日刊建設新聞社   CO−PRESS.COM
interview
対談
(社)大阪府建団連 リバー産業(株)
北浦年一会長 河 啓一社長

建設業の宝「技能工」を生かすために


職人の心を大切にする現場主義 河 社長
まず金額ありきでは人は育たぬ 北浦会長

官民問わず、工事量の減少により建設業界を取り巻く環境は厳しさを増し、企業経営と人材の育成、技術・技能の伝承が危ぶまれている。こうした中、大阪府下でマンションの建設・販売を手掛けるリバー産業(株)(河啓一社長)では、自らが発注者となり設計・施工の一環システムを取り入れて良質な住宅供給に務める一方、「職人気質」を重視する河社長の信念の下、技能工の育成にも力を注いでいる。その河社長と大阪の専門工事業者団体で構成する(社)大阪府建団連の北浦年一会長に、技能工を取り巻く環境をはじめ、元請と下請のあり方等について語ってもらった。(聞き手=中山貴雄)

■リバー産業では直営によるマンション開発を行っており、その中で河社長は現場主義、職人重視を掲げられております。デベロッパーの中には現場のことをあまり知らない会社もあり、まして職人の現状についてはなおさらで、その辺について河社長の想いをお聞かせ下さい。

河社長

建設業では名義人制度などにより職人気質が尊重された時代もありましたが、現在はそういった時代ではなく、職人気質などは根本から崩壊するのではと危惧しております。特にリーマンショック以後、その傾向が顕著で職人を大事にしたくともできない状況にあります。かつて職人自身もチャレンジ精神に溢れ、元請もその想いにしっかり応えることができましたが、現在ではそのような状態ではありません。職人の心をもっと大切する、現場主義はそのためのものであり、それを実践していれば、流行のように昔のままではないにしろ変わってくるのではと思っております。

北浦会長

確かに名義人制度では現場所長を職人が支え、全員で一緒になってものを作ってきた。ところが最近では「この金額でやれ」と上からの一方的な 押し付けになってきた。マニュアル通りにやればできると、それが川上から順番に降りてくる。そういったやり方には技術者と技能者の発想や知恵を生かす機会を 奪ってしまいマニュアル通りの仕事しかできなくなってきた。その結果、技術者や技能者が育たなくなってしまった。大阪万博以降に高度成長期が始まり、職人の待遇が 悪くなってきた。この40年間、国をはじめ行政はゼネコン中心に進んで来て職人は置き去りとなってきた。かつては現場で仕事の話から入りましたが、現在はまず お金の話から入っていくる。やはり現場、仕事の話を先にすべきです。

他産業に比して建設業が立ち遅れている部分がセル方式ではないかと。コンベア式の生産ではなく1人が何役もこなして仕事を進めていく多品種少量型で変化への対応が素早い。何でもできるとはいきませんが、複数の工手を1人の職人ができるように会社が応援する。プラス昔の職人気質が加われば鬼に金棒です。それこそがそれが廃れてきたところに現在の建設業の課題があります。いくら優秀な人間でも直に左官や大工の仕事ができませんし、そこにはやはりある程度の技量というものが伴ってこそです。

北浦

現在、過去に学べということで1970年代当時のやり方を見直しております。当時の専門工事業者の半分以上は直用の職人を抱えておりましたが、現在は下へ下へと投げ出すだけです。70年代にはどんなことをやっていたか、いいヒントがたくさんある。先ほど河社長が仰ったように流行と同じで形が変わりますが、結局は基本に戻ってくると思います。今後受注が減少する中、私の考えでは全体の30%が優れた職人であればいい。それら30%の職人を直用にし、基盤をつくることが重要です。リバー産業さんには大阪の地元のデベロッパーとしてで職人を理解して頑張ってほしい。建設業の基礎は職人であり、人を育てる環境づくりが重要。その点リバー産業さんは職人に対する奨励金制度も充実していることに感心しました。人が何と言おうとそういうことをきちんとすることが大事です。

北浦

大手デベロッパーでも自ら施工をしている会社はない。リバー産業では直接資材の買い付けを行ってコストダウンに努めていると聞いておりますが、流通の仕組みが変わりインターネットでもできる時代だから地元デベロッパーでも直営工事可能となった。もちろん、デベロッパーが直営で工事を行うには多くの苦労があると思いますが、立派だと思います。この経験は先々で生きてきます。職人を持たない業者は潰れます。持たない方が楽ですが、昔の職長は大工から左官、鉄筋など全ての工種に通じていたため現場を統括できた。現在は職人の仕事が細分化されすぎてコンベア方式になってしまった。

■確かに。

北浦

良い職人の居る現場は良い仕事ができる。事故が起きず、品質も高く、生産性も良い。基本は良い職人を育てることで、かつて元請それぞれに独自の教育制度を持っておりましたが、現在はその余裕がなくなりました。ものづくりの原点崩壊で、その原点に返るヒントが70年代にあります。あの時代の建物には優れた物が多くあります。高度成長期の理論をそのまま現在に当てはめようとするところに無理があります。リスクの伴わないメリットはない。だからリバー産業は残っている。大阪のデベロッパーが直接工事を発注することは大変なことですがこれこそが原点に帰る姿だと思っております。仲介を省くことで同じ品物がユーザーに安く提供できる、あたりまえのことですが努力の賜物です。

■自社施工となった経緯は。

当社は土木工事業が始まりでしたが官庁工事が殆どであり、競争原理が働かない上に創意工夫ができず「これはおかしい」と思い、十数年前に公共工事からは手を引き、デベに特化してきました。自社施工は、もともと協力会が入っており素地はありました。直営でやると決めた時、責任は全て取ると社員には言いました。より川上に、メーカーや資材に近づくなど、出来る限りのコストダウンに取り組みました。また、現場を知らずに改善案が生まれることはない。いろんなアイデアは現場から出ます。例えば、マンション工事で配管を隠そうとボックスを入れると部屋の壁が厚くなるため、思案していたところ、配管ルートを変えることによって壁を厚くする必要がなくなり、その結果コストも安くなり廊下も広くなりました。これらは現場でないと出てこない意見で、設計者では出てきません。現場ならではの知恵があります。だから私は現場にこだわり大事にするわけで、現場と密着すればこそアイデアが生まれるわけです。

■建設業は言うに及ばず不動産も大きな不況の中にありますが、現在の市場動向を
どう見ておられます。

現在のマンションや不動産市場は完全にデフレ傾向にある買い下がりの状況で、特にストックに対するデフレは日本の場合、欧米と比べ極端で、 土地は四分の一から五分の一と、株価以上に動きが激しい。この影響受けるのが銀行、デベロッパー、建設業で今後、ますます厳しくなってくる。 そうなると住宅需要も半分位に減ってくる。しかし住まないわけにはいかず、ユーザーニーズはお金はあっても使いたくないが、広い家には住みたい。 住宅減税がありローン金利も安い。それでも売れない。将来への不安がそれに輪をかけている。ローンが終了した頃には住宅自体の資産価値がなくなっている。 日本のスクラップ&ビルドの体質のおかしさが出てきている。

■その中で、リバー産業のエコマンションシリーズは好調のようですね。

中古市場でも当社のマンションは値下がり率が低い。それは環境への配慮が受けているからです。まだエコという呼び方もない時代から先駆けて 取り組んできたことが理解されてきたためで、とにかく顧客ができないことをやろと。エコについては40年前から実践しておりましたが、当時は誰も認知しておらず、 全く関心を示されませんでした。岸和田市で戸建て住宅の105戸で日照4時間を確保したことが最初で、これは全国でも初めてのものです。道路や公園の配置、 北側敷地の基礎を上げたり、コストはかかりまえしたがいろいろな工夫を凝らしました。また京橋では、駐車場を大阪市初の自走式としたほか、ふんだんに緑を採り入れました。 これは私自身が庭のない家が嫌いなこともあります。

■先頃、流山市の市長が訪れ、エコのまちづくりへの協力依頼があったとお聞きしましたが。 

ええ、リバー産業のエコマンションを建設してほしい、官民一体となった緑とエコのまちづくりに力を貸してほしいと、エコで人口を増やしたいと 申し入れがありました。私は緑や水は最大のエコだと思っております。

北浦

マンションや住宅を購入する場合のポイントとしては現場を見ることです。現場で職人の意見を直接聞くこと。職人は本音で話しますから、購入金額に 見合った工事をしているかどうか。実際に仕事をじている者が一番よく分かっている。だからこそ良い職人を使い、粗末にしないことが大事です。ユーザーにとっては 高い買物ですから。また、マンションの安い高いは売主が言うことではなくユーザーが決めることです。腕の良い職人が建てた建物は品質も良く事故もない、 さらに工期も短く、結果的にコストも少なく済むことになるものです。

顧客ターゲットも変わりつつあります。当社ではユーザーは創造しろと言ってあります。時代は変化しますから。例えば先日着工したリバーガーデン 井高野ECOは駅からは少し遠いですが、周辺環境が良好のため、戸建てに優る価格とエコポイント、駐車場完備などの設備を備えることで人気物件となりました。

■職人と一体となった現場主義の実践も寄与している。

セル方式に遅れた建設業は名義人でかろうじて職人を守ってきたが万博以降、名義人制度が違った形で発達し、職人がサラリーマン化してしまった。 職人を大切にしインセンティブを与えながら、将来の面倒をみて職人の気質を心を大切にしてきた。職人も従来からの元請を大事にしてきたが、系列主義が崩壊し、 また大手ゼネコンだからといっても仕事が出ない状況になってきた。かつての請負制度も根本的に変わっていく中で、誰が左官工事や鉄筋工事をするのか。

北浦

名義人でも職人を持たないところも多い。名義人という制度だけを利用した名ばかりで中身がない。そう言う時期にデベで直営工事ができることはチャンスです。 かつてのような親方子方の関係はなくなった。時代が変わったというが古いものでも良いものは良い。

ただ、面白い時代でもありチャンスでもある。これまで変わらなかった建設業界ですが、仕事のない現在では変わらざるをえないと見ております。 建設業界では電鉄や財閥、銀行の系列デベロッパーがお得意様で我々のような地元デベロッパーは相手にされなかった。しかし、それら系列デベロッパーが 住宅のことを分かるのか、直営で工事はできない。そこのところで現在ではチャンスがあると思っております。

北浦

人を育ててきた日本の良い制度が崩れてきた。宮大工と左官、野帳場大工等の職人は残っていくでしょう。ゼネコンさんの下の技術技能の伝承も難しくなっていく。 田畑と一緒で技術の伝承も途切れてはだめ、元に戻すことはなかなか難しい、我々も技能者会などで訴えておりますが、なかなか理解してもらえない。 だからデベロッパーが考えてほしい。ただ、何も職人ばかりを大事にしろとは言ってない。要はバランス良くやってほしいということ。デベロッパーも職人を育てようと 思う姿を見せて欲しい。リバー産業の様な考え方をするデベロッパーが多く出てくれば建設業再生の道もあると考えています。

行政や発注者が職人にインセンティブを与えることができるか、できない。我々のようなデベロッパーなら出来る。所詮は心の問題で、 いかに職人に目を向けていくか。職人気質の価値観を認めること。使い捨てはだめ。職人は絶対必要で、現在のゼネコンが出来ない職人の心を大切すること。 職人と一体となってやらないと生きていけない時代で、今がちょうど、その良いチャンス、時期ではないかと思います。

■それぞれのお話は、職人さん達ばかりでなく、建設業のあり方に対する多くの示唆が含まれてるように思います。 今後も、それぞれのお立場でご尽力下さい。ありがとうございました。



Copyright (C) 2000−2009 NIKKAN KENSETSU SHINBUNSHA. All Rights Reserved.
当サイトを利用した結果に関するトラブルなどに関しては、当社としては一切責任をとりかねます。