日刊建設新聞社   CO−PRESS.COM
近畿地方整備局 村上幸司営繕部長  【平成30年11月12日掲載】

国民の貴重な財産として品質確保を最優先

設計者選択が重要ポイント

地方自治体の発注者支援で積極的な取組み


 公共建築は、行政はじめ教育・文化、福祉など多岐にわたる分野でサービスを提供し、都市におけるまちなみ形成や景観誘導等にも大きな役割を果たしている。特に官庁施設では、行政サービス機能はもとより、近年では、大規模災害に対する防災拠点としての機能が求められている。このため、それら機能を発揮する上においても建築物の品質確保は重要となっている。こうした中、近畿における公共建築行政を先導する近畿地方整備局営繕部の村上幸司部長に、公共建築物の品質確保のあり方や発注者として果たすべき役割等について聞いた。

■建築物の品質を確保することは最も重要で、公共建築では特に留意する必要があると思いますが、まず品質確保への取組みについてお聞かせ下さい。

 公共建築の品質を確保するにあたり、まず真剣に行うべきは設計者の選定です。整備の川上段階で建築の質やコストなどの大枠が決まっていくため、パートナーとなる設計者を選ぶ行為が大変重要なのです。設計者の選定方式には、プロポーザル方式や総合評価落札方式、価格競争方式など様々な方式がありますが、事業の特性に応じて使い分け、設計者の創造性や経験、技術力を適正に審査し、その設計業務の内容に最も適した設計者を選定することが、良質な公共建築物づくりの第一歩です。これは、我々を含めて公共建築の発注者としての果たすべき役割の一つだと感じています。

■なるほど。

 このような問題意識から、都道府県及び政令市と協力し、建築設計三会の意見も踏まえて、「建築設計業務委託の進め方」を取りまとめて公表しました。設計者選定のマニュアルとして活用できるよう、いつの段階で何を決め、どのように手続きや作業を進めていくのかなど、手順やチェックポイントを示しながら、業務委託の流れに沿って、具体的に解説しています。便利な書式集も併せて紹介しているので、是非活用いただければと考えています。

■品確法では、適正な予定価格の設定や工期設定等も求めています。

 予定価格には、実勢価格や現場の実態を的確に反映しなければなりません。建築工事のシェアの八割を民間工事が占め、資機材や労働力などの需給動向が民間ペースで進む中、実勢をいかに把握していくかが鍵になります。東日本大震災を契機として普及が進む営繕積算方式ですが、ポイントは、的確な実勢把握、適切な単価設定、実態に即した共通仮設費等の適切な積み上げということです。
 近畿地整管内の状況ですが、新築工事の場合は実勢との乖離を何とか抑えることができていると見ていますが、改修工事や規模の小さな工事では、開差が埋まらず落札に至らないケースが多々生じています。地域や施工条件に応じた積み上げや見積活用方式も駆使して予定価格を設定していますが、課題はまだまだ残っています。実勢や現場実態を反映した適切な予定価格を設定することの大切さと難しさを十分認識しながら、今後も取り組んでいかなければならないと思っています。
 工期の設定にあたっては週休2日を前提として日建連が作成した適正工期算定プログラムを活用し、準備期間や後片付け期間等を考慮したものとしています。設備工事の総合試運転調整に支障が生じないよう、概成工期や作業時間などの条件を工期補足説明事項に明示するなどの対応も行っています。

■生産性向上とともに働き方改革への取組みも重要です。

 長時間労働の是正として来年4月から規制が開始されます。施工企業には猶予期間が設けられていますが、コンサルタント業は猶予なく規制が適用されることになり、働き方の改革は待ったなしの状況です。受発注者間で仕事の進め方を共有して、非効率な業務環境を改善していくことが大切です。整備局としても、ウィークリースタンスと称して、例えば金曜日に新たな仕事を依頼し、月曜日に提出を求めることや、午後5時以降に打合わせを行う等の無理な業務依頼を避けることを申し合わせています。整備局一体で対応することで、建設業界の魅力ある仕事、現場の創造にもつなげていきたいと考えています。
 また近畿地整では、今年4月から全ての工事を対象として週休2日の促進に取り組むこととし、現場閉所率に応じて労務費の補正を行う仕組みも整えました。営繕工事では現状、受注者希望方式で実施しており、現在は1件が週休2日促進工事として施工されています。
 いずれにしろ週休2日の促進は、公共分野だけでなく、民間工事を含めて、建設業関連分野全体に浸透させていくことが重要ですね。
 生産性向上として、アイコンストラクションを推進していますが、公共建築の設計段階ではBIMが標準的に活用される状況になってきました。国立国会図書館関西館の工事現場では、ドローンによる写真撮影や空中写真測量、ICT建設機械を用いた法面掘削施工の実績もありますが、小規模な現場では活用が難しい面もあるかもしれません。例えば、情報共有システムや電子小黒板などは比較的簡便に導入でき、迅速な合意形成や書類の簡素化に大きく貢献できるので、積極的に活用を促していきたいですね。

■公共建築の発注者の役割に関して、地方自治体への周知はどのように。

 昨年、社会資本整備審議会から、官公庁施設整備における発注者のあり方について答申があり、発注者の役割とその役割を果たすための方策が提言されました。これはすべての公共建築工事の発注者へ向けた内容であり、国交省では、発注者の役割の理解促進に資するための解説書を取りまとめて周知を図っています。営繕の技術基準等を一層活用いただけるよう、個々の基準の内容や使い方を示した概要書を新たに作成し、すべての技術基準とセットで公開しています。人材育成や相互連携強化の観点から、中央レベルに限らず、地方ブロックの会合においても積極的な情報提供に努めています。
 このような中で、公共建築関係の技術者不足が大きな課題として見えてきました。私たちの調査では、技術者職員が5人に満たない自治体が7割、1人もいない自治体が3割に及ぶという結果が出ています。庁舎建替など数年に1度という大プロジェクトの場面で、品質確保を含めて発注者の役割をどのように果たしていくのか対応が求められています。国交省としても、積極的に自治体の支援に取り組んでおり、全国の整備局に公共建築相談窓口を設置しています。些細なことでも、まずはご相談をお願いします。

■公共建築の役割についてのお考えを。

 公共建築は、地域の人々が様々な活動をするための施設であり、行政施設や教育関係、文化施設まで幅広いものがあります。まずは利用者にとって便利で使いやすく、目的に応じた快適な空間を提供できるものでなければなりません。地域の共有財産として親しみをもって、適切に手をかけながら長期にわたって使い続けていただくことが大切だと思っています。このような公共建築を世に送り出すこと、そのお手伝いをすることが我々の役割だと思っています。

■ありがとうございました。



Copyright (C) NIKKAN KENSETSU SHINBUNSHA. All Rights Reserved.
当サイトを利用した結果に関するトラブルなどに関しては、当社としては一切責任をとりかねます。