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堺市漁連 津本敬代表理事会長  【平成31年01月07日掲載】

台風21号 堺市沿岸部の「もろさ」露わに

インフラ強化急務、水門整備など要望

防災・減災へ向けて臨海地域一つに


 昨年は、大阪北部地震、7月豪雨災害、台風21号、北海道胆振東部地震など大きな自然災害が相次いだ。特に9月の台風21号では、関西空港はじめ、各地の沿岸部で第2室戸台風以来の高潮災害が発生し、市民生活や企業活動に深刻なダメージを与えた。
 では、この台風での経験を踏まえ、被災当事者は今後、防災・減災へ向けてどのように歩みを進めるのか。堺市沿岸部の被害状況や、復旧の現状と課題などを堺市漁業協同組合連合会(堺市漁連)の津本敬代表理事会長に聞いた。

■まずは、堺市漁連の事務所がある堺区大浜と、その周辺における被害状況からお聞かせください。

 我々の活動基盤である沿岸部では、主に「出島漁港」「堺旧港」「堺第7―3区」の岸壁等が被害を受けました。台風の場合、天気予報等で、ある程度のコースや風向きを予測することができ、事前に対策を講じることとしています。今回は、先輩漁師から「かなり大型で、瞬間風速で50メートルはある」と言われました。これは長年にわたり培った『勘』で分かります。
 このため出島漁港においては、漁船を固定する綱取りをまず十分にやりました。幸い、風による被害はなく、翌日にはそのまま漁にでることができましたが、漁港の桟橋が流されかけ、漁船にぶつかりそうになったことから泳いでいって固定しました。
 一方、想定外だったのが高潮で、標準から3.3メートルも潮位が上がりました。この地域は南海トラフ地震による津波高は3.4メートルと想定されていましたが、それに匹敵する高さでした。潮位の上昇により岸壁が冠水し、駐車していた車も15台ほど水没したほか、事務所も床上まで浸かりましたが、特にダメージの大きかったのが「とれとれ市」(堺市漁連が運営する海鮮市場)の冷蔵庫等の設備で、海水に浸かったため虎河豚の養殖用の水槽も使えなくなりました。

■それら被害は、あまり知られていません。

 また堺旧港については岸壁自体が高く、漁港でもないことから漁業関係の被害はなかったのですが、民間のプレジャーボートの係留施設のヨットが流されました。それも浮き桟橋ごと数隻まとめて流されました。7―3区は産業廃棄物の埋立地ですが、高波による護岸の決壊で事務所等がダメージを受けました。沖合だけに波も風も、出島漁港より強く、護岸自体も整備されてから40年以上経過し、沈下も始まっている状態で、嵩上げ等も行われていませんから。
 ただ、7―3区の場合、堺市漁連の管理区域ではないですが、産廃埋立地だけに、有害物が流れていないかどうかの確認は行っております。そこで捕れた魚が安全であることを示す必要がありますから。

■反応はいかがでした。

 大阪府としては予算がないことに加え、府が管理する漁港が13港あり、被害を受けたのは出島漁港だけでなく、対策するにしても順位もあり、直ぐにはできないと。また、浮遊ゴミ等の回収にしても、府からは「災害ゴミは各自治体の仕事で、市に直接依頼してほしい」とのことでした。このほか、倒れたフェンスについても市の歩道にもかかっていることから、府でやれるかどうかは分からないとのことでした。いずれにしろ、護岸等の府が管理する部分では堺市も動くことはできません。

■ある程度は堺市に管理を移しても良いのではと思います。

 実際、出島漁港移管の話は15年程前から出ています。漁港の移管に関しては、そもそも管理者の大阪府が財政難のため整備もままならない。一方、地元自治体も未整備のまま移管されても困るだけで整備後の移管を望んでいると。そんなことからなかなか進まないのが現状です。もっとも、地元市に移管された場合、これまで市が独自でやれなかったことが、府の了解を得ることなくできるようにはなります。

■災害等の対応については、当然、地元自治体の方が動きは速い。

 今回の場合、堺市では、所管部局だけでなく、関連する他の部局も連携して動いていただきました。先程言いました浮遊ゴミ等の回収にしても、市長も視察にこられた際、「ゴミ処理はしっかりやります」と言われ、我々が要請した次の日に、市の農政と環境の部局がすぐに動いてくれた。
 ただし、冷蔵庫等のリサイクル法が適用される廃棄物に関しては現状のままであり、今後は自費での処分を検討しています。

■7―3区の護岸老朽化も問題で、先の台風では、浸水の影響で周辺企業の従業員が夜遅くまで足止めされていたと聞いています。

 臨海工業地帯へは、石津駅から道が1本しかなく、渋滞すれば交通はマヒします。その先端である7―3区の護岸が決壊すれば、当然、周辺への影響も大きくなります。復旧工事も行われておりますが、護岸のコンクリートやテトラポットも劣化しており、根本的な対策が必要です。次に高潮や津波でも来れば一気に崩壊します。大阪府もその必要性は分かっているはずです。
 また、7―3区に立地する企業が避難訓練を実施した時に、全社員が石津駅に到着するまで2時間かかったそうです。被災して復旧するための設備投資が困難な企業では、撤退を考えるところも出てくるかもしれません。
 出島漁港にしても、高潮があと50センチ上昇していたら、大阪臨海線(府道29号)を越えて住居地域にまで浸水被害が及んだはずです。他の地区と違い、ここの住居地域は大阪臨海線より3メートルほど低く、沿岸部を南北に縦断するこの道路が、ある意味、堤防の役割を果たしている。従って、水門整備は漁港を守るだけでなく、市民も守ることになる。我々だけのことではないと言うことです。今回は幸いにして満潮時に発生しなかっただけで、満潮時であれば大阪臨海線を越えていました。

■台風被害に対する他の漁協の動きについては。

 やはり被害を受けた漁協では大阪府に対して働きかけを行っています。私が聞いた限りでは、泉佐野市以南では高潮被害が少なく、津波のシミュレーションと同様に大阪湾奥の地域、堺市から大阪市、神戸市にかけての地域が最もきつかったようです。
 漁業関係者にしても、我々の堺市漁連は比較的若い世代が多くおりますが、他の漁協では高齢化が進んでおり、その分、復旧の速度も遅くなります。また幸いにして漁船に被害はなかったが、破損した場合、新しく建造してまで再開するかどうか。漁船が流されてしまえば、自動車と違いレンタルやリースはできず、修理している期間は漁にはでられず、その間の生活は誰も保証してくれません。それがあるから、「自分の船は自分で守る」ことが鉄則です。今回は、それが徹底されました。

■今後についてはどのように考えておられますか。

 7―3区と同様に堺浜も市街地へのアクセス強化が不可欠です。やはり、橋やトンネルで別ルートを繋がないと災害時に遮断されてしまう。また、出島漁港自体も岸壁が沈下しており、これまでに2回の嵩上げが行われました。それでも沈下は続いています。潮位が上がっていることもあるでしょうが、台風だけなく、南海トラフ地震への備えからも、早急に対策を講じてもらう必要があります。
 それらをはじめとするインフラ整備の実現に向けては、漁協をはじめ臨海部で働く人や企業、住民が一つになって市議会はもとより、府議会、国会議員に働きかけて、行政を動かすしかないのではと考えています。すでに大阪府漁連では会長が先頭に立ち、有力国会議員に対して補助金申請等の要望を行っています。
 この堺臨海部には、多くの工場や企業が集積しており、それだけ固定資産等の税収入があり、自治体にとっても必要なはずで、そのためにも事業者を守ることは重要です。この状態が続けば企業はみんな逃げ出してしまう。いずれにしろ今回の災害でこれまで見えなかった課題がはっきりと浮き彫りになりました。

■ありがとうございました。



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