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(株)藤井組 森 致光社長  【2019年10月21日掲載】

働き方改革を先取り・実現

12年前から全技能士を社員化

時短奨励、ほぼ100%の定着率

地域貢献で企業ブランド構築へ


 建設業における働き方改革への取組みには、様々な課題が横たわっているが、基礎杭の専門工事業者である藤井組(本社・大阪市大正区、森致光(よしみつ)社長)では、技能工を含め従業員は全て正社員とし、社会保険加入はもとより、週休2日や残業時間規制、さらに福利厚生の充実に努めている。また、地域企業として各種の社会貢献活動にも携わっている。これら取組みをトップダウンで推進してきた森社長は、今後、「企業ブランドの構築と社員の満足度向上」へ意欲を見せる。その森社長に、取組みの経緯やこれまでの成果を聞いてみた。

■初めに勤務体系についてお聞かせ下さい。

 「社員数は役員を含めて68人、このうち現場担当は技術者と技能者を合わせて45人ですが、技能者も全て社員として雇用しています。勤務時間は、1時間の休憩時間を挟み、午前8時から午後5時までで、現場担当者も、現場に入らない時は社内で勤務しています」。休日は、現場担当者は現場に合わせているが、社内的には土曜日と日曜・祝日で、有給休暇は社員が随時に取得している。
 勤務時間に関して森社長は、短時間で成果を出す、短時間集中型を奨励している。これは、「長時間勤務だから必ずしも成果が上がるものではない」との考えからで、このため必要のない残業や休日出勤は認めていない。「残業に関しては、する・しないに関わらず1カ月で29時間まで手当を支給しています。それを超す分については実数で計算しますが、社員の殆どは時間内に済ませていますね」と、短時間集中型の勤務は浸透してきているとする。
 福利厚生では、「技能者と内勤者については待遇等での区別はしていない」とし、社会保険等の加入はもとより、定期的にバーベキュー等で親睦を図っているほか、本社に屋上庭園を設けて憩いのスペースとして社員に開放し、3年前には社員寮も整備した。
 さらに、賞与に関しては「役職や経験等に関係なく全員同額」としている。賞与は、業績見合いであり、業務成績や個人の能力への評価ではないとし、「それらの評価は月額報酬に反映させている。利益を生み出すのは、誰か一人が頑張ったからではなく、会社全体の努力によるものであり、それを均等に分配する」との考えによる。
 また、社員の資格取得に関しては、「業務命令と本人が希望する場合もありますが、業務命令は勿論、希望して取得した場合でも、業務の上で役立つと判断すれば、一時金を支給しており、取得に関する交通費や受験料等も全額負担しています」。
 新規入職者の確保については、学歴や職歴等は問わず中途採用で募集。「採用にあたっては、定年まで勤めていただきたいとの思いがあり、入社に際しては、業務内容も包み隠さず話しています。入社するからには、最後まで勤めてもらいたいと考えています」。
 新入社員教育では、採用者の殆どが未経験者のため、社会人として必要な基本的マナー研修を行い、その後、上司や先輩とペアを組んで仕事を覚えることとなるが、現場技能者については、「生半可な状態で現場に出しても、現場に迷惑がかかる」ことから、同社の機材センターで1年間、車両や機械整備に携わる。

■技能者の社員雇用はいつ頃から。

 「かつては一人親方もおりましたが、12年前に全て社員としました。技能者が多いと直用から下請になるケースが多いですが、逆に取り込んでいきました」。社会保険未加入など、技能労働者の処遇が課題となる中でのいち早い取組みは注目に値し、それは社員の定着率にも跳ね返る。「当社の定年は満65歳で、再雇用もあり、定着率は100%に近い」と森社長。今年で創立57年を迎えるが、社員の中には親子二代の勤続者もいる。

■完全雇用とした場合、仕事が途切れた時の不安は。

 「当然、不安はあります。社長就任後、苦しい時期もありました。しかしそういったリスクは本来、会社が負うべきであり、社員や一個人に負わすことは企業としていかがなものかと思っています。『10日しか仕事なかったから10日分だけ支払います』では社員は生活できません。仕事が獲れなかったのは会社の責任であり、必ず仕事は取ってきます。幸い、当社は基礎工事でも特殊工事のため、今までは途切れることなく仕事が続いています。勿論、そのための努力や取組みは行っております」。

■これらの取組みを実施した動機は。

 「私個人の考えですが、元請が、我々専門工事業者に何を求めているかを考えた時に、やはり施工能力だろうと。最後に残るのはきっちりとした仕事のできる業者であり、そのためには専門分野での深い知識と技術力を有することが求められています」と強調。
 さらに、「元請から請けた仕事は、外部に出さず我々で終わらせることで、これを実現するには、社員に施工能力や技術力を継承することが必要です」とし、そのためにも社員技能者の存在が重要で、実際、同社では専属の下請業者は有していない。「現在、建設業の良さを伝え切れていない状況の中で、当社のような企業もあるということを認知してもらいたいという思いがありました」と心情を吐露する。

■現在、建設業における働き方改革への取組みが行われていますが、これについてはどのように感じておりますか。

 「目標とする数字が先行し、そのための方策や手段等の具体策が示されていないように思っています。ただ、関連する法律も施行されており、個人的には良いきっかけになるのでは考えています。集中して仕事をすることで、生産性を落とさずに就業時間を短縮することは可能だと思いますが、ただ、それには覚悟を持ってやる必要がいります」。
 同社では、昨年から全社のパソコンを統括管理して、午前7時以前と午後7時以降は使えなくしている。導入にあたっては、社員からは「当然、反対はあった」とする。「私から見て、社員個々は、それぞれ自分のペースで仕事をしている。見方を変えれば、時間の縛りがない分、『時間内に終えればいい』との考え方です。時間を制限することで、どうすれば時間内に終わらすかを、社員自身が考えるようになりました」。
 導入時には、売上が減っても仕方がないとの思いもあったとするが、結果として成果に変わりはなかった。「集中的に仕事を進めることで、早く仕事を終え、その後の時間を有効活用することができました。建設業では夜遅くまで仕事しているイメージがありますが、それを払拭したい部分もあった」と振り返る。
 「ワークライフバランスでは、プライベートを優先させるみたいな考えもありますが、そうではなく、仕事を有効的にやると、おのずとプライベートも充実するものだと思っています。会社としては集中的に仕事をやり、個々のプライベートを充実させてほしいとの考えがありました」。
 今後について森社長は、自社の企業ブランドの構築と企業価値の向上、従業員の満足度を高めること―を挙げる。「企業にとって人の役割には大きなものがあり、そこで働く人の業務環境を整えることが重要です」。そのための取組みとして、プロバスケットBリーグのエベッサ大阪のスポンサーや淀川花火大会の協賛企業となっている。
 「大阪に本社を置く企業として地元へ貢献し、認知度を上げ、それによって受ける恩恵は社員に還元する―という三方良しの考えです」。

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 鞄。井組(本社・大阪市大正区小林東1―2―44)は、1963年(昭和38年)に土木基礎工事会社として設立。鋼製杭や鋼矢板の施工とそれらに付帯する土留工や桟橋工のほか、鉄道関係、各種水道工事、土木一式を手掛ける。名古屋にも支店を置き、機材センター、事業所も設置している。森社長は5代目で45歳。先代社長で父親の急逝を受け就任、今年で20年目を迎える。



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