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interview
大阪市都市整備局 平岡博局長  【平成22年5月31日掲載】

まちづくりの主人公は住民

歴史・文化的な地域固有の環境を生かして

HOPEゾーン事業重点に 


大阪市の住宅政策やまちづくり施策、さらに土地区画整理・市街地再開発事業、市設建築物の建設・整備など広範囲の事業を展開し、市民の安全で安心、快適な都市空間、居住空間を創出している大阪市都市整備局。時代の変遷とともに、まちづくりの手法も大きく変わり、歴史や文化を重視し、住民主体のまちづくりへ転換を図っている。「まちづくりの主人公は住民」と語る都市整備局の平岡博局長に、まちの魅力を引き出す秘訣などについて聞いてみた。(編集部・水谷次郎)

■局長は昭和52年4月に大阪市に入られて以来、都市計画、建築指導、住宅政策など、長年、政策部門に就いておられました。改めて新局長に就任された決意、抱負などについてお聞かせ下さい。

平岡局長

都市整備局は市民生活の基礎となる、住まい・まちづくりを担当している部局であり、改めて責任の重さを痛感し、身の引き締まる思いです。近年の経済環境はめまぐるしく変化し、大阪市を取り巻く状況も大変厳しいものとなっています。事業の推進に当たっては、より優先度の高い事業に重点化を図るとともに、これまで以上に創意工夫をこらしながら取り組んでいかなければならないと思っています。

■まちづくりや住宅建設も、大きく変わってきましたね。いま、どのようなまちづくりを目指しておられるのですか。

平岡局長

これからは、そのまちに本当に愛着を持っておられる方々とともに、まちの魅力を引き出す、魅力をもっと高めていく事業に力を入れていかなければならないと思っています。11年前に大阪の住まいやまちの魅力を掘り起こしていくという「HOPEゾーン事業」に取り組み始めました。歴史的な建物やまちなみの修景、地域文化の伝承・発展を図るなど、地域固有の環境を生かしたまちづくりを進めるもので、HOPEという言葉には、本来の「希望」という意味も込められています。事業地区も徐々に増え、今では平野郷・住吉大社周辺・空堀・船場・天満・田辺の6地区で事業を展開しています。

■田辺地区では5月に修景事例の見学会が行われました。私も参加させていただきました。

平岡局長

ありがとうございます。HOPEゾーン事業は行政が主体ではなく、地域の人たちと一緒に進めていくというのが一番の特色です。各地域には、まちの歴史や文化をよく知っておられる人たちがおられます。地区ごとに地域の方々がガイドライン(まちなみづくりの基本的な方針)を定め、それに沿ってまちづくりを進めていきます。その取り組みを支援するために、大阪市は建物や門、オープンスペースなどの修景整備(新築・改修)に対して補助などを実施しています。HOPEゾーン事業に最も早く着手した平野郷地区は、環豪都市の面影を伝える豊富な歴史や資源が残る地域です。これまで多くの建物が修景整備され、まちなみにあわせた道路の美装化なども行われています。また、田辺地区は旧街道筋を中心に、。市内にはほとんどみられなくなった農村集落が残っており、この街道筋の農村集落がまちづくりの一つの大きなテーマになっています。地域にはホタルを飼っているた人もおられ、昨年は親子でその街道筋を歩くイベントを実施されました。各地域では、こうしてまちを愛している人たちが協議会を結成して、住民の方々が自らまちづくりを行っているのがこの事業の最大のポイントです。

■田辺地区の会長さんも、今後も親子で特に旧街道を歩くイベントを実施し、HOPEゾーン事業に関心を持っていただきたいと言っておられました。

平岡局長

大変意義深いイベントだと思います。田辺地区では、街道と歴史が織りなす「にんやか田邊郷」というテーマでまちづくりを進めておられます。協議会が結成されてだ2年目ですが、子どもも交えてみんなで、実際に庚申街道や市高野街道といった旧街道を歩いて、にぎやかで活気のあるまちにしていこうとされているのだと思います。田辺地区の会長さんも非常に熱心に熱心に取り組んでおられます。

■次ぎに市営住宅の建設・維持管理についてお伺いします。

平岡局長

本市の市営住宅は、戦後からの急激な人口流入による絶対的な住宅不足に対応するため、昭和30〜40年代に多く建設されました。現在では新たな用地取得を伴う新規建設の計画はなく、ストック総合活用計画に基づいて、老朽化した住宅の建て替えや改善事業を実施しています。建て替えに際しては、土地の高度化を図るとともに、従前居住者の数に限定した建て替えを行い、生み出された余剰地などにおいてコンペなどにより、民間マンションや生活利便性の導入などを進めています。また、既存住宅では空き住戸に高齢者支援や子育て支援などに取り組むNPOなどの活動拠点の誘導などを行っています。

■高度利用で生まれた土地や空き家を有効活用するということですね。地域のニーズにも応えている。

平岡局長

市営住宅だけでなく、民間住宅についても市民ニーズに応えられるよう、補助事業、認定事業、表彰制度などにより、優良な住宅の誘導を実施しています。 例えば民間のマンションを大阪市が「子育て安心マンション」として大阪市が認定すれば、民間マンションの販売業者にとっては、 宣伝活動の際にそのことをPRできるほか、大阪市立住まい情報センターやホームページでも情報を発信しています。また物件によっては民間金融機関での 住宅ローンの金利が引き下げられるというメリットがあります。現在、竣工前の物件を含めて九件の子育て安心マンションを計画認定しており、 優れたマンションが建設されるよう誘導しています。このほか「防災力強化マンション認定制度」も設けており、災害に強いマンションを大阪市が認定しています。 さらに防犯カメラ設置費補助制度なども実施しており、安全・安心なまちの実現を図っているところです。

■大阪市では、民間住宅に住む新婚世帯向けの「家賃補助制度」を実施していますね。かつて新聞などでは「新婚さんいらっしゃい」という言葉が使われていました。

平岡局長

この新婚世帯向け家賃補助制度は、受給開始後の36カ月目までは1万5千円、同37カ月目以降は2万円を限度に家賃補助を行っているものです。 これまでの調査によると、需給期間終了後も約6割の方は継続して大阪市に住んでいただいており、若年層・中堅層の市内定住を促進しているものと考えています。

■様々な補助制度があるのですね。大阪市の人口の推移はどうですか。

平岡局長

近年ではわずかながら増加傾向にあります。しかしながら30〜40歳代の中堅層は市外への転出傾向が続いています。世帯の住宅選びの傾向を見ますと、 新婚世帯については賃貸住宅にお住まいの方が多く、子育て期になると住宅を取得する方が多いことが分かっています。そのため、子育て世帯が住宅を購入する際に、 住宅ローンの利子の一部を補助する「子育て世帯向け分譲住宅購入融資利子補給制度」や、子育てに配慮した仕様の住戸、子育て支援サービスの提供など、 ハード・ソフトの両面での基準を満たす優良な新築マンションを認定する「子育て安心マンション認定制度」などを実施しています。また、市営住宅においても 子育て世帯向け別枠募集なども行っています。。

■密集市街地の整備も大きな課題ですね。

平岡局長

JR大阪環状線外周部を中心に老朽木造住宅の密集する市街地が広く分布しています。こうした老朽木造住宅については、耐震診断や改修に要する費用に 対して補助する制度などを実施し、耐震化を促進するとともに建て替えを行う際には、老朽住宅の除却費や建替建設費補助などを行う民間老朽住宅建替支援事業を 行っています。また、老朽住宅を建て替える際には、建築基準法に基づき、幅員の狭い道路に面する建物は、壁面を道路中心線から2メートルずつセットバックさせ 道路の両側で建て替えられたところでは4メートルを確保することになっていますが、セットした部分に植木鉢を置いたり植樹したりするケースみられます。 せっかくセットバックしても、災害時や緊急時における消化・救済活動や避難などに重大な支障となることなどから、道路などを担保するために、大阪市では住宅の 建て替え時に合わせて、セットバックされた道路形態に舗装整備する「狭あい道路拡幅促進整備事業」を実施しております。

■建物の耐震化や密集市街地の整備などについても市民との協働、住民主体で行われいるのですね。

平岡局長

耐震改修については、補助事業の推進と合わせて、普及啓発や改修を実施しやすい環境を整えていくことが重要です。 大阪市では、公的団体や建築関係団体と連携して「大阪市耐震改修支援機構」を設立し、出前講座や個別相談会を実施するとともに、安心して任せることのできる 事業者の紹介などを実施しています。こうした取り組みにより耐震改修の補助制度もずいぶん周知され、補助制度を使って改修されているケースも多く見受けられます。 昨年あたりから補助件数が増えてきました。また、密集市街地については、生野区南部地区において約100ヘクタールを対象にモデル事業を実施しています。

■生野区南部地区のモデル事業について具体的に教えて下さい。

平岡局長

生野区南部地区は戦前長屋や老朽住宅が多く、狭隘道路が密集する地域です。一方で古くからのコミュニティーが息づく地域でもあります。 従来であればクリアランス型の事業を行うところですが、生野区南部地区では地域住民の方々との協働により、修復型のまちづくりを進めています。 住民の人たちが問題意識を持って協議会を結成し、ワークショップの開催などを通じてまちづくりを進めています。受け皿住宅や道路舗装など、 行政がどうしても実施しなければいけないところを除いて、住民の方々が自らまちづくりの画を描いています。ユニークなのは300平方メートル程度の まちかど広場づくりです。各種のイベント開催や避難場所としても利用できるように工夫され、現時点では6カ所整備されています。 行政はアドバイザーを派遣して、議論のお手伝いはしますが、計画は住民の方々が練り上げていきます。まちかど広場には住民の方々が考えた遊具があり、 その遊具で子どもたちが元気に楽しく遊んでいます。住民の方々が自ら企画し、自らの住民の責任において、維持管理を行うものです。まちづくりの 主人公は地域の人たちです。私も地域のパワーを感じており、頼もしく思っています。これが本当の協働と言えるのではないでしょうか。

■同感です。まちづくりには、HOPEゾーン事業なども含めて、住民の自主精神が本当に大事なことがよく分かりました。きょうはありがとうございました。

(ひらおか・ひろし)昭和52年3月京都大学大学院工学研究科終了。同年4月1日大阪市に入り、平成7年4月計画局建築指導部指導課長代理、9年4月都市整備局計画開発部企画主幹、11年4月同計画開発部住宅政策課長、15年4月住宅宇局企画部長、20年4月都市整備局理事、22年4月から都市整備局長。大阪市出身、58歳。


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