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近畿地方整備局営繕部 村上幸司部長  【2019年11月11日掲載】

新・担い手3法に基づき責務果たす

最適な設計者の選定で品質確保を


 日々の暮らしに係わる様々な分野で、それぞれの特性に応じた機能を発揮する公共建築。特に公共的な施設では、防災拠点としての役割を担うなど、近年、その役割はますます重要なものとなってきている。近畿における公共建築行政をリードする近畿地方整備局営繕部では、所管する施設の適切な維持管理とともに、公共建築における品質確保を通して、良質な公共建築の整備に努めている。その営繕部の村上幸司部長に、公共建築の発注者としての役割等を聞いた。

■このほど、品確法と建設業法、入契法を改正した新・担い手三法が施行されましたが、改正における公共建築との関連について。

 働き方改革を促進する等により、建設業が将来にわたって持続的に活躍できるよう、担い手3法が一体的に改正施行されました。このような中、建設業の抱える課題は官民共通であり、改正法の趣旨等を民間工事にも普及させていくべきとの声が寄せられています。国内の建設投資額をみますと、土木工事は7割から8割を公共土木工事が占めている状況ですので、比較的、公共の取組みは民間にも波及しやすいと思われます。他方、建築分野における公共建築工事のシェアは約一割であり、殆どが民間工事という状況です。
 このような中、公共建築の取組みをいかにして民間工事にも浸透させていくのか、とても大きな課題であると言えますが、まずは、新・担い手3法の定めに基づき、確実に発注者の責務を果たしていくということに尽きるのではないかと思います。法改正を受けて定められた指針等に基づくことはもちろん、近畿地整が先頭に立ち、地方公共団体とも協力しながら、公共の取組みを民間発注者に向けて愚直にアナウンスしていくことだと思います。
 公共建築の取組みが民間に浸透していくまでに多少の時間は要すると思いますが、建築界の抱える課題は公共・民間共通ですから、必ずや同じ方向に向かって進んでいただけるのではないかと考えています。

■働き方改革では、営繕工事としてパッケージ化して取り組むとされています。

 営繕工事では、適正な工期設定、週休2日の推進、施工時期の平準化、予定価格の適正な設定、ICT活用等を柱に据えて、これらをパッケージ化した取組を推進しています。平成29年度から週休2日促進工事を導入していますが、今後の取組みの参考とするため、昨年度までに完成した全国26件の週休2日促進工事を対象に、施工者へのアンケート調査を実施しました。
 週休2日を達成した工事は19件、達成率で約7割となりましたが、週休2日が実現できた工事での達成要因を伺うと、適正な工期が設定されたためが34%、受発注者間で円滑な協議が実施されたためが27%、各工事間の調整が適切に実施されたため14%といった結果となり、正に、働き方改革の取組みで示している適正な工期の設定や、情報共有システムを活用するなどの工事関係者の連携等が、週休2日の促進に有効であるとの裏付けとなりました。
 反対に、週休2日を達成できなかった工事には様々な要因があるようで、執務平行改修であった、前工程が遅れた、職人確保が困難であった等の不確定要素を伴う理由が挙げられていました。

■近畿地整の働き方改革の取組み状況は。

 近畿地整管内では昨年度に6件の工事で受注者希望型による週休2日促進工事を実施しました。うち、2件は昨年度中に目標を達成して工事完了、残り4件は継続中ですが、こちらも達成される見込です。今年度も発注済み工事12件中、6件について受注者から実施希望がありました。4週6休以上を達成できた場合は労務費を増額補正されますので、是非とも全ての工事においてチャレンジしていただければと思っています。
 ICT技術の活用では、BIMに関しては、全国の営繕工事の中からモデル工事を選定して取り組んでいるところです。残念ながら近畿地整発注の営繕工事では今のところ対象となる工事はございませんが、受注者独自に活用がみられるようになっています。例えば、設計段階での各種デザインシミュレーションや設備配管等の3次元CADによる納まりチェックなど、活用によって大きな効果があったと伺っています。
 まずは、効果のうかがえるところから積極的に活用していただければと思います。このほか、電子小黒板については全ての工事で活用を開始し、受発注者間の情報共有を支援するシステムであるASPは、現場が遠隔地の場合などの工事で活用することとしました。先般発注した舞鶴の海上保安学校総合実習棟新築工事では、発注者指定によりASPを活用することとしています。

■この工事では、営繕部として初めて二段階選抜方式を採用しておりますね。

 多数の参加者が見込まれるA等級の工事を対象に行う二段階選抜方式ですが、1次審査では参加資格要件や施工能力、配置技術者の能力を審査して、原則10者を選抜し、今回の案件では、15者から参加申請がありましたが、1次審査の結果11者が2次に通過となりました。発注者側にとっては、2次審査以降の審査等に要する業務量が軽減され、また、参加者側には技術提案を行う事案を絞り込めることから、受発注者双方にとっても事務量の軽減にもつながりますので、この観点から一定の効果はあったのではないかと思っております。品質確保の重要性を損なうことなく、こうした入札契約上の工夫も講じながら、業務の効率化や働き方改革を進めていくことも必要だと考えています。

■品質確保には、施工はもとより設計段階からの取組みも必要では。

 良質な建物を創るには、川上の設計段階における品質確保が不可欠ですので、確かな設計者を適切に選定することが大変重要となります。設計者の選定にはコンペやプロポーザル、価格入札など各種の方式がありますが、それぞれのプロジェクトの特性や業務内容に応じて、最も適した設計者を選んでいくこと、それこそが公共発注者が果たすべき第一番の役割ではないかと思っています。
 このため国土交通省では、都道府県・政令市と協力し、設計三会の意見も踏まえた「建築設計業務委託の進め方」をとりまとめて公表しており、これを公共建築の発注者の皆様方に活用していただければと思っています。

■担い手の確保・育成や外国人材の受入等については。

 営繕工事においても、担い手確保については、しっかりと取り組んでおり、これまでも若手技術者や女性技術者の活用等の積極的な取組みを実施してきています。外国人材受入に関する新たな取組みについても勉強している最中ですが、我々にできることを確実に行っていきたいと考えています。
 また、担い手の育成と確保に関連しますが、伝統的な技能・技術への取組みも進めています。近畿地整では、平城宮跡第1次大極殿院南門の復元整備工事を実施中ですが、この工事おけるに伝統的な工法に携わる職人の方々を、技の魅力とともにHPでご紹介していきます。初弾として木工事に携わる職人の方々を紹介させていただきましたが、今後も工事の進捗に合わせて、順次紹介していきたいと考えています。

■ありがとうございました。



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