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近畿地方整備局 水野浩次統括防災官  【2019年09月30日掲載】

地域に信頼される防災力の強化に向けて

激甚化に対応 新組織指導

防災室、災害対策マネジメント室設置

事前予防から復旧支援まで


 近年、多発する台風や豪雨等の自然災害に対して国土交通省では、TEC―FORCEやリエゾンを被災地に派遣し、支援活動を実施しているが、これら自然災害は激甚化傾向にあり、地方整備局には、防災力の向上が求められている。近畿地方整備局では今年4月、防災専属組織を設置し、それらを所管・統括する統括防災官が新設された。その任にあたる水野浩次統括防災官に、その役割と防災体制等について聞いた。

■まずは、統括防災官が置かれた経緯から。

 近年は自然災害が頻発し、また激甚化していることから、整備局の防災力をさらに向上させることを目的に、統括防災官が新設されました。特に、TEC―FORCEに求められる役割が拡大、かつ高度化してきており、さらに派遣回数が増えてきています。現在、TEC―FORCEは全国で約1万2000人、平成20年4月の発足時の2547人から4・7倍に増員されており、これまでに全国で発生した93の災害に対し、延べ8万人の隊員が活動しました。
 これらTEC―FORCEの活動も浸透してきており、各自治体からの期待も高まってきていますが、人員が増えるにつれ、この役割を的確にコントロールする必要が出てきています。
 また、統括防災官とともに今年度から防災専属組織として、防災室、災害対策マネジメント室が設置されました。防災減災に向けた事前予防から、災害復旧支援までをカバーするもので、平時の業務では、関係機関との連携強化、様々な災害パターンに対応する防災力の向上とともに、地域から信頼される組織づくりに努めています。
 このうち防災室では、各種災害への対応計画の策定、関係機関との災害協定の締結と防災訓練の実施、建設企業のBCP認定を行っています。災害マネジメント室は、TEC―FORCE隊員に対する訓練と研修を行い、被災自治体での災害査定を行う、査定官の派遣と査定官への研修が主な業務になります。また、災害時には災害対策本部の運営を行いますが、派遣したTEC―FORCEやリエゾンの後方支援も担当します。
 災害が発生した場合、現地の状況を把握することが求められ、情報をいち早く、正確に収集し、その情報を基に的確な行動が起こせるかどうかがポイントになり、その舵取りをすることが重要で、それら活動全体の統括と専属組織を所管することが統括防災官の仕事となります。

■近畿地整のTEC―FORCEの現状は。

 近畿地整では現在、1323人が登録されています。活動は1班4人編成とし、長期にわたる場合は1週間交代になります。派遣にあたっては、被災状況に応じて、道路や河川、砂防等の専門知識を持った隊員を派遣します。基本的には被災地の地整から、本省経由で具体的な派遣要請があり、それに応じて派遣することになります。派遣に際しては、排水ポンプ車や照明車等の災害対策用車両も派遣します。現地の活動では、CCTVカメラやDiMAPSといったICT技術を多用しています。GPS機能を搭載したカメラで撮影した映像が地図上に映し出され、かつ、隊員の移動経路や位置情報を速やかに把握することができます。
 また、ヘリの映像や飛行経路も同様で、さらに現場に近づけない箇所ではドローンを飛ばし、測量作業でもレーザー測量を実施するほか、通信機器に関しても機動性が高く、安定した新たなシステムを導入しています。これにより、情報収集作業を迅速かつ的確に行うことができ、隊員の安全も確保することができます。

■災害への備えとして近畿地整では、南海トラフ巨大地震対策計画近畿地方地域対策計画に基づき、管内の自治体や関係機関と連携した取組みを行うこととされていますが、この中で近畿地整としての役割は。

 南海トラフ巨大地震対策計画近畿地方地域対策計画は、国の11機関と関係する自治体など104機関でとりまとめたものですが、策定から5年が経過したことから、今後、応急活動計画と戦略的に推進する対策について対応状況を把握し、必要に応じて見直しを行うこととしています。その一つとして、南海トラフ地震に関する異常現象が観測された場合に発令される南海トラフ地震臨時情報への対応を検討します。
 南海トラフ地震では、過去においてその前兆として東南海地震の発生が観測されており、その場合、政府から臨時情報が発令されます。しかし、現在の計画は、南海トラフが一気に動いた時に発生する最大級の地震を想定したもので、臨時情報が発令された場合の防災対応について、各府県と連携して検討を進めていくこととしています。
 また、TEC―FORCEに関しても南海トラフ地震に対応した活動計画を策定しています。本計画では、南海トラフ地震の発生時には、近畿地整だけでは対応できないことから、全国からのTEC―FORCE広域派遣による応援も含め、自治体支援を行うことになっています。近畿の場合、北海道開発局、東北地整、北陸地整が支援することとなっており、全体でTEC―FORCE570人、機械車両130台体制で活動することになっています。

■なるほど。

 また、災害時は初期の被災情報の収集が最も重要となります。情報収集では、自治体の連絡窓口とともに、自治体の首長と管内の各事務所長との間を結ぶホットラインを確保し、首長から直接支援要請を受けられる体制を構築します。さらに、リエゾンに関しては、台風や豪雨が予想される場合、支援要請を待たずに出動することとしています。このため災害初期において情報が把握でき、初動対応に大きく役立ちます。
 今後もこれら計画に基づき訓練等を実施して、より実践的な計画内容に高めていきます。特に自治体の担当者とは、日常的にも「顔の見える関
係」を構築する必要があると考えています。

■さて、防災・減災対策を実施する上で、建設業界に対する要望等がありましたら。

 地元の建設企業は地域の守り手であり、その役割には大きなものがあると考えています。ただ、企業自体も被災することもあり、自社の被害を軽減し、早期に通常の状態に復帰することが重要となります。そのためにも、事業継続計画(BCP)を策定していただきたい。近畿地整でも建設業BCPの認定を行っており、まだBCPを策定していない企業には早期に策定をお願いしたい。また、近畿地整と建設業団体等は災害協定を締結していますが、これについても業界とも顔の見える関係を築くため、意見交換を行っていきたいと考えています。
 さらに建設業界には、災害発生時に第一線で活躍していただいておりますが、そのことがあまり知られていないことから、我々と業界が連携して、第一線での復旧活動に関して積極的にPRしていきたいと思っています。復旧活動では、自衛隊やレスキューの活動は注目されますが、それ以前に実施されている道路啓開やガレキの撤去等に従事する建設業は殆ど取り上げられておらず、その辺をアピールしていきたい。
 そのため、一つの案として、その地域で統一したビブスを作成し、着用することも業界とともに検討していくことを考えています。こうした取組みが紹介され、周知されることによって担い手確保にもつながればと思っています。

■今後の活躍を期待しています。ありがとうございました。



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