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関西分譲住宅仕上業協同組合 草刈保廣理事長  【平成31年01月17日掲載】

プロポーザルでの大規模修繕

初の成功業者決まる

「価格」「屋上防水」を評価

提案力、業界全体の底上げを


 関西分譲住宅仕上業協同組合(KSK、草刈保廣理事長)が推進するプロポーザル方式による大規模修繕工事。その初案件となった「東急ドエル・アルス西宮山手」(ドエル西宮)でこのほど、施工業者が決まった。KSKでは昨年六月に同管理組合から発注支援業務を受託。草刈理事長もサポーターの一人として参加し、全ての発注プロセスに携わった。業者選定を終え、これまでの経緯や課題、今後の取組みなどを聞いてみた。

■KSKがサポーターを務める「ドエル西宮」の大規模修繕工事。プロポーザル方式の第1号案件となりましたが、施工業者決定までの経緯について教えてください。

 昨年8月に業者の公募を実施したところ、近畿地区に本社のある12社から応募があった。まずは書類選考で4社に絞り、次に劣化調査やヒアリングなどを経て、提案力、見積金額などを基準にさらに2社まで絞り込んだ。残った2社については現場代理人の実績も豊富で優秀だった。なお、ここまでの選定作業は修繕委員およびサポーターで行った。その後、11月に住民集会を開催し、2社がプレゼンテーション。出席者による投票の結果、地元兵庫県の「モリテック」(尼崎市)の受注が決まった。大手業者の方が安心という声も一部あったが、最後の決め手は価格。プロからみても安い価格でおさまった。

■業者選定を進める中で特に感じたことは。

 やはり、まだまだ提案力に課題がある。それはすぐに分かった。大規模修繕の世界では、業者の多くは設計コンサルタントが作成した共通仕様書に数字を入れ、彼らの指示通り施工することに慣れてしまっている。そのような中、今回のプロポーザル方式での改修工事は全く新たな試みでもあり、現状では業者に自主的な提案を求めることは難しい。そのため、今回はわれわれサポーターが業者に呼び水を与えた。つまり、ヒアリング時に「雨がかり」や「日当たり」による各部位の劣化状況などについてこちらから簡単に説明し、あわせて提案のポイントについても示唆した。

■価格以外でモリテックを評価した点は何か。

 ドエル西宮の場合、「屋上防水」についての提案が一番のポイントとなった。ここを、モリテックは「全面やり替え」ではなく「部分補修」で対応すると。一方、われわれも防水層は明らかに膨れてはいるが、今回は部分補修で良いと事前調査で判断していた。まだ4〜5年はもつと。これにより工事費が約300万円削減できる。まさにプロポーザルの核心の部分だ。モリテックはほかにも、住民さんの関心が高い「ベランダ防水」について、長尺シートではなく、肉厚で強いウレタン塗装を提案。これも効果があるとサポーターとして評価した。

■なるほど。そのほか感想などは。

 今回は50戸という規模であることから、住民のみなさんと顔の見える関係が構築できた。そのうえで、じっくり話し合い、提案についてもご納得していただけたと実感している。しかも工事予算がかなり余ったため、住民さんから「この際、屋上防水を全面やり替えにしたい」との声があがった。昨年末の臨時総会で追加することが決まった。今後は3月に着工し、6月の竣工を目指す、しっかり工事監理に取り組み、期待に応えたい。

 コンサルフィー、4分の1で

■ところで、昨年10月に開催したセミナー「マンション管理組合運営の主役はみなさんです」について、その後の反響は。

 かなり大きかった。近畿各地のマンション交流会はもとより、4か所のマンション管理組合からプロポーザル方式の勉強会開催の要請があった。そのうちの一つは、1100戸からなる京橋のマンション管理組合。ここでは現在、設計監理方式での大規模修繕を検討している。昨年末に勉強会を開いて現状を聞くと、大手のコンサルフィー(運営費・工事監理費)がものすごく高い。KSKなら4分の1の価格でできると伝えると、「なんでやねん」と目を丸くしていた。

■ものすごい価格差です。その理由をどう説明したのですか。

 29職種が携わる新築工事と違って、マンション改修工事は「足場」「防水」「塗装」「タイル」「内装」からなる仕上業。そんなに難しい仕事ではない。だからフィーもこれで十分ですよと。1100戸ともなると概算工事費は優に10億円を超える。だから住民さんもたいそうに考えがちだ。しかし、われわれプロのサポーターからすれば、工事費10億円でも5000万円でも仕事内容はさほど変わらない。ただ手間が増えるだけだ。業界の正常化に向けて、価格の妥当性をはっきり示さないといけない。

■とはいえ、実績も問われるし、住民からすれば大手と比べて技術的な不安もあるのでは。

 実際、1000戸を超える巨大マンションとなれば、住民の中には建築の専門家はもちろん、塗装や防水、内装の専門技術・知識を持つ人が必ずいる。そういった人たちを納得させられるのか。「KSKに任せて安心だ」と。修繕委員のみなさんはそこをとても心配していた。価格面からプロポーザル方式に非常に興味はあるものの、単に「価格が安い」というだけでは住民の説得は極めて難しい。そのため、KSKの監理体制をしっかり示し、安心してもらえるように説明した。これから本格的な検討に入るようだが、正念場だと思っている。

■プロポーザル方式の普及・浸透にはまだ時間がかかりそうです。今後の取組みについては。

 営業的には、「ドエル西宮」での実績を武器に、市場の7割を占める50戸未満のマンションを中心に成果を積み上げていきたい。同時に、KSKとしての技術的担保、つまり、明確で客観的なサポーターの資格基準を整える必要がある。サポーターの公的資格はこうです、実績はこうですと。そして、KSKではその資格基準をもとに、専門業者を指導していきますと。そこを住民に具体的に示さないと、さらなる信用は得られない。
 一方、今回ドエル西宮でプロポーザル方式の発注プロセスを経験した業者は、調査・提案のポイントについてより理解を深めたはずだ。われわれのノウハウも十分に伝えることができた。今後もあらゆる機会を通じ、自主的に提案できる業者を育てていきたい。これは住民や管理組合にとっても有益なことだ。設計コンサルタントは実状に即した提案ができていない気がする。
 地域の仕事は地域の業者が担う。これが建設業の根幹でもある。専門業者は提案能力を高め、自立すること。その流れをわれわれKSKがつくっていく。ここが大切だ。



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