災害が発生しましたが、港湾における災害対策についてお聞かせ下さい。

 近畿管内では、平成30年の台風21号での被害を受け、同年9月に各港湾管理者で構成する大阪港湾等における高潮対策検討委員会が設置され、昨年度末には、自助・公助・共助の三段階で各港湾管理者が実施する対策がまとめられました。その後、令和元年6月に大阪港湾等における高潮対策推進委員会が設置され、対策の進捗状況等のチェックが行われました。昨年は大きな災害はありませんでしたが、進捗状況も概ね良好で、今後も改善点等について検討を行っていきます。
 また、近年では自然災害が頻発化かつ激甚化する傾向にあることから、本省で想定を越えた事象に対する検討が行われており、今年度末には最終取りまとめが行われる予定です。この中では設計沖波の更新等が行われ、それに基づき全国の港湾でも護岸等の補強・嵩上げ等が行われることから、その対応が必要になってきます。
 これまでより高い波浪に対する対応が求められることが考えられ、その場合には現在の港湾計画の見直しにも及ぶ可能性はあります。現時点においては、被害の大きかった神戸港六甲アイランド地区でコンテナターミナルの嵩上げ等を実施しています。また、南海トラフ巨大地震対策でも様々な事業が実施されており、代表的なものとして和歌山下津港海岸海南地区で湾奥部の護岸嵩上げ等が行われています。

■港湾機能の整備や拡充については。

 現在、阪神港でAIターミナルの実現に向けた取組みを進めています。AIを利用してターミナルを可能な限り自動化しようとする試みで、作業員を支援することで生産性を向上させるものです。例えばコンテナターミナルにおけるトランスファークレーンの遠隔操作については、平成30年度まで神戸港で実証実験を実施し、令和元年度から補助制度が創設されました。今後、さらに具体的な取組みを進めていきます。
 また本省では、コンテナの積み替えや抽出の自動化、空きコンテナのダメージチェックなど、現在人力に頼っている作業をAIで実施するための検討と開発を進めています。さらに、搬出入情報を自動照合し、ゲート処理を迅速化するシステムであるCONPASに関しても横浜港で実証実験を行っており、阪神港ではこれを令和2年度末までに試験運用を開始する目標を掲げて検討を進めています。
 また、船舶の大型化への対応に関しては、近畿の各港湾から国内各地に就航しているフェリー11航路のうち7航路が、RORO船も八航路のうち3航路が大型化します。これにあわせ、大阪港南港ではフェリーターミナルを延伸します。また、大阪湾における内航ユニットワードの在り方について、昨年11月にフェリーRORO船に関する将来検討委員会を立ち上げて議論を進めています。

■昨年はクルーズ船受入が好調でした。

 クルーズ船の受入は経済効果も高く人気もあり、近畿では昨年度に過去最高となる252回のクルーズ船寄港がありました。今年度もそれを上回る寄港を見込んでいましたが、コロナ感染対策の影響で厳しい状況にはなっています。ただ、受入に関する整備は継続して実施していきます。クルーズ自体には魅力もあり、現在の状況が少しでも早く好転することを願っています。

■来年度事業の見通しについて。

 予算規模は全国ベースで1・19倍となりますが、地方整備局に求められることは配算された予算をしっかりと執行していくことです。不調不落を極力抑えて着実に事業を実施することが求められます。事業では、阪神港が中心となります。このうち神戸港と大阪港では航路浚渫等を予定しており、その浚渫土砂を受け入れるため大阪港新島地区と六甲アイランド南地区で、それぞれ護岸築造工事を実施しています。
 また、神戸港では大阪湾岸道路西伸部事業で、橋梁基礎のための航路切替に係る防波堤撤去工事と、その後に浚渫工事を実施する予定で、これと併行して橋脚基礎の設計も進めていきます。
 日本海側では、兵庫県の柴山港において外防波堤工事を引き続き実施します。二重円筒ケーソンにより防波堤を構築するもので、平成30年6月に9号函が設置され、現在は10号函を製作中です。
 舞鶴港では、クルーズ船受入に向け第二埠頭地区改良等工事を実施していますが、工事にあたっては全国の港湾工事で初めてとなるCIMを導入しています。また、西舞鶴道路と直結するための臨港道路上安久線の建設に向け用地買収を行っており、これの橋梁設計についてもCIMを活用しています。いずれもi―Constructionの一環として進めていきます。

   担い手確保 一番の課題

■業界に対する意見や要望がございましたら。

 業界の方々からは、港湾整備計画における中長期的な見通しを示してほしいとの声が寄せられています。作業船を保有する企業からは、ある程度の長期需要がなければ新造船等の投資が決断しにくく、かつてのような予算の裏付けのあった整備計画があれば―といった要望もあります。
 これに加え、一番の課題は担い手確保だと思います。中期的な見通しの上に立った担い手の確保がセットになったものだと考える必要があり、我々としてもその観点に沿った形のものを示していく必要はあると思っています。
 担い手確保に関しては働き方改革が重要になってきます。海上工事は気象や海象条件に大きく左右されることから、週休2日に替えて、より現実的な4週8休を目標としており、実現した企業には加点評価を行っています。また、工事の平準化でも年度を繰り越す案件も増えているなど、今後も発注者の立場からも働き方改革の実現に向けて取組みを進めていきますが、やはり発注者と受注者が同じ方向で取り組む必要があります。業界の方も是非ご理解とご協力の程をよろしくお願いします。

■ありがとうございました。



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