日刊建設新聞社   CO−PRESS.COM
近畿地方整備局 杉中洋一港湾空港部長  【平成31年03月25日掲載】

進化する港湾機能 様々な取組み

自然災害への備え強化

AIターミナルへステップアップ

大阪湾岸道路西伸部工事 渋滞解消に期待大


 国際戦略港湾である阪神港を中心に、近畿圏での港湾整備を先導する近畿地方整備局港湾空港部。国際インフラである港湾は、経済活動や物流交易の拠点であり、整備の停滞は許されず、その機能の拡充はもとより、近年では、自然災害に対する備えの強化、世界的潮流となっているターミナルのAI化への対応など、様々な取組みが求められている。その港湾空港部の杉中洋一部長に、現在の状況や今後の見通しなどを聞いた。

■昨年の台風21号では、港湾施設にも被害が出ましたが、まずは港湾における災害対策について。

 台風21号の場合、潮位で見ると大阪湾奥で既住最大値が観測されました。これは台風の進路に伴い、大阪湾に向かって右方向からの風が吹き、それが湾奥に吹き込む形となったためです。このため浸水被害があった地域は、潮位が上昇している時間に強風にあおられたことから被災しました。
 今回の被害を受け整備局では、「大阪湾港湾等における高潮対策検討委員会」を9月に設置し、これまで必要な対策について検討を進め、また、各港湾管理者とともにワーキング部会を設置して委員会と連携しながら取組みを行っています。さらに本省の「港湾における高潮リスク低減方策検討委員会」でも検討が行われています。
 委員会では、潮位の計測について、各府県がエリア毎に計測器を設置していることから、それらのデータを整備局が集約して活用できないかとの意見が出ました。我々としても、新たに設置するよりも時間もコストもかからず、エリア別のタイムラインの構築や港湾毎の行動計画を作成するためにも役立つことから取り組むこととしました。
 また、BCP計画についても各港湾で策定して、これまで地震や津波に対する事業継続計画を作成し、訓練も実施しておりますが、今後は高潮に関するBCP計画が必要となってきたことから、来年度から順次、策定していく予定です。
 いずれにしても自然災害に対しては、個々の対応では難しく、協力して取り組む必要があり、相互支援ができるような包括的な協定締結等のバックアップ体制を構築し、広域的に取り組んでいきたいと考えています。

■なるほど。

 また、神戸港六甲アイランド地区等で浸水した地域では、集積していた貨物が被害を受けたことから、神戸市とコンテナターミナル運営会社が再発防止対策に取り組んでいます。これら臨港地区では、地盤を高くしていれば、波が被ってもすぐに引けば大きな被害は出ませんが、今回は電源施設に被害が生じたため、その修復に時間がかかりました。
 政府では、昨年に自然災害が頻発したことから重要インフラに対する3か年の緊急対策を実施することとしておりますが、これを受け、我々は電源施設の嵩上げを緊急対策で実施することとし、六甲アイランド地区では、地盤改良工事とともに荷捌き地の嵩上げを実施します。
 来年度については、高潮検討委員会の取りまとめを受け、平成30年度の二次補正予算でも措置されていることから、それら対策事業の執行に向けて準備しています。

■次に阪神港の取組みを。

 近畿圏の港湾が取り扱う貿易額が年間で約23兆円であり、海上コンテナによって多くの貨物が取り扱われておりますが、国際コンテナ戦略港湾の阪神港においては、創貨、集貨、競争力強化による機能強化に努めています。この中で課題となっているのが貨物輸送での渋滞対策ですが、これを解消するものとして、長年の懸案であった阪神高速道路大阪湾岸道路西伸部の工事が昨年12月に起工式が行われました。
 工事は、国土交通省と阪神高速道路会社との合併施行で行いますが、このうち近畿地方整備局では、港湾空港部と道路部が担当し、港湾空港部は、長大橋の基礎部分などを担当します。現在は、技術検討委員会を設置して橋梁形式等について検討を進めており、委員会では、斜張橋で2つの案に絞って検討されています。
 工事にあたっては、長大橋の橋梁基礎部分が特に難しくなると考えており、現在はボーリング調査を実施しています。また、橋脚の設置箇所が神戸港の主要航路に位置していることから航路を変更する必要があり、このため浚渫作業に向けた沖合係留施設の撤去工事を今年度から開始しています。この事業に関しては地元からも早期開通が求められており、我々としてもできるところから進めています。

■AIターミナルに関しては。

 世界の主要港ではIT化が進み、日本でも港湾局で検討が行われ、既に港湾関連データ連係基盤として、関係者間をITで結ぶ取組みに着手しています。これと併行してターミナルのIT化を進めようと考えています。現状では、港湾によって取組みがそれぞれ異なっており、まずは全てを電子化によるデータ化を進め、それらを集積しビッグデータとしての活用を図ることによって好循環を創り出していきます。
 大阪湾では、AIターミナルとして現在、神戸港において荷捌き作業の遠隔操作化に向けた実験を行っており、これを次のステップに移行させる段階にきています。また、ターミナル毎にシステムが違うところもあり、それを統一化したシステムにできないかと検討も進めています。

■阪神港以外での取組み関しては。

 堺泉北港では港湾計画の改訂に向けた作業が行われています。同港は国際区拠点港湾に指定されており、石油やLNGなどのエネルギーの受け入れのほか、中古自動車の輸出取扱量が西日本一で、改訂は、分散している埠頭機能を再編して統一・集約化を図ることを目的としています。
 舞鶴港では、臨港道路の整備に向けた調査等の調整を行っているほか、クルーズ船の寄港が好調で、2020年にはクィーンエリザベス号の寄港が予定されるなど、来年度以降も初入港船が増加します。クルーズ船に関しては、昨年は堺泉北港にもクルーズ船が初入港し、和歌山でも日高港や新宮港への寄港も予定されています。
 このほか、大阪湾再生行動計画において、海浜の環境保全管理や護岸を利用した漁場の成育など、公共事業を活用した大阪湾再生に向けた取組みも進めていきたいです。

■最後に建設業界に対する意見や要望がございましたら。

 大阪・関西万博開催が決定したことにより、今後は関連事業も含めて工事量が増加し、それと併行して災害対策工事も進めて行かなければならず、それら工事に必要な土砂や資材等の増加も見込まれています。しかし、これらを運ぶ船舶が不足しつつある状況になっています。このため業界の方々には、その対応と調整をお願いしたい。各発注機関においても、それぞれの計画に基づき工事を実施していますが、ある程度の整合性を持って実施しなければならないことから、それら情報を集約して調整する部分で、我々がお役に立てるのではないかと考えています。

■ありがとうございました。



Copyright (C) NIKKAN KENSETSU SHINBUNSHA. All Rights Reserved.
当サイトを利用した結果に関するトラブルなどに関しては、当社としては一切責任をとりかねます。